村山紘太、厳しさを痛感した世界陸上 もう一度世界へ、リオはトラックで勝負

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“虎のようだった”面子に怖気づき……

村山紘太の世界陸上デビュー戦は、厳しすぎる洗礼を受ける結果となった 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

「なんかもう、帰りたいです」

 村山紘太(旭化成)が、弱々しい声でそうつぶやく。普段は底抜けに明るく、6月の日本選手権では、ゴールの瞬間に豪快なガッツポーズを見せていた。それからわずか2カ月。8万人を収容する巨大な“鳥の巣”の中で、174センチ、53キロの細身の体が、さらに小さく見えた。

 村山にとって初めての世界選手権(中国・北京)となった男子5000メートル予選は、14分7秒11の組17位で予選落ち。兄・謙太(旭化成)とともに、箱根駅伝などで活躍してきた次世代エースにとっては、厳しすぎる世界の洗礼だった。

 これまでは、序盤に飛び出すことも多かったが、この日は号砲を聞いてからすぐには前に出ず、先頭集団の後方に位置を取って慎重に走り始めた。最初の1000メートルを2分41秒57で通過。この後、ペースは落ちるだろうと予想していた。しかし、前の集団が落ちてこない。彼らについていかなければいけないことは分かっていたが、どうしても体が前に出なかった。

 それには精神的な理由もあった。この組には今大会の10000メートルを制したモハメド・ファラー(イギリス)を始め、5000メートル12分台の自己ベストを持つ選手が6人も集結。「練習はできていたので大丈夫かなと思っていましたが、ペースが上がった時に怖かった」と、そうそうたる面子の前に怖気づいてしまった部分はあった。

 一度おののいた気持ちに再び火をつけるのは難しく、2000メートル付近で先頭集団から脱落すると、そのままズルズルと後退し、先頭集団の背中は遠のいていった。

「海外のレースを何回も経験しないと」

ラストスパート勝負に持ち込むことができなかった。この悔しさは次のリオ五輪、さらには東京五輪への糧にしてほしい 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

 レースを終えて、村山の口をついたのは、弱気な弁ばかりだった。昨秋の仁川アジア大会5位入賞で深めた自信はあっという間にかすみ、「一瞬、届きそうな感じだった」という世界の舞台は「全然そういうものじゃなかった」と気づかされた。

 本来であれば、代表入りを決めた日本選手権の時のように、キレのあるラストスパートで勝負をしたかったところだろう。しかし、レース前には「(世界で)勝負できそうだなと思ったんですよ、4000(メートル)までいけたら」との思惑は外れ、決勝進出を懸けた勝負をすることはできなかった。

 この組トップは村山の自己ベストとほぼ同じ13分19秒38。仮に積極的に走ったとしても、粘り切れたかどうかは難しい。それでも、文字通りの惨敗に、周囲から厳しい声が飛んできても仕方がないだろう。

 課題は、世界のトップ選手と対峙しても、ひるむことのない強いメンタルを持つこと。5000メートルは、すでにリオデジャネイロ五輪の参加標準記録(13分25秒00)を突破しており、再び世界を目指すチャンスがある。今後は、顔なじみの選手と競うのではなく、海外のレースでもまれて、経験もスピードも磨いていくつもりだ。
「来年は海外のレースに出る機会が増えると思うので、そういった面で、3000メートルといった中間の(距離の)試合に出て、速いペースについていけるようにしたいです」

 以前、世界選手権後は、2020年東京五輪を見据えてフルマラソン挑戦も口にしていたが、まずはトラックに絞って、来年のリオデジャネイロ五輪出場を目指す。北京で走ったこの1本も、もう一度世界に挑戦するための大事な「海外レース経験」。この悔しさを必ずや、リオデジャネイロまでつなげてほしい。

(取材・文:小野寺彩乃/スポーツナビ)
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