DAZNマネーは日本に何をもたらすのか? 代理人が移籍市場から見た今季のJリーグ

宇都宮徹壱

鹿島が「ビッグクラブになれない」理由

数多くのタイトルを獲得してきた鹿島だが、ヨーロッパにおけるビッグクラブの要素は満たしていない 【写真:アフロスポーツ】

(分配金はJ1クラブに厚く支払われるが)それはやはり、Jにビッグクラブを作りたいという思惑があるからでしょうね。でも、ここで考えなければならないのが「ビッグクラブの定義とは何?」ということだと思うんですよ。

 去年のクラブW杯決勝で、レアル・マドリーと真っ向勝負を挑んだ鹿島はどうか? ヨーロッパにおけるビッグクラブの要素に照らすならば、明らかに違いますよね。ビッグクラブのホームタウンは、ロンドンやミラノ、マドリー、バルセロナなど、サッカーとは関係がない人でも知っている都市なんです。あるいは国際空港があるとか。残念ながら、鹿島はそうではない。予算規模が大きい浦和レッズも、ちょっと難しいと思います。

 では、日本でビッグクラブが生まれる可能性がある都市はどこか。東京や大阪、名古屋、あとは札幌や福岡。地理的な条件以外に、ビッグクラブで重要なのは観客が入ることですね。以前の欧州は、放映権収入が先行していましたけれど、今は入場料収入と放映権収入の両輪になっています。ですからスタジアムを新しく建て直したり、VIPボックスを作って売ったり、試合を開催することでお金を稼ぐようにしている。そうなると、やはり大都市を本拠としていることが、ビッグクラブの必須条件になりますよね。

 もちろん、鹿島みたいなクラブがあるのはいいと思うんですよ。CL(チャンピオンズリーグ)でも毎年1チームくらい、大きな都市でないホームタウンのクラブがあるじゃないですか。例えばビジャレアルみたいな。本質的なビッグクラブにはなれないけれど、大会で好成績を残すことで世界的に有名になるという話は割とありますよね。あるいは名古屋みたいに世界的な企業がバックについている、ヴィッセル神戸みたいにお金持ちのオーナーがいてバーンとお金を出すとか、いろいろあっていいと思います。

 今の日本には、大都市にあって観客がたくさん入って、スポンサー収入も潤沢で、タイトルもたくさん獲得できるクラブというのは存在しないんですよね。でももし、DAZNマネーによって日本国内にもビッグクラブが生まれたら、どうなるか。これまで海外志向一辺倒だったのが、今後は「国内のビッグクラブで活躍する」ということも、選択肢の1つになるかもしれない。先ほど申し上げたように、日本人選手の年俸をアップすることによって、Jリーグが活性化する可能性は十分にあると思います。

選手獲得に見るFC東京と鹿島の違い

田邉氏は鹿島の移籍戦略を「スキがない」と評した 【宇都宮徹壱】

 選手の移籍に関しては、もっといろんな見方があっていいと思います。考え方の原則として「レギュラークラスの選手かどうか」というのがポイントになると考えます。たとえばFC東京は今オフ、非常に積極的な補強をしたという評価をされています。大久保、高萩、永井謙佑(←名古屋)、太田、林彰洋(←鳥栖)。誰が見ても「レギュラーで考えているだろうな」という選手ですよね。「出来上がった選手」だから、お金をいっぱい使っている。それだけ本気で優勝を、13億円を狙っているんでしょうね。

 FC東京と同じくらい、積極的な補強を試みたのが鳥栖でした。たぶん今オフ、J1クラブで一番オファーを出したのではないでしょうか。でも、それほど思い通りの選手を獲得できたようには見えませんでした。移籍が決まったのは、水野晃樹(←ベガルタ仙台)、小林祐三(←横浜FM)、小川佳純(←名古屋)、あとは小野と権田修一。このうち、小野と権田以外は3人とも契約満了の選手です(権田はFC東京と契約解除)。つまりそこは「お金だけの問題ではない」ということですよ。さっきの「ビッグクラブの条件」の話とも関連する、地理的なハンディが背景にあるのかもしれません。

 浦和は、このところ堅実な補強を心掛けていますよね。失敗もあるけれど、武藤雄樹のような成功例もありますし。ただ、成功率ということでいうと、やはり鹿島のほうが高いと思います。今季の鹿島は外国人選手を入れ替えて、日本人に関してはアビスパ福岡の金森健志や湘南ベルマーレの三竿雄斗ら、前所属がJクラブで伸びしろがある選手を入れている。かつての鹿島は、高卒の新人を獲ってきて鍛え上げるのが主流でしたが、だんだんJリーグ経験者にシフトしています。とはいえ、瀬戸内高校(安部裕葵)と東福岡(小田逸稀)からも選手を獲得している。時代に合わせてアレンジを加えながらも、基本コンセプトは絶対に崩さないんですよね。

 新加入選手を見てみると、鹿島よりも浦和の方が少し年齢が高く、浦和よりも年齢と経験値の高い選手を獲得しているのがFC東京。こうした傾向からも、クラブが目指しているものがどこにあるのか、よく表していると思います。短期的に見れば、お金を使ったFC東京の戦力は魅力的です。でも、もう少し長い目で見ると、鹿島の補強は実にスキがないと思いますね。鹿島はディフェンディングチャンピオンですが、彼らは(昨シーズン)年間勝ち点1位の浦和に15ポイント差を付けられた事実をしっかり認識していて、それをどうやって埋めていくかを考えて補強している。加えて戦い方にブレがないし、勝者のメンタリティーも持っている。そうして考えると、今季も鹿島がひとつ抜けているという感じがしますね。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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