Bリーグ・大河チェアマンが見つめる未来 16年秋開幕に向けたバスケ界の現在地

大島和人

16年秋のBリーグ開幕に向け、この1年間で多くの準備を行わなければいけない大河チェアマン 【スポーツナビ】

『日本バスケ戦略会議』をスタートして今月でちょうど1年が経過した。その間、日本バスケットボール連盟(JBA)はものすごい速さで変革を進め、1年前とは状況が一変した。国際バスケットボール連盟(FIBA)に課せられた資格停止処分の解除を経て、Bリーグの開幕が来年秋に決まり、男女バスケットボール日本代表がアジアの舞台で活躍を見せる。今は、確実に新たなフェーズに移行したと言えるだろう。

 日本バスケ界が抱える課題を関係者の声から紐解いていくことを目的としていた『日本バスケ戦略会議』だが、もはや企画主旨が状況と見合わなくなった今、本企画の役割は終えた。日本バスケ界史でもまれなほど“変化”があったであろうこの1年間で、“日本バスケの最前線”で活躍する多くの人々の声を届けることができた。それによって、日本バスケ界の進むべき道筋の指針を少しでも示すことができたのであれば幸いである。まずは最終回(全2回)の1本目として、Bリーグのチェアマン大河正明編をお届けしたい。(スポーツナビ編集部)

Bリーグの16年秋開幕に向けて

 2つのリーグが迎える“最後のシーズン”だ。10月2日にターキッシュエアラインズbjリーグ(bjリーグ)、10月9日にナショナル・バスケットボール・リーグ(NBL)が開幕している。2つの流れを引き継ぎ、2016年秋にスタートを切るのが新生Bリーグだ。

 JBAの専務理事であり、Bリーグのチェアマンを務める大河正明は“最初のシーズン”に向けて忙しく駆け回っている。今の彼がエネルギーを注いでいることは大きく分けると二つ。一つは「お金を集める仕組みをどう作っていくか」。もう一つは「面白い大会の仕組み」を作ることだ。

 スポンサー営業、放映権交渉といった日々を送る中で、うれしい後押しがあったという。

「われわれが(企業へ)話に行っていて、最初にバスケットを意識してもらったのは女子のリオデジャネイロ五輪出場。Bリーグと直接関係はないと言うものの、球技で初めて五輪出場が決まったことには大変なインパクトがあったと思いますね。(その後にアジア予選が行われた)男子も、一般紙を含めて記事になった。新しいスポンサーの獲得やテレビに関しても、女子の優勝をきっかけにかなりムードは良くなっている」(大河)

 クラブと代表は日本バスケを前進させるための両輪だ。男子も18年ぶりにFIBAアジアバスケットボール選手権の4強入りを果たした。優勝チームのみに与えられるリオ五輪出場権は得られなかったが、世界最終予選への参加権はしっかり得ている。代表の躍進はリーグが成功するためのきっかけとなり、リーグがビジネス的に成功することが今後の代表にもつながる――。日本バスケの成功と定着は、そんなサイクルの先に見えてくるのだろう。

 大河はbjリーグの広がり、エンターテインメント面の努力を評価しつつも、「代表を強くしていこうという意識がどこまであったのか。その意識が無かったところに課題を残した」と指摘する。一方で実業団リーグにルーツを持つNBLも「プロの興行としてエンターテインメント性を追求する、良いアリーナ環境でやるという意識が足りなかった」と振り返る。その上で「良いところ取りをする形でBリーグを発足させたい」と彼は口にする。

 Bリーグの1部に内定した18チームのうち“企業形態”のクラブは5つある。 施設や人材などの蓄積があり、資金的な強みも持つ彼らは、リーグの中心を占める存在になり得るだろう。一方で独立した法人として活動を始める実業団チームが、企業と社員だけに支えられる存在から“地域に支えられるクラブ”へ進化していく。それはBリーグを成功させるために不可欠な要素だ。

 Jリーグも未だに多くのクラブで親会社からの出向、転籍者が社長を務めている。 しかし大河は「(常勤の)プロの経営者がやれるような時代が早く来てほしい」とバスケ界における“経営のプロ化”を待望する。

Bリーグが目指す移籍の仕組み

JBAの川淵三郎会長(右)とともに、笑顔でBリーグの名称決定会見に臨んだ大河チェアマン 【スポーツナビ】

 Bリーグは1部から3部までの振り分けがすでに決まっており、今季の成績による昇降格はない。現在は1部だが2部、3部に移るチームでプレーする選手にとって、今季は“個人昇格”を掛けたシーズンだ。

 新リーグのチェアマンとして大河が心を砕いているのは移籍の仕組み作り。選手がプロとして実力に見合ったチームに移り、報酬を得るのは当然のことだが、来季に限ると成績と無関係にカテゴリーが決まってしまう。もちろん再来年以降はその活躍と単年、複数年といった契約形態などに応じた“市場原理”で移籍が決まっていくのだろう。しかしBリーグ開幕は今までの秩序が劇的に変わる節目で、それに合わせた特例が必要になる。

「惜しくも2部になったようなチームが選手を引き抜かれるときに、補償金がないとチームの運営基盤が揺らぐ。引き抜かれたチームに移籍補償金を払う仕組みが必要となる。例えば年俸が数千万円の選手が引き抜かれたら、その数千万円の年俸分は移籍補償金として出すとか、そういうことを検討している」と大河は説明する。

放映権交渉の方向性

 彼がスポンサー営業、リーグの制度設計とともに取り組んでいるのが放映権交渉だ。Bリーグがメディアで取り上げられることは大切なプロモーションだが、ビジネスとして“値段”の問題も絡んでくる難題でもある。

 大河は「まぁそういう話ができるようになっただけ良い」と前置きしつつ、こう説明する。

「地上波露出を取るか、CSのお金を取るかという問題は悩ましい。開幕戦とプレーオフファイナルのところは、地上波生放送でと考えています 。一方で地方のコンテンツとしては、バスケットも人気があって、しかもプロ野球やJリーグと少しシーズンがずれる。冬場のコンテンツとしては貴重なものなので、BSの全国放送とか、そういったところを交渉していく」(大河)

 今回のFIBAアジア選手権は、試合の中継が地上波やBS局ではなく、フジテレビ系のCS局で行われていた。女子日本代表が五輪出場を決めた決勝戦と同じ時間帯に、同じフジテレビ系の地上波では女子バレーの日本vs.米国戦が中継されていた。現時点で一般視聴者の人気を比べれば、バレーに分があるからだ。

「(テレビ中継は)増やしていきたいと思っています。男女のバレーボールは、日本でいつもやるというのもありますけれど、長年に渡って必ず(地上波のテレビ中継を)やっていますよね。あれは僕らも羨ましいし、Bリーグのプレーオフ決勝や開幕は何とか地上波に持っていきたい」と大河はメディアへの展開を説く。

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著者プロフィール

1976年に神奈川県で出生し、育ちは埼玉。現在は東京都北区に在住する。早稲田大在学中にテレビ局のリサーチャーとしてスポーツ報道の現場に足を踏み入れ、世界中のスポーツと接する機会を得た。卒業後は損害保険会社、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を開始。取材対象はバスケットボールやサッカー、野球、ラグビー、ハンドボールと幅広い。2021年1月『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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