振付師バトルが語る羽生との共同作業 『パリの散歩道』誕生秘話、新プログラム
羽生やチャンの振り付けを担当
プロスケーターとしての活動に加え、振付師としてもその才能を発揮しているジェフリー・バトル 【スポーツナビ】
そして11月7日から始まる第3戦・中国杯では、いよいよソチ五輪金メダリストの羽生結弦(ANA)が登場する。羽生は10月に開催されたフィンランディア杯にエントリーしていたが、腰痛のため欠場。そのため中国杯が今季初戦となる。
昨季は、五輪だけにとどまらずGPファイナル、世界選手権も制すなど、シーズン後半の男子フィギュアはまさに羽生一色に染まった。特に『パリの散歩道』を使用したショートプログラム(SP)では、史上初の100点超えを記録。演技をするたびに次々とベストを更新していき、名実ともに世界一の選手に成長した。
この歴史的なSPの振り付けを担当したのがジェフリー・バトル(カナダ)である。2006年のトリノ五輪で銅メダルを獲得し、08年の世界選手権を制した経験を持つ名選手は現在、プロスケーターとしての活動に加え、振付師としてもその才能を発揮。羽生やパトリック・チャン(カナダ=今季は休養)をはじめ、多くの選手の振り付けを行っている。そんなバトルに、羽生との秘話を聞いた。
史上最強のプログラム『パリの散歩道』
『パリの散歩道』は羽生の代名詞となるプログラムとなった 【写真:中西祐介/アフロスポーツ】
「ユヅルの振り付けを担当したのはこのシーズンが初めてで、僕は緊張していたんだ。ぴったりの曲を見つけたんだけれど、彼は競技用として似たような曲を使ったことがなかったから、どんな反応が返ってくるか想像もつかなくて……。
でも振付師もスケーターも、音楽に飛び込まなければいけないときがある。音楽を再生して、ときには大音量でかけて音を体感し、この楽曲がどれだけ素晴らしいかを説かなければいけない。でも彼はすごく楽観的で、進んでこの曲を受け入れてくれたんだ」
北アイルランドのギタリスト、ゲイリー・ムーア作の同曲はロック調のナンバー。それまでクラシック調の曲を使用することが多かった羽生のイメージを一新させるものだった。バトルによると、羽生のスケーティングには「男らしい荒々しさ」や「奔放さ」があるのだという。その個性を引き出すための選曲だったというわけだ。
「結果的に彼は立派に演じてくれた。『パリの散歩道』は、この曲が持つ世界観を深く理解する必要があるんだ。もし振り付けに忠実に演じていたら少し退屈で、ワクワク感がないプログラムになっていたかもしれないね。
でも、彼はよくやってくれたと思う。僕は彼の動きにちょっとしたリズムを与えた。個性というものを見ている人に伝えたいわけだから、これはとても大切なんだ。最初はすごく神経質にもなったけれど、最終的には素晴らしい経験になったと思っているよ」
12年のスケートアメリカで、当時のSP歴代最高得点を更新して以来、羽生はこのプログラムとともに世界一への階段を駆け上がってきた。バトルの持つ慧眼(けいがん)と羽生の才能がシンクロした結果、誕生した奇跡的な作品と言っても決して過言ではないだろう。