“年末恒例”2日間3都市7世界戦が開催=12月のボクシング見どころ

船橋真二郎

結果と内容が求められる年末の戦い

ボクシング界恒例となった大晦日の世界戦に臨む内山高志(左)と田口良一 【写真は共同】

 日本ボクシング界恒例となった年末のマルチ世界戦の開催。今年は29日に東京で2つ、31日には東京、大阪、名古屋の3会場で計5つの世界戦が行われることになった。5年連続の大みそか出場となる内山高志(ワタナベ)、井岡一翔(井岡)は“年末の顔”とも言うべき存在。この2人に加え、今年は2年連続出場の井上尚弥(大橋)、八重樫東(大橋)、高山勝成(仲里)、田口良一(ワタナベ)の4人と、名古屋から20歳の田中恒成(畑中)が初参戦する。

 計8つの世界戦が行われた昨年は決定戦を含め、6つが日本にとっては王座に挑む構図だったが、今年は計7つのうちの6つが日本の世界王者の防衛戦となる。ギジェルモ・リゴンドー(キューバ)、オマール・ナルバエス(アルゼンチン)といった海外のビッグネームへの挑戦が彩りを添えた昨年に比べ、今年の海外勢の顔ぶれが見劣りするのは致し方ないところ。だが、この11月には三浦隆司(帝拳)、村田諒太(帝拳)、小原佳太(三迫)が相次いで米国で試合を行うなど、日本人ボクサーの米国進出が加速する中で、期待が集まる内山、井上には来たる2016年の飛翔につなげるためにも、結果はもとより内容が求められるリングとなるだろう。

井上「1%の不安と99%の楽しみ」

2階級制覇からちょうど1年。来年の米国進出へインパクトを与える試合をアピールしたい井上尚弥 【写真:ロイター/アフロ】

 まず、29日の東京・有明コロシアムではWBO世界スーパーフライ級王者の井上尚弥(8勝7KO)が昨年12月30日、名王者ナルバエスから4度のダウンを奪う2回KO勝ちで2階級目を獲得した一戦からの1年ぶりの復帰を果たす。

 ナルバエス戦の衝撃は瞬く間に海外に波及。『ナオヤ・イノウエ』の名は一夜にして、世界のボクシング関係者の間に広まった。井上の復帰が正式発表された10月20日、大橋秀行・大橋ジム会長は米国のプロモーターから試合出場のオファーが届いていることを明かした。フロイド・メイウェザー(米国)が引退後、パウンド・フォー・パウンド(体重同一時)最強の呼び声高い現・WBC世界フライ級王者で3階級制覇のローマン・ゴンサレス(ニカラグア)と同じ興行に出場させ、将来のビッグマッチ実現の機運を盛り上げたいという思惑があるようだ。

 その前に井上の復帰戦の相手を務める挑戦者のワルリト・パレナス(フィリピン/24勝21KO6敗1分)である。かつては“ウォーズ・カツマタ”のリングネームで日本のリングに上がった32歳は、戦績が示すとおりのハードパンチャー。主に日本ランカークラス相手に6勝6KO1敗の戦績を残した。1敗はのちに八重樫のWBCフライ級王座に挑戦するオスカル・ブランケット(メキシコ)との世界ランカー対決に初回KO負けを喫したもの。だが、そこからは7連勝(6KO)でWBO1位に浮上。今年7月には井上の右拳負傷による長期戦線離脱を受け、メキシコで挙行された暫定王座決定戦でWBO2位のダビ・カルモナ(メキシコ)と引き分けている。

 両者の力関係を比べれば、井上優位と弾き出されるが、長期ブランク明けの試合勘、右拳の状態は気になるところ。左手のみでのスパーリングは早い段階から開始しており、9月には全開で右を打ち抜けるようになったとしながら、井上自身「8オンスでは殴ってないので不安はあるっちゃ、あります。前半は試合の感覚、拳の感覚を試していきたいと思っています」と話していた。井上も警戒するパレナスの一発は怖いが、リーチが長い上に硬く、威力のありそうな左ジャブもまた厄介になりそう。

 それでも「1%の不安と99%の楽しみ」と、心境を表現した井上。一般的に軽量級での米国進出は難しいとされる中、ロマゴンという破格の評価を受ける“怪物”が同時代に存在し、海外でも対戦を期待されている状況は、まさに千載一隅の好機と言うほかない。日本が誇る22歳の“怪物”の輝かしい未来のためにも、ここは再び世界にインパクトを与える内容で勝利し、健在をアピールしてもらいたいところである。

八重樫、3階級制覇へ アンダーカードにも注目

再び3階級制覇へ挑戦する八重樫(左) 【写真は共同】

 29日のもうひとつの世界戦はIBF世界ライトフライ級タイトルマッチ。元WBAミニマム級、WBCフライ級王者の八重樫東(22勝12KO5敗)が王者のハビエル・メンドサ(メキシコ/24勝19KO2敗1分)に挑む。

 昨年12月30日、ペドロ・ゲバラ(メキシコ)との王座決定戦に7回KOで敗れ、WBCライトフライ級王座を逃した八重樫にとっては、2度目の3階級制覇挑戦となる。2度目の防衛戦となるメンドサはサウスポーのファイター型で、現在11連勝9KO中。志願してライトフライ級での再挑戦に臨む八重樫としては是が非でも結果を残したいところで「気持ちの面では絶対に折れないように、覚悟をつくって臨むつもり。技術的な素晴らしいところは井上尚弥に任せている。僕は僕なりに気持ちのぶつかり合いのような熱い試合をやって、必ず3階級制覇したい」と決意を語っている。

 29日の有明でコアなボクシングファンからの熱視線を集めているのが日本フェザー級タイトルマッチだ。3度の世界挑戦経験を持ち、強打が売りの細野悟(大橋/29勝20KO2敗1分)に元WBA世界スーパーバンタム級王者でスピード豊かなサウスポーの下田昭文(帝拳/30勝13KO4敗2分)が挑む国内トップ同士の激突は事実上の世界挑戦者決定戦。ベテラン同士の生き残りを懸けた一戦は熱戦必至である。

 ほかにも尚弥の弟で東洋太平洋スーパーフライ級王者の井上拓真(大橋/5勝1KO)が指名挑戦者のレネ・ダッケル(フィリピン/15勝5KO5敗1分)を迎える初防衛戦、また世界3団体でランクインする全勝ホープの松本亮(大橋)の17戦目、井上兄弟の従兄弟でアマチュア5冠の井上浩樹(大橋)のデビュー戦とアンダーカードからも目が離せない。

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著者プロフィール

1973年生まれ。東京都出身。『ボクシング・ビート』(フィットネススポーツ)、『ボクシング・マガジン』(ベースボールマガジン社=2022年7月休刊)など、ボクシングを取材し、執筆。文藝春秋Number第13回スポーツノンフィクション新人賞最終候補(2005年)。東日本ボクシング協会が選出する月間賞の選考委員も務める。

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