なぜ韓国はアジア大会に本気で臨むのか 頂点へ油断なしも、命運を握るのは日本?

室井昌也

韓国を取り巻く特有の事情

ここまで3戦全勝、無失点と圧倒的な力を見せた韓国。そこには自国開催のみならず、本気になる理由があった(写真は前回・広州アジア大会のもの) 【Getty Images】

 アジア大会(韓国・仁川)の野球競技は予選リーグを終え、出場8チームの中から準決勝に進出する4チームが決まった。
 予選の試合内容はというと、全12試合中、コールドゲームが9試合。うち8試合は、敗れたチームが無得点というワンサイドゲームだった。その原因には日本、韓国、チャイニーズ・タイペイ(以下、台湾)の野球発展地域と、その他のチーム(中国、パキスタン、モンゴル、タイ、香港)との実力差があるが、中でも韓国は予選を3戦全勝、無失点。他のチームとは大きく異なる本気度を見せている。前回大会の覇者・韓国がアジア大会に全力で臨む理由。そこには自国開催に限らない、「兵役免除」という特有の事情がある。

 国際大会のたびに取り上げられる韓国の兵役。ここであらためて整理すると、韓国の男子には健康面や家庭の事情などを除き、30歳になるまでに入隊が義務化されている。しかし、スポーツ選手は以下の条件を満たすと、約2年間の兵役が免除。4週間の基礎軍事訓練のみで義務を果たしたことになる。兵役法施行令第68条の11に記されたその条件とは、「オリンピックでの3位入賞(メダル獲得)」と「アジア大会での1位入賞(金メダル獲得)」だ。ちなみに2006年のワールド・ベースボール・クラシック(WBC)と、02年の日韓共催サッカーワールドカップで兵役が免除されたことがあるが、それはあくまで特例だった。

 野球の場合、オリンピックの正式種目から外れ、規模が縮小傾向にあるアジア大会でも、次回のジャカルタ大会では野球の除外が検討されている。そのため、今回の大会が野球で得られる最後の兵役免除になる可能性があり、兵役義務が残る選手や、彼らの所属球団にとって今大会の意味はとても大きい。韓国は出場メンバー24人中、23人がプロ選手で、大会期間中はプロ公式戦を一時中断していることからも、金メダル獲得への意欲を感じるだろう。今回のメンバーで兵役義務があるのは13人だ。

ベストメンバーがそろった代表

 今回のメンバー選考に際し、プロ組織の韓国野球委員会(KBO)と大韓野球協会は「兵役義務はメンバー選考に考慮しない」としながらも、各球団から兵役義務がある主力選手を、おおむね1〜2名を選びバランスをとった。その戦力はというと、現在の韓国プロ野球のベストメンバーと言ってもよい顔ぶれがそろっている。

 投手は大会の特性上、先発型の投手の数が少ないが、決勝戦に控えるのは北京五輪やWBCでの登板で、日本でその名が知れ渡った金廣鉉(キム・グァンヒョン、26=SK)。また台湾戦に先発し、4回を2失点に抑えた梁ヒョン種(ヤン・ヒョンジョン、26=KIA)の両左腕が2大エースだ。クローザーには09年のWBCで日本戦に3度先発し好投したサウスポー・奉重根(ポン・ジュングン、34=LG)、そして東京ヤクルトで活躍し、メジャーリーグを経て、今季、韓国球界に復帰した林昌勇(イム・チャンヨン、38=サムスン)が控える。

 打線では昨年、一昨年と2年連続、打点、本塁打、MVPを獲得した4番の朴炳鎬(パク・ピョンホ、28=ネクセン)と、長打力と強肩を誇る遊撃手・姜正浩(カン・ジョンホ、27=ネクセン)が並ぶ。朴炳鎬は今季も48本塁打でホームラン争いを独走。スコアボードの上を超える特大アーチを連発し、ファンを沸かせている。また姜正浩は今春、横浜DeNAの沖縄キャンプに招待参加し、オフにはポスティングでのメジャー行きも視野に入れている注目選手。姜正浩の今季の成績は打率3割6分(リーグ5位)、本塁打38本(2位)、打点107(3位)だ。

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著者プロフィール

1972年東京生まれ。「韓国プロ野球の伝え手」として、2004年から著書『韓国プロ野球観戦ガイド&選手名鑑』を毎年発行。韓国では2006年からスポーツ朝鮮のコラムニストとして韓国語でコラムを担当し、その他、取材成果や韓国球界とのつながりはメディアや日本の球団などでも反映されている。また編著書『沖縄の路線バス おでかけガイドブック』は2023年4月に「第9回沖縄書店大賞・沖縄部門大賞」を受賞した。ストライク・ゾーン代表。

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