五輪を経験した今、大島僚太が思うこと 「サッカーのことなら何でも知りたい」

原田大輔

川崎フロンターレの大島僚太に五輪を経て抱いた野望や目標を語ってもらった 【スポーツナビ】

 日本代表のヴァイッド・ハリルホジッチ監督は、8月25日に行われたワールドカップ(W杯)・ロシア大会アジア最終予選UAE戦とタイ戦に臨むメンバー発表会見で、次のように語った。
「彼らがA代表に何かをもたらす可能性はかなり高い」

 指揮官が期待を表したリオデジャネイロ五輪代表――その“彼ら”の1人こそ、川崎フロンターレでプレーするMF大島僚太である。

 結果こそグループリーグ敗退だったが、大島はU−23日本代表として臨んだリオ五輪で、ひときわ眩い輝きを放った。ボールを持てば、確実に前線へと縦パスを入れ、チャンスと見れば自らドリブルで仕掛ける。その積極果敢なプレーは、初戦のナイジェリア戦でも、続くコロンビア戦でもゴールを呼び込んだ。迎えたスウェーデンとの第3戦で、日本に歓喜をもたらす契機を作ったのも大島だった。後半20分、相手が密集する左サイドをドリブルで突破すると、矢島慎也のゴールをアシスト。勝利してもなお、準々決勝進出はかなわなかったが、大島は五輪という国際舞台で確かな“違い”を見せつけた。

 世代別代表としての活動は終了した。次なる活躍の舞台はA代表となる。今回のW杯最終予選に向けたメンバーで、U−23日本代表からA代表へと引き上げられたのは大島と、すでにA代表での出場経験がある浅野拓磨の2人だけだ。まるで吸水力抜群のスポンジのように川崎で成長し続ける大島に、五輪で実感したこと、大会を経て抱く野望や目標を聞いた(取材日:2016年8月21日)。

自分の良さを引き出してもらえた

五輪代表はボールをつなぐことを得意とする選手が多く、良さを引き出してもらえたことが大きかったという 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

――グループリーグ敗退となった五輪でしたが、大会を終えて抱いた心境は?

 グループリーグを突破できていれば、準々決勝の相手はブラジルだったので、個人的には大会直前に対戦して衝撃を受けていただけに、もう一度戦ったらどれだけできるのか楽しみにしているところもありました。その思いで第3戦のスウェーデン戦には臨んでいたので、「もうちょっと、やりたかったなあ」という気持ちが湧いて、悲しかったですね。

 大会前から、初戦、初戦と言われ続けていたこともあって、自分たちとしても分かっていたつもりではいましたけれど、あらためてああいう国際舞台では、初戦が重要ということを痛感しました。ただ、その結果を招いてしまったのも自分たち。だから、仕方がないと言えばそれまでなのですが、それだけでは片付けられないもどかしさはあります。

――今年1月に五輪出場を懸けて戦ったAFC U−23選手権(五輪最終予選)で、大島選手はどこか個性を生かし切れていないように感じました。それが五輪ではまるでチームの中心にいるかのように存在感を発揮していましたね。何が変わったのでしょうか?

 予選で力を発揮できなかったことは、自分でも感じていました。グラウンド状況もあったのですが、チームとして全員守備というスタイルがあって、少し大げさに言えば、前線にボールを蹴って陣地を挽回する。セーフティーにプレーしようという考えが、チームとして第一にありました。その中で自分自身が対応し切れなかったところはありましたね。

 でも、五輪ではボランチへのプレッシャーがきつくなかったというのもひとつですが、自分でも「何でなのかなあ」って思っていたんです(笑)。オーバーエイジ(OA)の選手が加わり、同年代の選手たちもJリーグの試合の中でいろいろと学び、(ボールを)つなげるようになったからかなと思っています。やっぱり、(OAの)シオくん(塩谷司)もハルくん(藤春廣輝)も(興梠)慎三さんもみんな、ボールをつなぐことができる。その結果、自分の良さを引き出してもらえたのかなと。

――チームメートの理解が、自分の良さを発揮できた最大の要因だと?

 そうですね。その分、自分でもパスを呼び込む努力はしましたけどね。ナイジェリア戦に関して言えば、先に失点はしましたが、すぐに同点に追いつくことができ、チームの中で“崩せる”という自信にもなりました。ただ、守備がベースのチームだっただけに、4得点という結果以上に、5失点という数字の方がまずかった。

大会期間中に抱えたさまざまな葛藤

五輪で高いパフォーマンスを見せた大島だが、大会期間中にはさまざまな葛藤もあった 【スポーツナビ】

――結果的に準々決勝進出はできませんでしたが、勝たなければならない状況で臨んだ第3戦のスウェーデン戦で、矢島選手の得点をアシストした突破には、日本中がシビれました。

 フロンターレではあまりしないプレーかもしれないですね。(矢島)慎也が途中交代で入ってきたとき、手倉森誠監督からの「攻撃にいくぞ」という合図だと思いました。(得点シーンは)左サイドでパスを回すと、慎三さんにスウェーデンの選手が3〜4人くらい、グッと寄ってコースを消したんですよね。それで縦にコースができたので、これは仕掛けられるなって直感した。

 でも、突破して一度、中を見たときには、DFと被っていたのか、慎也のことは見えなかったんです。だから、誰か走り込んで来てくれって思いながら、もうひとつボールを持ち出した。あそこで誰もいなかったら、次のアイデアはもうなかったんですけどね。慎也は予選のときも良いタイミングで走り込んできてヘディングで決めていたので、やっぱり持っているんだなって思いました。

――グループリーグでの敗退が決まり、自分が思い描いていたよりも早く帰国することになったと思います。五輪での3試合を通じて感じた手応えと課題はどこですか?

 チームとして良い距離感を保てれば、世界を相手にも崩せるとは感じました。1対1の部分では、攻守ともに身体的なところでやはり個人差はありました。だからこそ、守備においても数的優位を作って守ることができたら、勝利につなげられたのかなと。

 自分の中では、五輪3試合を通して得点が増えていた分、失点も多かったので、予選のときのように、もっと守備を固めた方が良かったのかなという葛藤もありました。自分自身もコロンビア戦のように途中出場して、攻撃にアクセントを作ることが、この世代においては一番生きるのではと考えたところもあった。いくら自分が得点に絡んでも、チームが勝てなければ意味がないですから……。そういうことも大会期間中は考えましたね。

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著者プロフィール

1977年、東京都生まれ。『ワールドサッカーグラフィック』の編集長を務めた後、2008年に独立。編集プロダクション「SCエディトリアル」を立ち上げ、書籍・雑誌の編集・執筆を行っている。ぴあ刊行の『FOOTBALL PEOPLE』シリーズやTAC出版刊行の『ワールドカップ観戦ガイド完全版』などを監修。Jリーグの取材も精力的に行っており、各クラブのオフィシャルメディアをはじめ、さまざまな媒体に記事を寄稿している。

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