“年末恒例”2日間3都市7世界戦が開催=12月のボクシング見どころ

船橋真二郎

“スーパー”王者・内山 無傷で海外挑戦へ

11度目の防衛戦に臨む“スーパー”王者・内山高志。来年の海外挑戦に向け、無傷で戦いを終えられるか!? 【写真:ロイター/アフロ】

 31日の東京・大田区総合体育館ではWBA世界スーパーフェザー級“スーパー”王者の内山高志(23勝19KO1分)が、実に11度目となる防衛戦に臨む。挑戦者を7位のオリバー・フローレス(ニカラグア/27勝17KO1敗2分)に決定した発表会見では、渡辺均・ワタナベジム会長が来年の内山の海外進出を明言。内山の世界戦を中継してきたテレビ東京もバックアップを約束した。今年5月には左肘の遊離軟骨除去手術を受け、長年悩まされてきた右拳の状態も変わらず良好。それでも、11月10日で36歳になった内山には来年がデッドラインかもしれない。強豪との対戦経験が少ない世界初挑戦の24歳のサウスポーに対し、類まれなる強打と持ち前の試合構成力でレベルの違いを見せつけ、悲願の舞台に立つためにも無傷でリングを降りたいところである。

 内山と同じリングではWBA世界ライトフライ級王者の田口良一(ワタナベ/22勝9KO2敗1分)が2度目の防衛戦を迎える。初防衛戦では計5度のダウンを奪う8回TKO勝ちの圧勝。戴冠戦と合わせ、世界戦で7度のダウンを奪っている。日本人世界王者の中ではまだ地味な存在だが、3戦続けて世界王者経験者を下すなど、着実に経験を積み重ねてきた。挑戦者のルイス・デラローサ(コロンビア/24勝14KO5敗1分)は過去にミニマム級とライトフライ級で3度のWBO暫定王座決定戦出場経験があり、昨年7月にはマカオで五輪連覇のゾウ・シミン(中国)の世界前哨戦の相手を務めるなど、経験では引けを取らない。デラローサは小柄なファイター型。田口はリーチとスピードを生かし、じっくり攻略したい。

大阪、名古屋で指名試合による防衛戦

井岡一翔は大阪でレベコとのリターンマッチを行う 【写真は共同】

 31日のエディオンアリーナ大阪(大阪府立体育館第一競技場)ではWBA世界フライ級王者の井岡一翔(井岡/18勝10KO1敗)が前王者ファン・カルロス・レベコ(アルゼンチン/36勝19KO2敗)とのリターンマッチに臨む。両者は今年4月、同じ大阪で対戦。判定でV8王者のレベコを下した井岡が悲願の3階級制覇を成し遂げた。判定は2‐0ながら内容的には井岡の文句なしの勝利だったが、レベコ陣営は試合直後から不満を表明。今年9月、オプション(興行権)を握るレベコ陣営が指名したロベルト・ソーサ(アルゼンチン)との初防衛戦を難なくクリアした井岡とレベコとの再戦が実現した。井岡としては前回以上の明白な差を示し、完全勝利といきたいところ。勝ちに徹した前回を踏まえれば、ストップ勝ちの可能性は十分あると見る。打たせず打つ井岡本来のボクシングを遂行し、終盤に山場をつくりたい。

 大みそかの大阪ではIBF世界ミニマム級王者の高山勝成(仲里/30勝12KO7敗)の3度目の防衛戦も決まった。原隆二(大橋)を退けた9月の防衛戦直後のリングでWBO同級王者の田中恒成との統一戦をアピールしていたが、指名試合を延期して原戦を実現した経緯もあって、今回はIBFに指名試合を義務付けられた。挑戦者のホセ・アルグメド(メキシコ/15勝9KO3敗1分)はこれが昨年11月以来の実戦。その前の試合ではIBFの下部タイトルを争って敗れており、経験豊富な高山に比べ、キャリアで大きく下回るのは否めない。体格的にも伸び盛りの田中との対戦の可能性はほぼなくなったと見るべきだが、WBA王者のヘッキー・バドラー(南アフリカ)との海外での統一戦、ライトフライ級での2階級制覇と高山の目標は他にもある。確実に勝利し、キャリアの集大成につなげたい。

 大みそかの愛知県体育館では今年5月、フリアン・イエドラス(メキシコ)との決定戦を制し、国内最短記録の5戦目でWBO世界ミニマム級王座を奪取した田中恒成(5勝2KO)が同級4位のビック・サルダール(フィリピン/11勝9KO1敗)を迎え、初防衛戦を行う。2010年の広州アジア大会で銅メダルを獲得するなど、豊富なアマキャリアをバックボーンに持つ25歳は今年9月、WBOアジアパシフィック・ミニマム級王座を獲得し、世界初挑戦のチャンスをつかんだ。デビュー前からスパーリングで胸を借りてきた高山との統一戦は田中にとっても自らの実力を測り、証明する絶好の舞台だったが、実現しなかった。それでも前途洋々の20歳の前には大きな可能性が広がる。プロデビュー前後から本格的に着手してきたフィジカルトレーニングの成果もあって、ミニマム級は恐らくは限界。圧倒的なスピードと発想力豊かなボクシングで指名試合をクリアし、次なるステップに進んでもらいたい。

新旧選手による日本タイトルマッチなど

 12月はその他にも注目試合が数多くある。厳選して駆け足で紹介したい。

 11日の神戸市立中央体育館では元WBCバンタム級、同フェザー級王者の長谷川穂積(真正)が再起第2戦を行う。対戦相手はなんと過去最重量となるスーパーフェザー級世界ランカーのカルロス・ルイス(メキシコ)。体格の違いに一抹の不安がよぎるが、日本のリング史に偉大な足跡を残してきた長谷川は求め続けた答えを探し当てることができるのだろうか。

 14日の東京・後楽園ホールではスーパーフェザー級のダブルタイトル戦が行われる。日本スーパーフェザー級王者でWBC8位の内藤律樹(E&Jカシアス)とWBC13位の尾川堅一(帝拳)の顔合わせは、屈指のテクニックを誇るサウスポーと抜群の決定力を備えた強打者という対照的な対戦。勝者がまた一歩、世界へと近づくことになる。もう一方は東洋太平洋同級王者の伊藤雅雪(伴流)に江藤三兄弟の末弟・伸悟(白井・具志堅)が挑む一戦。ともに内藤に敗れ、日本王座挑戦に失敗しているが、成長力を示して一足早く王者となった伊藤と、雌伏の時を経て、ベルトへの執念を燃やす江藤の対戦もまた興味深い。

 16日の島津アリーナ京都では日本バンタム級王者の大森将平(ウォズ)がWBO世界バンタム級指名挑戦者決定戦に臨む。ここまで15戦全勝10KOを誇る22歳の大型サウスポーは、WBO1位のマーロン・タパレス(フィリピン)とのサウスポー対決を制し、地元京都での世界初挑戦につなげることができるか。

 21日の後楽園ホールではアグレッシブなファイトで評価とランクを上昇させてきた久我勇作(ワタナベ)と試合巧者の石本康隆(帝拳)が空位の日本スーパーバンタム級王座を争う。初挑戦に燃える25歳のフレッシュな久我と3度目の日本タイトル挑戦に懸ける34歳のベテランの新旧対決には、好試合の予感が漂う。

 27日に京都・大山崎町体育館で開催される日本ライトフライ級タイトルマッチもまた楽しみな新旧対決。今年9月、後楽園ホールで苦節15年、実に5度目の王座挑戦を実らせた35歳の堀川謙一(SFマキ)は、この地元での初防衛戦を花道に引退を表明している。百戦錬磨のプロ叩き上げが洗礼を浴びせるのか、アマキャリア豊富な新進気鋭の拳四朗(BMB)が引導を渡し、ベルトを受け継ぐのか。

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著者プロフィール

1973年生まれ。東京都出身。『ボクシング・ビート』(フィットネススポーツ)、『ボクシング・マガジン』(ベースボールマガジン社=2022年7月休刊)など、ボクシングを取材し、執筆。文藝春秋Number第13回スポーツノンフィクション新人賞最終候補(2005年)。東日本ボクシング協会が選出する月間賞の選考委員も務める。

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