打撃で見せたオコエの高い適応力 持ち味は周囲の指摘に耳を傾ける謙虚さ
西谷監督が生かそうとしたオコエの持ち味
大会前の不安を払拭し、夏の甲子園に続いてU−18W杯でも活躍を見せるオコエ 【写真は共同】
オコエの打席を見ていると、その答えをひもとく動作が投球間に行われている。右手を約90度に折りながら、トップをつくるまでのタイミングを計っているのだ。
「こっちに来てから西谷(浩一)監督やいろいろなコーチに、積極的に自分からアドバイスを聞きに行ったりしています。いまの自分に何が足りないか、何をすればいいか、教えてもらいました」
甲子園で主役級の活躍を見せたオコエは、今秋のドラフト上位候補に躍り出た。50メートルを5秒96で走るスピードと大胆に次の塁を狙っていく積極性を含めた走力は、すでにプロでもトップクラスだ。遠投120メートルと強肩も兼ね備えている。
だが、打撃は甲子園で18打数6安打、1本塁打、6打点の活躍を見せたものの、まだまだ発展途上という評価も少なくなかった。
「ジャパンに入れるような打撃力はゼロだと思っていました。1から教えてもらうという形で入ってきたので、教えてもらったことは全部吸収しようというつもりでやっています」
走攻守、そして性格面でも積極性が持ち味のオコエに対し、西谷監督は今回の侍ジャパンU−18代表が集結した直後、痛烈にこう指摘している。
「僕がキャッチャーとして対戦したならば、全部抑えられるぞ」
大阪桐蔭の指揮官から見ると、関東一のリードオフマンは「いいものは持っているけど、少し穴の大きいバッター」と映っていた。
「タイミングの取り方と、どうしても引っ張りになるところがあります。外の変化球への対応力がないので。でも小さなバッティングをしたらオコエを使っている意味がないので、ダイナミックなバッティングのなかに少しだけ逆方向への意識を持って、より積極的にいったほうが相手からすれば嫌だぞという話をしました」
大阪桐蔭で中村剛也、浅村栄斗、森友哉(以上埼玉西武)、中田翔(北海道日本ハム)らを育て上げてきた西谷監督は、少々の欠点には目をつぶり、ポテンシャルを最大限に引き出す指導法に定評がある。今回、2週間強という侍ジャパンU−18代表として戦う短期間で、オコエにも同じ方針で持ち味を生かそうとしているのだ。
打席内で適応力を発揮したライト前安打
今大会前、「オコエは木製バットへの適応に苦しむのでは?」という指摘は少なくなかった。体が前に突っ込み、最後に手打ちのような形になるため、木製バットでは難しいと見られていたのだ。
だが、3試合目のオーストラリア戦を終えた時点で、オコエは14打数5安打と1番打者としての役割を果たしている。打席によっては西谷監督の指摘するような悪癖が顔を出している一方、結果を出している場面では高い適応力を見せているのだ。
それが特に見えたのが、29日に行われた米国戦の第1打席だった。
前日のブラジル戦後、オコエはこう話している。
「インコースの真っすぐに対して、木製バットどうのこうのというより、張り方に対して問題がありました。相手の配球とかも日本人とは違った部分があるので、しっかり対応していきたいと思いました」
そして翌日の米国戦での第1打席、相手先発の投じたインコースへの137キロストレートがやや真ん中よりに入ると、ライト前に弾き返したのだ。
逆方向に打ち返したヒットについて、西谷監督はこう評した。
「球が速かったので右方向に行った部分はありますけど、意識としては顔も開かずに打ちに行っていました」
一方、オコエはこう振り返っている。
「ブラジル戦もそうだったんですけど、海外の人は割と真っすぐが多いので、真っすぐをしっかり振っていこうという意識を持っていました。そういったなかで1球振り遅れがあって、それでしっかり修正できたので、あの打席はとても良かったと思います」
ヒットを打つ前の2球目は、インコースに投じられた139キロのストレートに振り遅れて一塁線へのファウルになっていた。直後の3球目はタイミングを調整し、ライト前に弾き返したのだ。