Jリーグはアジアでどう見られている? 海外ジャーナリストの言葉から読み解く

宇都宮徹壱

湾岸地域で放映されるJリーグのドキュメンタリー

UAEのドキュメンタリー番組のMCであるアルデルビッシュ氏(右)と解説者で元サウジアラビア代表のアルトゥナヤン氏 【宇都宮徹壱】

 果たしてJリーグは、アジアでどう見られているのか──。

 Jリーグがアジア戦略をスタートさせた2012年を境にして、これまで韓国や中国が中心だったクラブレベルでのアジアとの交流は、一気にASEAN諸国や中東にまで広がっていった。それ以前にも、タイやシンガポールやベトナムなどでプレーする日本人選手は存在していたが、今では移籍先の一つとしてASEAN諸国は広く認知されるようになったし、代表チームや各国のトップリーグで日本人監督が指揮を執る光景も珍しくなくなった。こうした選手や指導者個人の交流は、クラブ間やリーグ間での提携を経て徐々に活発になってきているし、サポーターやメディアの相互理解もここ5年ほどで格段に進んだと実感する。

 そこで、冒頭に挙げた素朴な疑問がわいた。果たしてJリーグは、アジアでどう見られているのか──と。5大会連続でワールドカップ(W杯)に出場している日本代表については、多くのアジアのサッカー関係者からリスペクトを受けていることは誰もが知っている。ただし、Jリーグに関してはどうだろうか。このところACL(AFCチャンピオンズリーグ)のファイナルの舞台になかなかたどりつけず、ブラジル人選手が活躍すると中東や中国の金満クラブにまたたく間に引っこ抜かれてしまう。アジアという枠組みで見てみると、このところのJクラブは成績面でも経営面でも「ぱっとしない」というのが正直なところではないだろうか。ところが、である。他のアジア諸国のメディアは、Jリーグに対してわれわれが想像している以上に、実はポジティブな視線を向けているようなのだ。

「中東では、残念ながらJリーグの中継を観ることはできないが、非常に興味を持っている。というのも、以前はそれほど強くなかった日本代表が、その後アジアで一番の強豪となったのはJリーグのおかげだったとわれわれは認識しているからだ。どのようにして日本のサッカーが急成長したのか。その理由を知りたくて、われわれはJリーグを取材するために来日した」

 そう語るのは、UAEはドバイのテレビプロダクションのディレクターである。驚くべきは、彼らが作ろうとしている番組の内容である。日本サッカーがアジア最強となるまでに、どのような進化を遂げていったのかを探るべく、JリーグやJFA(日本サッカー協会)の関係者、選手や指導者を徹底取材。今秋から湾岸地域を中心に放映予定なのだという。この力の入れようからも、いかに彼らがJリーグに対して大きな関心を寄せているか理解できるだろう。

「たくさんのJリーグファンがいる」香港

Jリーグの視察に訪れていた、香港のスポーツ紙の記者たち。左からフェン、コウ、チェの各氏 【宇都宮徹壱】

 UAEのテレビクルーが来日していたのとちょうど同時期、香港のスポーツ紙数社が、やはりJリーグの周辺取材に訪れていた。香港では毎年、海外のサッカーリーグを各紙合同で取材するツアーを行っており、今回は13年以来の来日。1週間の滞在期間中に、柏レイソル、浦和レッズ、大宮アルディージャ、そして横浜F・マリノスを取材するのだという。

 香港といえば、近年は目立った戦績こそないものの、東アジアで最も古いサッカー協会(1914年設立)を持つだけに、サッカーのリテラシーが高いという印象がある。果たして、彼らがJリーグに注目する理由は何か。取材に応じてくれたのは、コウ・シケイ(『オリエンタル・デイリー・ニュース&ザ・サン』)、フェン・カマン(『アップル・デイリー』)、チェ・ホミン(『シン・タオ・デイリー&ザ・ヘッドライン』)の3氏。まずは、彼らが考えるアジアサッカーの現状について語ってもらった。

「日本は(競技)レベルが高いけれど、中国と台湾の方が成長の速さや勢いを感じますね。日本はアジアでは勝って当たり前の存在だけれど、今はそれほど伸びているわけでもない。東南アジアでは、外国人選手を多く受け入れているタイのレベルが上がっていると感じます。インドネシアもポテンシャルはあるのもの、政治的な問題があってサッカー協会が混乱している」(チェさん)

 そんな中、香港サッカー界が抱える問題点は何か。彼らによれば、観客数の減少と競技施設が限られているということ。特に前者は深刻で、平均入場者数は1000人台、ビッグゲームでも5000〜6000人くらいしか集まらないという。

「香港のファンは(自国のサッカーよりも)テレビでプレミアリーグを観ていますね。サッカーに限らず、自国のアスリートをサポートしようとする発想がない。香港の国内リーグは、今年から『プレミアリーグ』となったのですが、名前が変わっただけ」(フェンさん)

「施設の問題もあります。傑志(キッチー)というクラブが、専用のトレーニング施設を間もなくオープンさせることが話題になっていますが、他のクラブは政府からグラウンドを借りているのが現状。ですから週2〜3回くらいしか使えないんです」(チェさん)

 では、「それほど伸びているわけでもない」日本から、彼らは何を学ぼうとしているのであろうか。その答えは「ファンカルチャー」であった。

「実は香港には、たくさんのJリーグのファンがいるんですよ。日本のサッカー雑誌を読むために、日本語を勉強している人もいるくらい。それに日本には、選手とファンの距離が近い、独特のファンカルチャーがあると思うんです。競技レベルの高さだけでなく、そういったファンカルチャーの部分も、Jリーグから学びたいですね」(コウさん)

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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