これからフランスで観戦するあなたへ テレビに映らないEURO スタジアム編

宇都宮徹壱

テロの脅威を感じることはなかったけれど

今年1月にオープンしたスタッド・ドゥ・リヨン。約5万9000人収容の専用スタジアムだがアクセスに難あり 【宇都宮徹壱】

 現地時間6月10日からフランスで開催されているユーロ(欧州選手権)2016。22日でグループリーグが終了し、2日間の休息日を経て決勝トーナメントがスタートする。もっとも私の場合、19日にリヨンで行われたルーマニア対アルバニアをスタジアムで観戦して、翌日には帰国の途についた。

 ある友人から「そんなに早く帰ってくるんですか? 大会が面白くなるのはこれからなのに」とあきれられたが、今回はアルバニアとかアイスランドとか北アイルランドといった初出場のチームとそのサポーターに出会うのが主目的だったので、私としてはこれで大満足。決勝トーナメントについては、日本に帰国してからのんびりテレビ観戦することにしたい。

 さて今大会は、パリのパルク・デ・プランス、サンドニのスタッド・ドゥ・フランス、リールのスタッド・ピエール・モロワ、マルセイユのスタッド・ベロドローム、そしてリヨンのスタッド・ドゥ・リヨンを訪れた。実際にスタンドで観戦したのはリールとリヨンのみであったが、10会場の半分は回ったことになる。そこで今回は、スタジアムへのアクセスや会場内で感じたことを中心にお伝えすることにしたい。特にこれから現地で観戦する方に、多少なりとも参考になれば幸いである。

 まず、現地に関して多くの方が心配されているのが、テロのリスクであろう。結論から言えば、滞在期間中にそうした脅威を感じることはまずなかった(時折マシンガンを持った武装警官の姿を見ることはあったが)。むしろ気をつけたいのは、サポーター同士の衝突。11日にマルセイユで起こった事件(イングランドとロシアのサポーターが衝突)のように、こちらのほうが椅子やらビンやらが飛んできて非常に危険だ。不穏な空気を感じたならば、一刻も早くその場から立ち去るべきである

 もうひとつ不安に感じることがあるとすれば、やはり言葉の問題ではないだろうか。だが、こちらについても心配ご無用。最近のフランスは地方都市に行っても、かなり英語が通じる。こちらが下手くそなフランス語で話し掛けようとすると、むしろ英語で返してくることのほうが多い。それぞれの開催地に行けば、鉄道であれメトロであれ、非常に分かりやすい形でスタジアムへの案内表示が出ているし、切符の買い方が分からなければボランティアスタッフが英語で助け舟を出してくれる。スタジアムに向かうにあたって、言葉の面で苦労することはほとんどないのでご安心いただきたい。

カメラはNGなのに発煙筒はスルー?

鉄道やメトロの駅では、このようなスタジアムやファンゾーンへの案内表示をあちこちで目にする 【宇都宮徹壱】

 スタジアムに到着して最初の関門となるのが、手荷物検査とボディチェックである。Jリーグのような「アリバイ」程度のチェックではなく、リュックの中身は徹底的に検分されると考えたほうがよい。ここで気をつけたいのが、カメラに関して。ビデオカメラ、およびプロユースの一眼レフカメラは基本的に持ち込むことができず、係員に預かってもらうことになる(プレハブの施設に窓口があり、引換券を渡してくれる)。

 私はここ数年、プレミアリーグやリーガ・エスパニョーラなどの欧州主要リーグ、そしてチャンピオンズリーグやヨーロッパカップなどをチケット観戦しているが、今回のユーロだけがカメラの持ち込みが不可であった。もっともリールの会場では、一眼レフカメラを首からぶら下げている観客もいたので、係員によって「プロユース」の考え方にばらつきがあるのかもしれない。おそらくミラーレスの一眼レフであれば、問題なく持ち込めるような気がする。

 かようにカメラの持ち込みに関しては非常にシビアなのだが、そのくせ発煙筒は簡単に持ち込めてしまえるようだ。17日にサンテティエンヌで行われたチェコ対クロアチアの試合では、一部クロアチア・サポーターが発煙筒をピッチに投げ込んで(自国協会への抗議だったと言われる)試合が一時中断になったし、リヨンでのルーマニア対アルバニアの試合でも両チームのサポーターが派手に発煙筒を焚いていた。カメラにいちいち目くじらを立てるよりも、こっちのほうを厳重に取り締まってほしいものである。

 スタジアム内で不満に感じたことが、もうひとつある。それは食事。Jリーグのような「スタメシ」をユーロで期待してはいけない。メニューはサンドイッチかハンバーガー、たまにタコスやケバブもあるが、バリエーションは極めて限られている上に割高感が否めない。リヨンのスタジアムでは、味も素っ気もないハンバーガーが6ユーロ(約708円)、ミネラルウォーターが4ユーロ(約472円)、合計10ユーロ(約1180円)も払ってこの程度かと、軽い“殺意”のようなものを覚えた。ちなみにビールについては、アルコール度数が0.5%の水っぽいものしか売っていない。

 もちろん、スポンサー縛りという事情は理解できる。が、美食の国での大会にもかかわらず、この食事の貧しさは何とかならないものだろうか。これが日本だったら、夜の試合に備えて早めに夕食をとることも考えられるが、フランスの場合だとレストランがディナーの営業を始めるのは20時くらいから。これでは21時キックオフの試合には間に合わない。夜の試合を観戦する場合は、昼食を豪華にして夕食は粗食に耐えるという割り切り方をしたほうが良さそうだ。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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