信じ難い不振にあえぐチェルシー モウリーニョが抱えるジレンマ

山中忍

連覇も現実的とされていたが……

チェルシー不振の理由を聞かれるも「複数の要素が絡み合っている」と口をつぐむモウリーニョ監督 【写真:ロイター/アフロ】

「分かっている」と、ジョゼ・モウリーニョは言う。11月3日、チャンピオンズリーグ(CL)のディナモ・キエフ戦(2−1)前日の会見で、信じ難いチェルシー不振の理由を問われた際の回答だった。

 プレミアリーグ新記録の268日間を首位で過ごした昨季王者が、今季は開幕11戦で11ポイント獲得のみの15位。10月31日のリバプール戦(1−3)で6敗目を喫すると、メディアは一斉にモウリーニョ解雇までの猶予は翌々週の国際マッチウィークまでの1週間だと報じた。その後、第12節でもストーク・シティに0−1で敗れ今季7敗目。だが、チェルシー豹変の理由は特定できずにいた。
 
 そして、モウリーニョ自身も「複数の要素が絡み合っている」と明かす程度にとどまっている。敢えて諸悪の根源を挙げるとすれば今夏の補強失敗になるだろう。モウリーニョは、昨季終了直後に「新戦力を2、3名加えたい」と言っていた。即戦力としてアスミル・ベゴビッチ、ババ・ラーマン、ペドロ・ロドリゲス、ラダメル・ファルカオを獲得してはいる。しかし、いずれも今夏の放出で生まれた枠を埋めた補強で、戦力が追加されたわけではない。持ち駒のグレードアップと言える新顔も、フアン・クアドラードの代わりに迎えられたペドロぐらいだ。

 それでも開幕前にはチェルシーのリーグ連覇が現実的とされていたのは、名策士にして名モチベーターでもある指揮官の存在が大きい。モウリーニョであれば昨季以上の力をチームから引き出せる。そう思われていたわけだ。

求められた的確な補強

昨シーズンも優勝決定後に完敗を喫するなど、指揮官は慢心がみられるチームに補強が必要と考えていた 【写真:Action Images/アフロ】

 だが、言うはやすく行うは難し。戦力がほぼフルに発揮されていた少数精鋭の集団であればなおさらだ。昨季のチェルシーでは、1トップのジエゴ・コスタが移籍1年目から20得点。2列目の主役エデン・アザールはプレミア年間最優秀選手。2ボランチはアシスト王のセスク・ファブレガスと、そのセスクを凌ぐキーマンと言われる働きを見せたネマニャ・マティッチ。後方では、34歳のジョン・テリーが統率する平均年齢約30歳の4バックと、ティボ・クルトワとペトル・チェフというワールドクラスの正副GKが失点をリーグ最少に抑えた。
 
 ほぼ固定メンバーで戦うチームを率いたモウリーニョは、王座奪回という目標を達成した主力に疲労と慢心という不安も抱いていたに違いない。例えば、指揮官が「彼がいるといないとではチームの戦い方が変わる」と言うほど、ポゼッションの源として依存度の高いセスクの低調は、2カ月近くゴールとアシストから遠ざかった昨季後半戦から。優勝決定後の第37節ウエスト・ブロムウィッチ戦(0−3)での愚かなセスク退場と完敗は、緊張感と集中力の欠如としか言いようがない。同節後の指揮官は「気が緩んでも仕方はない」として選手たちへの理解を口にしたが、その悩まし気な表情からは納得しきれない心境も読み取れた。
 
 つまり、主力の体を休ませる余裕を手に入れ、かつ競争激化で主力の気持ちを引き締めるために今夏の的確な補強が求められた。モウリーニョの獲得希望リストには、最終ラインではラフェエル・バラン(レアル・マドリー)とジョン・ストーンズ(エバートン)、中盤にはポール・ポグバ(ユベントス)とコケ、前線にはアントワーヌ・グリーズマン(ともにアトレティコ・マドリー)とクリスティアン・ベンテケ(リバプール入り)といった、高額の移籍金を伴う選手の名前が挙げられていたとされる。だが、これら意中の新戦力は1人も獲得できていない。

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著者プロフィール

1966年生まれ。青山学院大学卒。西ロンドン在住。94年に日本を離れ、フットボールが日常にある英国での永住を決意。駐在員から、通訳・翻訳家を経て、フリーランス・ライターに。「サッカーの母国」におけるピッチ内外での関心事を、ある時は自分の言葉でつづり、ある時は訳文として伝える。著書に『証―川口能活』(文藝春秋)、『勝ち続ける男モウリーニョ』(カンゼン)、訳書に『フットボールのない週末なんて』、『ルイス・スアレス自伝 理由』(ソル・メディア)。「心のクラブ」はチェルシー。

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