打撃で見せたオコエの高い適応力 持ち味は周囲の指摘に耳を傾ける謙虚さ

中島大輔

経験値を積んで残した結果

木製バットへの適応などが心配されたが、西谷監督の下で好成績を残している 【写真は共同】

 このヒットにオコエが手応えを感じたのは、日本代表に加わってから取り組み始めた打撃が結果に表れたからでもある。

「自分は真っすぐに張っていたりして、スライダーに突っ込んで、たたくバッティングになってショートゴロが多かったです。球の速いピッチャーに対しては、間をとるのが遅かった。それで(首脳陣から)『待ち構えるような気持ちで、いつでもバットを出せる位置から振ってこい』と言われました」

 以前は投球モーションに合わせてトップをつくっていたため、変化球にタイミングを崩されて体が前に突っ込むことや、ストレートに差し込まれる場面があった。それを早めにトップをつくり、左足でタイミングを合わせながら打ちにいくように変えたのだ。

 そうした対応力の高さを試合のなかで見せたのが、30日のオーストラリア戦だった。
 3打席目までは相手先発の投じたファーストストライクを振りに行き、すべてストレートに差し込まれての凡退に終わっている。初球から打ちにいくのはオコエの持ち味であり、同時に指揮官の指示でもあった。

「西谷監督から言われているように、振って合わせることをどんどんやっていこうと思いました。最初は自分の始動が遅くて、相手ピッチャーに対するタイミングが合わなかった結果です。その部分でどんどん振って、ファウルにして、という意識でした」

 だが無安打で迎えた9回の6打席目、オコエはあえてファーストストライクを見逃したのだ。相手投手が4番手に交代したばかりのタイミングだったが、最初は振りに行かない決断は、3番手投手にサードゴロに打ち取られた4打席目が関係していた。

「(6打席目は)1球見ることによって、捉える率を上げることが目的でした。(4、5打席目に対戦した)サイドっぽいピッチャーは4打席目の最後、2ストライクからインコースにシュートみたいなボールを投げてきたので。そういった(凡打になった)部分で、もうちょっとボールに目をつければよかったのかなという反省があったので、(6打席目は)1球見逃しました」

 結果、2球目のストレートをファウルにした後、3球目に甘く入ったスライダーをレフト前タイムリーとしたのだ。これは、スライダーを3球続けて泳がされた5打席目に伏線があった。

「前の打席でボールは見えていたんですけど、自分の振りが甘くて。配球がスライダーばかりで、三振しました。次の打席(6打席目)では初球から真っすぐ、真っすぐだったので、『ここでスライダーがあるんじゃないかな』というのはあったんですけど、スライダーは投球練習で1球も投げていなかったので、張りようがなくて、真っすぐに張った結果でした。でも、今日の試合である程度の海外の配球がわかってきましたね。米国戦から考えると、配球が見えてきたというか」

 オコエは自身の打撃スタイルを変化させると同時に、慣れない海外勢との対戦を通じて経験値を積みながら、結果を残しているのだ。

謙虚に周囲の指摘に耳を傾ける姿勢

 持ち味の走塁でも、積極性と対応力を見せている。ブラジル戦では初回、無死一塁から篠原涼(敦賀気比)のライト前安打に好判断で三塁まで到達した。直後、浅いレフトフライで先制点となる本塁生還を果たしている。

 米国戦では5回、盗塁で二塁を陥れた。前の打者の船曳海(天理)が一塁に出塁した際、相手投手の一塁けん制に対してギャンブルスタートを切り、二塁への盗塁を決めたのを見て、「船曳の足でセーフになれたので、自分でも行けるんじゃないかな」とギャンブルスタートを切ったのだ。

 ただし、この試合では走塁のミスも出ている。この盗塁を決めた直後、二塁でけん制につり出されたのだ。1度足を上げてから振り返ってのけん制は、日本ならボークを取られているだろう。だが国際大会では認められるプレーに、オコエは引っかかってしまったのだ。

「走塁で、国際大会ならではのけん制の仕方に対応できていませんでした。そういった部分がしっかり課題として見えたので、次から試合のなかで修正していきます」

 大会序盤で課題が見えたことは、むしろ光明ととらえていいだろう。欠点を自覚し、周囲の指摘に耳を傾けながら修正していく能力と謙虚な姿勢こそ、オコエの持ち味であるからだ。

 果てしなくスケールの大きな外野手は、まだまだ発展途上にある。それを春夏通じて甲子園5回制覇の名将・西谷監督の下でプレーしながら改善できることは、侍ジャパンの何よりの価値と言えるだろう。そうしたチームで国際試合を戦いながら、対応力に磨きをかけている。

 U−18W杯で2週間の戦いが終わった後、経験値を増したオコエは大きくスケールアップしているはずだ。

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著者プロフィール

1979年埼玉県生まれ。上智大学在学中からスポーツライター、編集者として活動。05年夏、セルティックの中村俊輔を追い掛けてスコットランドに渡り、4年間密着取材。帰国後は主に野球を取材。新著に『プロ野球 FA宣言の闇』。2013年から中南米野球の取材を行い、2017年に上梓した『中南米野球はなぜ強いのか』(ともに亜紀書房)がミズノスポーツライター賞の優秀賞。その他の著書に『野球消滅』(新潮新書)と『人を育てる名監督の教え』(双葉社)がある。

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