データと投票で異なる鳥谷と坂本の評価 ベースボールグラフィックレポート

 プロ野球のベストナインは例年200名以上の担当記者の投票によって、ポジションごとに最も優秀な選手が決められる。あくまでも記録による表彰ではない以上、その評価に多様な意見が反映されるべきであろう。順位の高いチームから選ぶということもひとつの考え方だろうし、成績だけではなく球場を盛り上げた華のあるプレーヤーを選ぶというのも記者個人の考えとして認められる。

 一方、近年では野球を客観的に考えるセイバーメトリクスの普及、発達に伴い、選手の活躍を数値で測ることが容易になってきた。そこで、各選手が控え選手のレベルと比較して、その選手が単独で何勝分の貢献だったのかを測る指標であるWAR(Wins Above Replacement)を使って、ポジションごとの“データベストナイン”を出してみた。

※算出はデータスタジアム社のオリジナルデータを使用。野手の場合は、対象を400打席以上立った選手とする。

ベストナインは鳥谷、だがWARは坂本が上

【データおよび画像提供:データスタジアム】

 上記の画像のように11月24日に発表された記者投票によるベストナインと、WARによる“データベストナイン”ではセ・リーグで2ポジション、パ・リーグでは5ポジションで異なる結果が出た。

 異なる結果が出たポジションについて、実際のベストナインと”データベストナイン” のWARを比較してみよう。たとえばパ・リーグ三塁手でベストナインに選ばれた中村剛也(埼玉西武)と松田宣浩(福岡ソフトバンク)は0.7差、遊撃手で選ばれた中島卓也(北海道日本ハム)と安達了一(オリックス)も0.7差。このように、多くのポジションで”データベストナイン”との差は1.0程度に収まっていた。

 しかしながら、セ・リーグ遊撃手では大きな差が出ていた。鳥谷敬(阪神)のWARは2.9だったのに対し、坂本勇人(巨人)は6.4。その差は3.5と、他のポジションと比べて大きな数値になっていた。

打撃では鳥谷がやや優勢

【データおよび画像提供:データスタジアム】

 今回の評価に用いるWARは「打撃」「走塁」「投球」「守備」の各プレーを得点に変換し、9.5点で1勝と換算している。

 まず鳥谷と坂本の「打撃」を比較すると、ご覧のように鳥谷が+7.1点でやや優勢だと分かる。「打撃」はまずwRAA(Weighted Runs Above Average)という指標に球場の補正を加味した数値を用いており、計算に使っている項目は単打、二塁打、三塁打、本塁打と四死球がメインとなる。また、鳥谷の打席数は坂本よりも88打席多く、控え選手を打席に立たせなかった分のポイントも鳥谷の方が多く加えられている。

 打者の得点力を表す一般的な指標「OPS(出塁率+長打率)」ではやや坂本の方が高いのだが、wRAAでは四球、単打、二塁打などの打席結果にかける係数がより精密になっており、結果として鳥谷の方が高い数値となっている。

2人に差をつけた守備範囲

【データおよび画像提供:データスタジアム】

 それでは、坂本はどの部分で大きく評価されているのか。答えは「守備」である。特に、守備範囲のポイント+42.6点と高い評価を得ているのだ。

 WARでは「守備」をどれだけ失策をしなかったかだけでなく、守備範囲や併殺、ポジションの難易度で得点化しており、通常の公式記録なら「レフト前ヒット」や「センター前ヒット」にしかならない打球でも、遊撃手がアウトにできたはずのゾーンに飛んでいた場合はマイナスのポイントと計算される。逆にヒットを防ぐ守備にはプラスのポイントが計算されるのだが、坂本はこの守備範囲ポイントで三遊間、二遊間ともに高い数値を残しているのだ。

 一方、鳥谷の守備範囲ポイントはどこのゾーンでもマイナスが目立っている。かつては主に二遊間の打球処理で高い数値を残していたのだが、昨年の足の故障の影響か、ここ2年間の数値は大きく低迷している。加えて今年の鳥谷は失策数も多く、失策しなかったことによるポイントでも坂本を下回っていた。坂本とのWARでの3.5の差はこの守備評価の差が大きく響いていたのだ。この大きな差を踏まえると、もし投票権を持っているならば、データを扱う立場としてはベストナインだけでなくゴールデン・グラブ賞でも坂本に1票を入れるだろう。

 もちろん、WARで使っている守備範囲のデータはあくまでも「野手がどこで捕球したか」を表すものであり「どこに守っていたか」つまりポジショニングのデータは収集できていないという欠点もある。だが、200名以上の記者投票とは異なる特徴や違いなどをWARのような総合評価指標では表すことができる。今回、記者投票によって選ばれたベストナインと“データベストナイン”、もし対決することがあればどちらのチームが勝利するのだろうか? それは読者のみなさまの想像に委ねたい。

(文:データスタジアム/構成:スポーツナビ、グラフィックデザイン:澤田洋佑)
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