ナビスコ決勝、ワンサイドゲームの要因 小笠原が鹿島に行き渡らせた勝者の精神

北條聡

両者に見えたメンタルコンディションの差

ナビスコカップ決勝は鹿島がG大阪に3−0で快勝し、17冠目のタイトルを獲得した 【写真:アフロスポーツ】

 勝者は「強者」だった。ガンバ大阪を圧倒し、ナビスコカップを制した鹿島アントラーズのことだ。この日、鹿島が放ったシュートの数は、5本だったG大阪のおよそ5倍に相当する24本。CKの数を比べても、鹿島の12本に対し、G大阪はわずか2本にとどまった。3−0というスコア以上の快勝。G大阪の若きエースである宇佐美貴史は「何もさせてもらえなかった」と脱帽の体だった。

 ワンサイドゲームになった要因は何だったのか。9月、10月とほぼ休みなく戦ってきたG大阪の過密日程による影響(疲労)を指摘する声もある。しかし、G大阪のGK東口順昭の見方は違った。「前半、鹿島の圧力に押されて、疲れがあるように見えただけ。直近の試合から1週間も空いていた。過密日程は関係ない」と。守護神によれば、フィジカル(身)よりもむしろ、メンタル(心)のコンディションに差があった、という。

「ざっくり言えば『勝ちたい』という気持ちの面で相手が上だった」

 そう語ったのはG大阪の長谷川健太監督だ。また、指揮官はこうも話している。「選手たちに『勝てるだろう』という慢心があったかもしれない」と。決戦を迎えるまでの鹿島との公式戦は4連勝中だった。心のどこかに隙が生じたのか。真偽のほどはともかく、鹿島の気迫がG大阪を上回っていたのは確かだろう。その象徴が、圧巻とも言うべき「球際の強さ」だった。

 敵陣からガンガン圧力をかける鹿島のハイプレス(戦術)が十全に機能したのも、そのためだ。これに攻守の切り替えの速さと、相手に寄せる出足の鋭さが重なって、時に転がり、時に宙を舞うボールが、ことごとく臙脂(えんじ)のユニフォームに吸い込まれていった。事実、宇佐美は「想像していた以上にプレッシャーがすごかった」と、振り返っている。

G大阪・遠藤の珍しいエラーの連続

鹿島の苛烈なプレスに、遠藤は珍しくエラーを連発した 【写真:アフロスポーツ】

 G大阪が一方的に押し込まれた要因の一つに、最前線で逆襲のターゲットになるパトリックの空転があった。昌子源とファン・ソッコの激しいチェックに遭い、高い位置でボールが収まらず、敵陣へ押し返せない。パトリックに当てた後のセカンドボールも、ことごとく鹿島に拾われた。パトリックに仕事をさせない2センターバックの働きも見事だが、鹿島の石井正忠監督は「前線からの守備が効いていた」と、グループによる優れた連動性を強調している。

 パトリックを狙ったパスそのものが、すでに「死んでいた」わけだ。送り手が苛烈なプレスに浴びて、苦し紛れのパスが頻発している。事実、反撃の始点となる遠藤保仁のパスワークに何度もバグが生じていた。41分の場面が象徴的だろうか。こぼれ球を拾い、前線で待つ宇佐美へ送ったパスがファン・ソッコに拾われると、その数十秒後には遠藤にボールを預けて前へ出た今野泰幸へのリターンパスを、プレスバックした鹿島の遠藤康に回収されてしまう。

 名手にしては極めて珍しいエラーの連続。遠藤がパスを送る寸前に圧力をかけていた柴崎岳の、小笠原満男のファーストディフェンスが「最速奪取」の伏線になっていた。イレブンが鎖にようにつながり、狙った獲物を仕留めるプレッシング戦術の教本だろう。そして、この“ハンティング・ワールド”の先導者と言うべき存在が、小笠原である。

 開始5分のワンプレーが暗示的だった。G大阪の米倉恒貴がタッチライン際で遠藤に視線を配った瞬間、企図を察知した小笠原は倉田秋のマークを捨てて遠藤に襲い掛かり、ボールを絡め取った。この日の鹿島が何をすべきか――。「苛烈なプレス」と「遠藤狩り」という二重のメッセージを込めたキャプテンのボールハントは、鹿島の攻勢を加速させるスイッチだった。

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著者プロフィール

週刊サッカーマガジン元編集長。早大卒。J元年の93年に(株)ベースボール・マガジン社に入社。以来、サッカー畑一筋。昨年10月末に退社し、現在はフリーランス。著書に『サカマガイズム』、名波浩氏との共著に『正しいバルサの目指し方』(以上、ベースボール・マガジン社)、二宮寿朗氏との共著に『勝つ準備』(実業之日本社)がある。

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