Jリーグはアジアでどう見られている? 海外ジャーナリストの言葉から読み解く

宇都宮徹壱

インドネシアの記者が驚いたJリーグの風景

インドネシアから来日して、横浜FMのホームゲームを取材していたスロト氏(左)とバンガン氏 【宇都宮徹壱】

 中東のUAE、東アジアの香港に続いて最後に紹介するのが、ASEANの大国・インドネシアから来日したメディア関係者。取材に応じてくれたのは、インドネシアのテレビ局「TRANS7」のプロデューサーであるインドラディ・スロトさん、そして現地の専門誌『BOLA』の記者であるマルティナス・ラヤ・バンガンさんのお二人である。インタビューは6月20日に日産スタジアムで行われた、横浜F・マリノス対鹿島アントラーズの試合後に行われた。

──まずはそれぞれの来日の目的を教えてください。

スロト インドネシアでのJリーグのプロモーションのために取材に来ました。実は今回が初めての来日ではなく、これまで何回か生でJリーグを観ています。

バンガン 私は今回が初来日です。明日は札幌に行くんですけれど、コンサドーレ札幌のイルファン選手を通して、Jリーグがどんなリーグなのかをインドネシアのファンに伝えたいと思っています。

──今日の試合をご覧になって、最も印象に残っていることは?

バンガン 試合内容に関してはマリノスが1点でも返してくれればもっと盛り上がったんですけど(3−0で鹿島が勝利)、一番印象に残ったのはサポーターですね。両チームともたくさんのサポーターが来ていましたが、対戦相手のサポーターと隣の席に座っている光景を見てびっくりしました。インドネシアではまずあり得ないことです。そもそもアウェーのサポーターがスタジアムに入ることさえ危険ですから。

スロト 日本という国は秩序正しいというか、すべてがオーガナイズされていて、それがファンの文化に出ていると思います。インドネシアもサッカーは盛んですが、たまにスタジアムで人が殺されるくらいクレイジーな部分があります。私自身、インドネシアの熱くてエモーショナルなサポーター文化は好きですが、日本の応援スタイルもまたとても素晴らしいと思っています。

──インドネシアのファン層は日本と比べてかなり違いますか?

バンガン 違いますね。まず、インドネシアのサポーターはとても若く、ほとんどが10代の男性です。それに対して日本は、お年寄りもいれば小さい子供も女性もいる。家族で来ている人たちも多いですよね。それと日本では試合だけでなく、キックオフの2時間くらい前にスタジアムに来て、食べ物やイベントを楽しんでいます。そこもまったく違うと思いますね。日本の人たちは、サッカーを楽しむためにスタジアムを訪れます。インドネシアはどちらかというと、ストレスの発散とか感情をあらわにする場としてサッカーをとらえている傾向がありますね。

アジアのロールモデルとしてのJリーグ

インドネシアの記者が視察した横浜FM対鹿島の試合には、アウェーながら多くの鹿島サポーターが詰め掛けていた 【写真は共同】

──経済発展著しいと言われるインドネシアですが、サッカーに関する課題はどのあたりにあるとお考えでしょうか?

スロト 育成ですね。タレントという意味では、他の東南アジアの国に比べてインドネシアは豊富だと思います。それなのに強くなれないのは、育成の部分が全然できていないからです。アンダー世代の全国大会も存在しないため、それがナショナルチームの強化につながっていかない。一応クラブライセンスみたいなものはあるんですが、ファイナンスやスタジアムばかりが重視されていて、育成のところまで回っていないんですね。それから、地理的な問題も大きいです。インドネシアは国が広い上に、さまざまな島に分かれている。ジャワ島だけでもコントロールするのが難しい状況です。

バンガン アンダー世代からA代表に上がっていくときに、実力ではなくコネとか賄賂とかがモノを言うといううわさはよく耳にします。そうした悪しき伝統が、サッカーの発展を阻害している部分はあるでしょうね。それとインドネシアの協会は、現在FIFA(国際サッカー連盟)から処分を受けていますが、政治がスポーツに介入してくることも、非常に大きな問題だと思っています。

──最後に、今回の取材でJリーグから何を得たいのか、教えてください。

スロト Jリーグのクラブライセンスの中でも、特に育成組織を必ずクラブに持たせるのはインドネシアも見習うべきだと思います。インドネシアでは、クラブの都合でルールが少しずつ変化しているところがあるんです。Jリーグのように健全なリーグ運営のために「ルールを順守できないクラブはリーグに入れない」という方針は、われわれも取り入れるべきだと思います。

バンガン 国内リーグの整備が、代表の強化にしっかりつながっているところですね。強くてしっかりした国内リーグがあるからこそ、代表チームも強くなっていく。今のインドネシアにはない部分ですので、ぜひとも見習いたいですね。

アジア各国の新聞などでは、Jリーグが多く報道されている 【写真提供:Jリーグ】

「Jリーグの開幕が、日本サッカーの発展にどのように寄与したのかを知りたい」
「日本には選手とファンが近い、独特のファンカルチャーがあると思う」
「対戦相手のサポーターと隣の席に座っている光景を見てびっくりしました」
「強くてしっかりした国内リーグがあるからこそ、代表チームも強くなっていく」

 Jリーグの取材に訪れた海外のメディア関係者が、驚いたり感心したりした事柄は、いずれもわれわれには至極当然と思えることばかりである。今後、Jリーグが取り組んでいかなければならない課題は山積しているが、それでも、アジア諸国がJリーグを一つのロールモデルと捉えているという事実については、素直に受け止めて良いと思う。向上心と危機感を常に持ち続けながらも、決して自信は失わない。そういったスタンスが「アジアの中のJリーグ」に求められるのではないだろうか。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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