振付師バトルが語る羽生との共同作業 『パリの散歩道』誕生秘話、新プログラム

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「ユヅルとの作業は驚きに満ちている」

かつて名選手として活躍したバトルだからこそ、選手との共同作業を重要視している 【写真:長田洋平/アフロスポーツ】

 それでは、羽生との振り付け作業はどのように行われているのか。

「ラッキーなことに彼はトロント(カナダ)で練習をしているから、一緒に作業をする機会も多くある。そういったつながりを常々持つことでパフォーマンスはより成熟するし、より進化すると僕は思っている。悪い方向にも進まないし、ちょっと修正したいと思ったらその機会もすぐに持てるからね。

 ユヅルとの作業は驚きに満ちたものだ。彼は振り付けにも熱心に参加してくれる。中には、ただ言われたことだけをやる選手もいるけれど、彼は振り付けのプロセスの一部分を担ってくれていて、コラボレーションみたいで楽しいよ。スケーターと振付師の間にものすごいエネルギーが生まれるしね」

 やはりと言うべきか、1人で作るものよりも、優れた才能が結集して生まれた作品の方が輝きを増す。振付師が提案したものを実際に形にするのは選手。もしお互いのイメージに齟齬(そご)があった場合、そのずれはプログラムにも反映されてしまうだろう。だからこそ、バトルは「スケーターが気分よくできることをやるべきだ」と語る。

「たとえ僕が熱心にやりたいと思ったことでも、選手が『ちょっとできないな』と言ってきたら、話し合ってトライする時間を与えるんだ。『今はできないかもしれないけれど、2週間後にはできるかもね。僕を信じて、やる価値はあるから』というふうにね。もしくはユヅルが『こっちの動きの方がいいな』などと言うかもしれない。強調したいのは、選手と振付師にやり取りがあるということ。それが健全な関係だと僕は思っている」

 かつて名選手として活躍したバトルならではの考えだろう。お互いのコミュニケーションを密に取ることで、1つの作品を共同で作り上げていく。それこそ振付師としてのバトルが、最も重要視していることなのだ。

バトルの願いが込められた今季のSP

羽生の今季SPには「自分を見失わず、さらなる飛躍を遂げてほしい」というバトルの願いが込められている 【スポーツナビ】

 五輪王者として臨む今季、羽生はSPの振り付けを再びバトルに依頼している。バトルが選んだのはショパンの『バラード第1番ト短調』。前作から一転、今度はクラシックのプログラムとなる。その意図はどこにあるのか。

「今回の曲に、ユヅルと音楽のコネクションをすごく感じたのがきっかけだったんだ。彼は今季、クラシックで滑りたいという方針を持っていた。曲を聴いたときに、『この音楽は彼のためのものだ』と、そう自分の心に話し掛けられたような感じがした。

 五輪で優勝した後なら、どのアスリートでもあらゆるところから引っ張りだこになる。あの人もこの人も『ぜひパフォーマンスしてください!』と群がってくる。この曲の冒頭は、まさにそういった騒がしい周囲との対比を示していると思う。僕はそのコントラストを出したかったんだ。今、彼がそういったちやほやされる環境の中でも、リンクに立って何の心配もせず自分のことだけに集中している状態を。それがこのプログラムのアイデアなんだ」

 10代で世界の頂点を極めた羽生は今季、かつてないほどのプレッシャーに苛まれるはずだ。世間の注目度も高く、他の選手からのマークもより一層厳しくなるだろう。そんな状況でも、自分を見失わず、さらなる飛躍を遂げてほしいというバトルの願いが、このプログラムには込められている。

 今回のSPでは、4回転ジャンプを基礎点が高くなる演技後半に持ってきている。ミスなく滑り切れれば、昨シーズン以上のスコアが出ることは確実。新生・羽生結弦のベールがいよいよ解き放たれる。

(取材・文 大橋護良/スポーツナビ)

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