信じ難い不振にあえぐチェルシー モウリーニョが抱えるジレンマ
全権を与えられない指揮官のいら立ち
開幕戦のスウォンジー戦で、アディショナルタイムに処置を行ったドクター(左)に対しモウリーニョ監督は「浅はかな行動だ」と非難した 【写真:ロイター/アフロ】
力関係を示す好例が今夏のチェフ放出。モウリーニョは“副守護神”の放出に断固反対していたが、ロンドン残留と常時出場を望む本人の意思を尊重したオーナーの意向に沿ってアーセナルに売却された。チェフへの敬意を抜きに語れば、過ちと言わざるを得ないライバルへの戦力流出だ。選手購入に関しても、ファイナンシャル・フェアプレー(FFP)規則対応に加え、再来年から総工費1000億円とも言われる新スタジアム建設を予定しているフロントが、単価の高い候補に難色を示した。
モウリーニョは獲得に至った新戦力にも不満だったようだ。控え左サイドバック(SB)としてのババ獲得は悪くはないと思われたが、リーグ戦先発起用は第9節のアストンビラ戦(2−0)までお預け。ババの加入でレギュラーのセサル・アスピリクエタを本職の右SBとして使えるようになるはずが、その右サイドでは著しい不振でも負傷による戦線離脱までブラニスラフ・イバノビッチが先発を続けた。新センターバックのパピ・ジロボジはいないも同然で、CLでは登録メンバーにも含まれていない。元々コンディションが疑問視されたファルカオは細かなけがの繰り返し。9月29日のポルト戦(1−2)では、当人にけがはなく、ベンチにはFWがいない状態でもメンバーから漏れている。
不満のひと夏を経た指揮官の心境は、開幕節スウォンジー戦(2−2)での医療スタッフ批判にも垣間見られた。退場者を出して迎えた後半アディショナルタイム、処置をしに出たことで、手当を受けたアザールがいったんピッチの外に出なくてはならず、フィールド選手8名となる状況を招いたことは事実だが、チームドクターとフィジオは任務を全うしただけのこと。試合後の「浅はかな行動だ」という発言と現場追放という過剰な反応は、補強不足の現状に対するいら立ちと、開幕戦からつまずけば昨季の再現は難しいという不安によるものだったのではないだろうか?
負のスパイラルに陥った昨季王者
チェルシーは、開幕12戦でわずか11ポイント獲得の16位と苦難の今季スタートを強いられている 【写真:ロイター/アフロ】
負け慣れていなかった集団の自信喪失は深刻。指揮官は、時には審判批判という暗幕でパフォーマンスの悪さを隠し、時には公の場で選手を非難して尻をたたくなどしてアメとムチを使い分けたが即座の自信回復はならず。心離れが噂されたアザールに対しても、腹を割って話をする時間を設け、リバプールとの大一番では、左サイドよりもボールに触れる機会の多いトップ下での先発起用も試みたが振るわず、後半早々にベンチに下げざるを得なかった。代わりにベンチを出たのは19歳のケネディ。将来有望なブラジル産タレントだが、強豪対決で形勢逆転の期待を託すのは荷が重すぎる。
昨季末のモウリーニョはこうも言っていた。「来季も成功を手にするには今季以上のパフォーマンスが必須だ」と。分かっていたのだ。補強不足による苦難の今季スタートがあり得ることを。