リバプールにとって“完璧”なクロップ ロジャーズ政権を継ぐに適任な熱血漢

寺沢薫

クロップとの3年契約を発表

リバプールと3年契約を結んだクロップ 【写真:ロイター/アフロ】

 最後通告は、ダービーマッチの数時間後だった。

 リバプールがエバートンと1−1で引き分けた試合後、練習場のオフィスに戻ったブレンダン・ロジャーズは1本の電話を受けた。相手はクラブのオーナーシップを持つフェンウェイ・スポーツ・グループの幹部であるマイク・ゴードン。それは、2012年夏から続いたロジャーズ政権の終わりを告げるものだった。

 クラブの命を受けたキャプテンのジョーダン・ヘンダーソンを通じて指揮官更迭を聞いた選手たちは、一様にロジャーズ退団を悲しみつつも、驚いた様子はなかったという。昨シーズンは6位。即時解任を免れる条件として新シーズンの成功を約束したロジャーズにとって、開幕8試合で3勝3分け2敗、8得点10失点で10位という成績は不十分だった。数週間前から解任のうわさも絶えず、選手たちも予期していたのだろう。

 翌日から、英国メディアは“ユルゲン・クロップ祭り”になる。後任候補にはカルロ・アンチェロッティの名も挙がったが、地元紙『リバプール・エコー』のウェブアンケートでは1000人以上のファンのうち62.9%がクロップ就任を希望し、2位のアンチェロッティ(19.5%)を大きく引き離した。

 ドルトムント時代の教え子であるマッツ・フンメルスにイルカイ・ギュンドアン、ドイツ代表監督のヨアヒム・レーブからバイエルンの名誉会長であるフランツ・ベッケンバウアーまで、クロップの母国からは前ドルトムントの指揮官がリバプールに「パーフェクト・フィット」だという声が相次いだ。ロジャーズ批判を繰り返してきたリバプールOBたちからも同様の声が続々届き、英各紙はこぞってクロップの過去の名言、戦術的志向から、15年にわたって信頼を置く2人のコーチの素性までさまざまな記事を掲載した。

 そして、ロジャーズ解任から4日後。クラブは満を持して、123年のクラブ史で21人目、英国人以外ではジェラール・ウリエ(フランス)、ラファエル・ベニテス(スペイン)に次ぐ3人目の監督となるクロップとの3年契約を発表した。

チームスタイル構築に迷ったロジャーズ

ルイス・スアレス退団以降、チームスタイルの構築に迷ったロジャーズ 【写真:ロイター/アフロ】

 なぜ、クロップはリバプールにとって「パーフェクト・フィット」なのか。ロジャーズ解任の要因と表裏一体でもあるその理由は、大きく分けて3つある。

「外から見ていて、彼らのアイデンティティーが何なのか、ベストメンバーが誰なのか、どんなプランでどんなシステムがベストなのか、私には分からなかった」(アラン・シアラー)

 往年の名ストライカーは、ロジャーズ解任を受けてこう話した。1つ目の理由は、チームスタイルの問題だ。

 ルイス・スアレス退団以降、ロジャーズは道に迷った。エースのバルセロナ移籍は、昨シーズンの得点力不足とハイプレス崩壊につながった。4バックと3バックを行ったり来たりして選手は混乱し、今シーズンから加入した大男クリスティアン・ベンテケにロングボールを放りこむ新戦術も「オプション拡張」と言えば聞こえはいいが、実際は「苦し紛れに切ったカード」にしか映らなかった。

 ゲーゲンプレッシング(高い位置でボールを奪い、攻撃を仕掛ける戦術)で一世を風靡(ふうび)したクロップは、ロジャーズが13−14シーズンに優勝争いを演じ、ファンを魅了したハイテンポかつアグレッシブなスタイルの正当な後継者だ。

「ロジャーズはその服を着こなせなかったが、それはクロップにお似合いの服である」とは『スカイスポーツ』が掲載した記事のフレーズである。

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著者プロフィール

1984年、東京都生まれ。『ワールドサッカーグラフィック』編集部を経て、株式会社フットメディア(http://www.footmedia.jp/)在籍時にはプレミアリーグなど海外サッカー中継を中心としたテレビ番組制作に携わりながら、ライター、編集者、翻訳者として活動。ライターとしては『Number』『フットボリスタ』『ワールドサッカーキング』などに寄稿する

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