“If”の多いヤンキースを待つ運命は? 早期の低迷か、それとも優勝争いか

杉浦大介

それでも「優勝争いに食い込む力ある」

早い時期から低迷するか、上位進出か、近年にない注目度の低さも不気味なヤンキース 【Getty Images】

 もっとも、それほど悲観的なる必要もないのかもしれない。筆者は今春のキャンプは取材していないが、それでも多くのオープン戦をテレビでチェックした。そして、顔ぶれやプレーを見る限り、ヤンキースに一部で言われているほど悪い印象は抱かなかった。

「優勝争いに食い込める力はあるが、多くの誤算があったときに耐えられるほどの底力はない。現時点では良い感じだが、明日にどうなるか分からない」

 基本的に『ニューヨーク・ポスト』紙のジョエル・シャーマン記者の記述に同意する。給料総額に約2億ドル(約239億円)が費やされたチームとしては層が薄く、ケガ人が出たときの不安は否定できない。かつて“悪の帝国”と言われたころの派手さや豪華さも奇麗に消えうせた。ただその一方で、救援投手陣、内野守備といった地味ながら重要なエリアが良くなった。

 アンドルー・ミラー、デリン・ベタンセス、デービッド・カーペンター、ジャスティン・ウィルソンらの本格派がそろって力を出せば、ブルペンは強力な武器になり得る。ジーター不在の影響が語られているものの、昨季後半は打率2割3分5厘に終わった“キャプテン”より、身体能力の高いグレゴリアスの方が遊撃手としてチームを助けるかもしれない。

キーマンはピネダと田中の二枚看板

 そんなチームの中で、最大のポイントになるのは誰か。あえて指名するなら、とりわけ層の薄さが指摘される先発陣の中核を務めるピネダと田中だ。中でも希有(けう)な才能を秘める26歳の豪腕ピネダだろう。

 11年のメジャーデビュー時から“怪物”と呼ばれた右腕は、今春のプレシーズンゲームでも支配的な姿を垣間見せてきた。このピネダが今年中に一気にエースの座を受け継ぎ、オールスター、サイ・ヤング賞の候補になっても筆者はまったく驚かない。そして、ピネダと田中が先発の1、2番手として確立し、ブルペンのミラー、ベタンセスと強力カルテットを形成すれば、ヤンキースの上位進出も見えてくるはずである。

 もちろん、それ以外の不確定要素も無視はできないが、ただア・リーグ東地区で不安材料が多いのはヤンキースだけではない。レッドソックスはエース不在、ブルージェイズはマーカス・ストローマンの故障離脱で先発が弱まり、オリオールズはネルソン・クルーズ(マリナーズ)、ニック・マーケイキス(ブレーブス)といった主力が移籍し、レイズからもジョー・マドン監督とアンドリュー・フリーマンGMが抜け……。

 一時期と比べて明らかに弱体化した地区内で、ヤンキースがサバイブしていく可能性がないとは思わない。前述の通り、層が薄いだけに負け越し成績もあり得るが、逆に90近くの勝ち星を挙げても不思議ではない。

 いずれにしても、「If」の多いチームのシーズンはドラマチックになりがちである。前述したピネダ、田中の2枚看板、さらにはベルトラン、マキャンらの一部の主力打者が4月に波に乗れば面白くなる。開幕前の評判、注目度は近年になく低くとも、劇的に勝ち始めさえすれば、この街の人々はすぐに手のひらを返してスタンディングオベーションを送るはずである。

2/2ページ

著者プロフィール

東京都生まれ。日本で大学卒業と同時に渡米し、ニューヨークでフリーライターに。現在はボクシング、MLB、NBA、NFLなどを題材に執筆活動中。『スラッガー』『ダンクシュート』『アメリカンフットボール・マガジン』『ボクシングマガジン』『日本経済新聞・電子版』など、雑誌やホームページに寄稿している。2014年10月20日に「日本人投手黄金時代 メジャーリーグにおける真の評価」(KKベストセラーズ)を上梓。Twitterは(http://twitter.com/daisukesugiura)

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント