アメリカズカップを熟知する乗員たち 求められる若く優秀な日本人クルー

中山智

悲願達成を目指す艇長

スキッパーを担当し、艇の舵の操作とコース取りなどのレース戦略において最重要な決定を行うディーン・バーカー(手前) 【(C)Matt Knighton/SoftBank Team Japan】

 世界最高峰のセーリング競技大会「アメリカズカップ」が2017年7月に開催される。2015年から2016年にかけては、その予選シリーズとなる「ルイ・ヴィトン アメリカズカップ・ワールドシリーズ」(以下、ワールドシリーズ)が行われ、参加チームは世界各地を転戦して、本戦への出場権を争っている。

 ワールドシリーズは現在3大会を消化。日本から参戦しているソフトバンク・チーム・ジャパンは総合で6チーム中5位という成績だ。次戦のスケジュールは現時点では未確定のため、期間が空いており、現在は各チームともベースキャンプでトレーニングなどを行っている状態だ。

 ワールドシリーズには、「AC45F」という艇種が採用されている。AC45Fは2つの艇体を横に並べた双胴艇(カタマラン)で、5人のクルー(乗員)で操作する。クルーにはスキッパー、ジブトリマー、ウイングトリマー、グラインダー、バウマンと5つのポジションがあり、それぞれがキッチリと役割を果たし、かつ各乗組員の連携を高めることが艇のスピードを向上させるキーポイントとなっている。

 ソフトバンク・チーム・ジャパンで実際にレースに出場するセーリングクルーとして登録されているのは現在5名。そのなかでスキッパー(艇長)を担当し、艇の舵の操作とコース取りなどのレース戦略において最重要な決定を行うのが、ニュージーランド出身のディーン・バーカーだ。

 ディーンは1995年に、チームニュージーランドの一員としてアメリカズカップに参戦。2000年の大会では、同じくチームニュージーランドで最終戦の舵をとり見事に勝利した。ディーンは当時26歳で、史上最年少のアメリカズカップウイナーとして、さらにはセーリング界の若きスターとして注目を集めたセーラーだ。その後もチームニュージーランドの中心メンバーとしてアメリカズカップに参戦。2003年大会では残念ながらスイスチームに敗れたが、以降もほとんどの大会で本戦まで進出している。2013年大会ではあと1勝で優勝という状況まで勝ち進むも、アメリカチームに逆転負けを喫した。アメリカズカップ奪還という悲願達成を、ソフトバンク・チーム・ジャパンで目指している。

役割がクロスオーバーすることも

 ヨットの推進力を発生させる重要なパーツがセール(帆)だ。AC45Fには全部で3つのセールが使われている。ひとつは、マスト(帆柱)後方に位置するウイングセール、もうひとつはマスト前方のジブセール(編注:ジブはマストから船首にかけて張る三角帆のこと)。そして最後は主に追い風のときに展開する第3のセール「コードゼロ」だ。

 この3つのセールをコントロールするポジションが、ジブトリマー、ウイングトリマー、グラインダー(編注:ウインチと呼ばれる巻取り機を使いシートを引き込む)。ジブトリマーはニュージーランド出身のジェレミー・ローマース、ウイングトリマーはイギリス出身のクリス・ドレーパー、グラインダーはニュージーランド出身のデリク・サウォードが担当している。

クリス・ドレーパー(写真)含め5人ともアメリカズカップ参戦チームのクルー経験者だ 【(C)Matt Knighton/SoftBank Team Japan】

 それぞれポジションは決まっているものの、艇での作業自体はセールのコントロールだけでなく、コードゼロの展開や収納、ダガーボード(艇の下に配置する横流れおよび艇浮上に使用するボード)の出し入れや走行中のバランス調整など多岐にわたるため、役割がクロスオーバーすることも多い。

 ジェレミーとクリス、デリクの3人ともアメリカズカップ参戦チームのクルー経験者。特にジェレミーとデリクはチームニュージーランドに所属していたこともあり、スキッパーのディーンとのコンビネーションも抜群だ。

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著者プロフィール

1974年生まれ。本業はITやモバイル業界をメインに取材・執筆をしているフリーライター。海外取材も多く、気になるイベントはフットワーク軽く出かけるのがモットー。大学在学中はヨット部に所属し、卒業後もコーチとしてセーリング競技に携わっている。アメリカズカップのリポートをとおして、セーリング競技に馴染みのない人たちへヨットの認知度アップを狙っている

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