白井健三、際立つ“異質な”才能 悲願の団体金へ不可欠な存在に

スポーツナビ

跳馬の新技は失敗も、床は4連覇達成

初の五輪代表に選出された白井健三。笑顔を絶やさない19歳の“異質な”才能とは!? 【写真は共同】

 どちらかと言うと寡黙な選手が多い体操競技において、白井健三(日体大)は異質な存在に映る。とにかくポジティブなのだ。試合中も声を張り上げて仲間を応援し、たとえ自分の演技でミスをしても、笑顔を絶やさない。もちろん悔しくないはずはないのだが、それを表情には出さない。

 5日に行われたリオデジャネイロ五輪代表の最終選考会を兼ねた全日本種目別選手権決勝でも、それは変わらなかった。各選手がプレッシャーで硬くなっている中、彼はその緊張を楽しんでいるようにさえ見えた。確かに出場した床と跳馬は彼の得意種目であり、よほどのことがない限り代表選出は確実視されていた。しかし、選考会独特の雰囲気にのまれず自然体でいることは、19歳という年齢を考えればそんなに簡単なことではなかったはずだ。

 そうした状況でも彼は床で圧倒的な力を発揮する。G難度の「リ・ジョンソン(後方抱え込み2回宙返り3回ひねり)」、自身の名前がついた「シライ2(前方伸身宙返り3回ひねり)」、最後は「シライ/グエン(後方伸身宙返り4回ひねり)」を決めて、16.650点をマーク。2位に0.8点差をつけてこの種目で大会4連覇を達成した。

 続く跳馬は、大会前から新技挑戦への期待が高まっていた。「伸身ユルチェンコ3回半ひねり」。新技だから当然誰も成功させていない。五輪選考会でやるにはリスクが伴う。それでも彼は「攻める」ことを選んだ。結果は3回ひねりとなり、着地も乱れた。順位は5位で、手を合わせながら観客席に向け謝る仕草を見せた。

「3回半を跳ぼうと思ったのに、3回になってしまいました。ああいった中途半端なことはしたくないので、やると決めたら尻もちをつくくらいの実施をしたかったんですけど、まだ経験が足りなかった。また跳べる機会が絶対に来ると思うので、そのときは積極的に跳んでいきたいと思います」

 跳馬ではミスが出たものの、床で優勝したこともあり、彼は無事に代表の座を勝ち取った。

内村が「宇宙人」と評す精神的強さ

日本のエース・内村航平(写真左)も白井の才能を認める1人。写真は5月のNHK杯のもの 【写真:長田洋平/アフロスポーツ】

 白井の“異質さ”をより理解しているのは、むしろ彼の周りにいる人たちかもしれない。彼を指導する日本体育大の畠田好章監督は、その独特の感覚に驚嘆している。本来であれば、五輪出場をほぼ確実としている中、ケガのリスクもある新技挑戦は避けたいところだった。しかし、畠田監督は彼の背中を押した。

「普通の選手ならば止めていたと思います。でも健三にはあのひねりの感覚があるからケガはないだろうと信じていました。床と跳馬に関しては、僕らには分からない本人の感覚があるので、そこは優先させようと思っています。3回半ひねりも見ている側からしてみれば、ひざとか足首とか危ないんですけどね。でもそれが危なく見えないのが、彼のすごさだと思います」

 そして日本のエースである内村航平(コナミスポーツ)もまた、彼に絶大な信頼を置いている1人だ。とりわけメンタル面の強さにおいては、人間離れしているとさえ評する。

「健三はどんな試合であっても常にいつもどおりやってくれる。期待以上のことというよりは、本当に普段の力を発揮して結果を残してくれる選手なので、後輩ながらに尊敬しますよね。どうやったらそうできるんだろうと、宇宙人を見るような感じで見ています(笑)」

 時に後進を慮って、厳しい言葉を発する内村の言葉だけに価値がある。こと白井に関しては手放しで賛辞を贈ることが多い。世界選手権の個人総合で前人未到の6連覇を達成した日本のエースにここまで言わせる彼の潜在能力は、まだまだ計り知れない。

1/2ページ

著者プロフィール

スポーツナビ編集部による執筆・編集・構成の記事。コラムやインタビューなどの深い読み物や、“今知りたい”スポーツの最新情報をお届けします。

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント