“7−1”が日本サッカー界に与える影響 聖和学園が野洲に完勝した意味

中田徹

観客が静まり返るほどの衝撃

“7−1”で野洲に完勝した聖和学園が2回戦へと駒を進めた 【写真は共同】

 第94回全国高校サッカー選手権大会1回戦・三ツ沢会場の第1試合、青森山田(青森)対大社(島根)は満員の観客が試合内容に思わず“沸く”という雰囲気になったが、第2試合の聖和学園(宮城)対野洲(滋賀)は、とりわけ聖和学園の選手が繰り出す技に“見入る”、ちょっと変わった雰囲気になった。試合は、聖和学園がゴールラッシュを見せ7−1の圧勝。足元のテクニックで密集地帯を突破したと思えば、浮き球を使って野洲のプレスをかい潜る聖和学園の高度な個人技に「やべえ」「見入っちゃうね」「野洲がやらせてもらえない」と観衆はひそひそと独り言を繰り返すばかりだった。

「僕らベンチにいると、(観衆の)みんながシーンとしてたので、逆に気持ち悪い感じではありましたけれど(苦笑)」(聖和学園・加見成司監督)
 
 この静かな雰囲気は、“あの”野洲が思わぬ大差をつけられてしまった事件の目撃者となった観客が、どう反応していいのか分からなくなってしまったことも多少影響したのかもしれない。

「そうかもしれませんね。僕もこんなふうになるとは思わなかったですね。皆さん、野洲さんを観にきたと思います。その中で聖和学園がどうやるかというのが、皆さんの見方だったと思います」(加見監督)

「野洲さんは憧れでもあり目標でもあった」

 加見監督は、かつて聖和学園女子サッカー部を率いた時、パスサッカーにドリブルを加え全国優勝した経験を持つ。それから男子サッカー部を率いるようになったが、最初はなかなかうまくいかなかったらしい。

「学校が男女共学になってから3年目に、野洲さんが選手権で優勝した。その映像を見た3年生が『あぁ、先生はこういうサッカーをしたかったんだ』と理解し、引退してからサッカーがうまくなりました(笑)。やっぱり僕にとっても野洲さんは憧れでもあり、目標でもあった。そこは今日どういう勝ち方をしても変わらない部分じゃないですか。今回は点数は開きましたが、また切磋琢磨(せっさたくま)して、育成も含めてこだわりを持ってやるチームが増えたらいいなと思います」(加見監督)

 10年前、野洲は鮮やかな攻撃サッカー=セクシーフットボールを披露し、選手権で優勝。日本サッカー界に大きな影響を与えた。この日の“7−1”は、逆に野洲に「聖和よりうまくなろう」「彼らより強くなろう」という新たな目標が生まれた日になるのだろうか。目を赤く晴らした山本監督が答える。

「10年前、『日本の高校サッカーを変える』と言って、実際に久御山(京都)が高校選手権で準優勝し、今日の聖和学園のような個人技を大事にしたチームが全国に出てきて結果を出した。そういうチームが出てきたことをわれわれは誇りに思っています。聖和よりも――ということではなくて、積極的で、ゴールを目指しながらボールをなくさないで、クリエイティブな自分たちのスタイルを貫いていこうと思ってます。いろいろなスタイルがありますので、そういうところからも吸収し、(野洲として)進化を続けたいと思います」
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著者プロフィール

1966年生まれ。転勤族だったため、住む先々の土地でサッカーを楽しむことが基本姿勢。86年ワールドカップ(W杯)メキシコ大会を23試合観戦したことでサッカー観を養い、市井(しせい)の立場から“日常の中のサッカー”を語り続けている。W杯やユーロ(欧州選手権)をはじめオランダリーグ、ベルギーリーグ、ドイツ・ブンデスリーガなどを現地取材、リポートしている

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