五輪切符を勝ち取った臨機応変の共通理解 「アジアで勝てない世代」の汚名を返上

川端暁彦

少しばかり驚きを与えた日本のスタメン

準決勝・イラク戦の日本のスターティングイレブン、手倉森監督はこの試合でもターンオーバーの方針を貫いた 【写真:ロイター/アフロ】

 嵐の予感すらあった。1月26日のドーハは、さすがに雨こそなかったものの、午前から曇天模様。印象的だったのは強風で、舞い上がった砂埃が目に入ってきて何とも面倒くさい天気だった。大会期間中、暑くもなければ寒くもない快適な試合環境を提供してきたカタールの空が、妙な悪戯(いたずら)心を起こさなければいい。そんな心配をしながら、決戦の地たるアブドゥラー・ビン・ハリファ・スタジアムへ向かった。

 そこで目にした日本のスターティングラインナップには少しばかり驚かされた。「痛みはある」と語っていたキャプテンのMF遠藤航の強行先発出場は想定内。負傷からの復帰を目指していたFW鈴木武蔵が先発に戻ったのも、多様な戦術に対応できるMF原川力の起用も、フル出場を重ねていたMF中島翔哉を継続起用したのも予想どおり。

 ただ、守備の柱であるDF岩波拓也を外してきたのは意外だった。手倉森誠監督はその理由を「ラインコントロールでのけん制の仕方に関して竜樹(奈良)が一番メリハリを付けられるから」と説明するが、それ以上に大会期間中に続けてきたターンオーバーの方針を貫いたという一面が大きかったようにも感じる。指揮官はそれを「流れ」と説明し、同時に「自分が選んだ武器はすべて使いたい」とも語った。

 対するイラクも先発を入れ替えてこの試合に臨んできた。準々決勝で延長を含めて120分の激闘をくぐり抜け、日本より休みが1日少ないという大会日程の妙もあった。試合後、アブドゥル・ガニ・シャハド監督は体力的に戻し切れなかったことを嘆いていたが、確かにダメージはあったのだろう。

 準々決勝ではセンターバックとして奮戦していた主将にしてA代表選手でもあるムスタファ・ナディム・アルシャバニを中盤の底に起用。蹴って競れてリーダーシップも取れる好選手だが、果敢にボールを奪いにいく姿勢がネガティブに作用することも多く、日本にとっては一つの狙いどころとなった。同じくA代表で30試合以上に出場しているMFフマム・タリク・ファラジはベンチにて温存。勝負どころでの起用をにおわせる配置は、日本ベンチに強い警戒感を与えるものだった。

見事なカウンターアタックで先制するも……

前半26分、久保本人も「自分らしいゴールだった」と語る見事な先制ゴールが決まったが…… 【写真:長田洋平/アフロスポーツ】

 日本は前半からリズム良くボールが動くシーンが相次ぐなど、好調な滑り出しを見せる。ただ、チャンスという意味では、14分にイラクがロングボールから決定機を1回作ったくらいの静かな流れだった。日本のファーストシュートにしても、前半も半ばを過ぎた26分まで待たねばならなかったのだが、これがゴールネットを揺らすことになる。

 きっかけは日本のボールロスト。イラクが速攻を狙って前へと重心をかけたところでのミスをFW鈴木武蔵が奪って逆襲につなげる。左サイドのスペースへ抜け出した鈴木は持ち前のスピードで爆走。左からのクロスに「絶対に来ると思っていた」と言うFW久保裕也が飛び込み、鮮やかにゴールネットを揺らす。1−0。「自分らしいゴールだった」とストライカーが胸を張る、見事なカウンターアタック。「決定力不足」という、おなじみのフレーズを忘れさせるような流れだった。

 ただ、試合は事前に想定されていたものと、ここから少し異なる流れをたどることになる。試合前に「すっきり勝つ」と宣言していた指揮官は、「(イラクが)間延びしてくるところに、ウチがボールを支配するタイミングもあった」と「すっきり」勝ち切る流れがあったことを示唆しつつ、同時に「1点目の取り方によって、ちょっとカウンター重視になった」と選手の心理面の変化を指摘した。理想的なカウンターアタックの実践によって、「『これでいいんだ』と思いすぎた」(手倉森監督)。気持ちが急いてオフサイドに引っかかるなど2点目を奪えない流れの中で、よもやの失点が生まれることとなる。

 前半43分、右サイドからのコーナーキックだった。低めの弾道を描いたボールは、ストーン(ボールに近いサイドの危険地帯に立ってはじき返す役目)を務める鈴木の守備範囲内に飛んできた。折りからの強風の影響もあったのだろう。少し変化したボールに対し、「僕のミス」(鈴木)。当たり損ねたクリアはゴール方向へ飛ぶ。まさかのオウンゴールの危機はGK櫛引政敏が防いだものの、こぼれ球をクリアしきれないまま、2度にわたってシュートされて万事休す。前半終了間際に失点するという最悪の展開となった。

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著者プロフィール

1979年8月7日生まれ。大分県中津市出身。フリーライターとして取材活動を始め、2004年10月に創刊したサッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』の創刊事業に参画。創刊後は同紙の記者、編集者として活動し、2010年からは3年にわたって編集長を務めた。2013年8月からフリーランスとしての活動を再開。古巣の『エル・ゴラッソ』をはじめ、『スポーツナビ』『サッカーキング』『フットボリスタ』『サッカークリニック』『GOAL』など各種媒体にライターとして寄稿するほか、フリーの編集者としての活動も行っている。近著に『2050年W杯 日本代表優勝プラン』(ソル・メディア)がある

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