世界的スター選手はなぜ日本を選ぶのか 彼らが語る日本ラグビーの魅力

斉藤健仁

「日本人が思っている以上に価値のあるリーグ」

今季からサントリーに加わった元南アフリカ代表のスカルク・バーガー 【斉藤健仁】

 8月22日、1万人を超える観衆の中で、昨シーズン3位の東芝が王者パナソニックを39対26で下し、12年目のトップリーグが開幕した。東芝には元ニュージーランド(以下NZ)代表のCTB(センター)リチャード・カフイが攻守にわたって存在感を示し、パナソニックもSO(スタンドオフ)に元オーストラリア(豪州)代表のベリック・バーンズが司令塔として君臨していた。

 2012年度からトップリーグでは試合に出場できる外国人が3人から2人と減ったが、海外のトップ選手が各チームに入団する流れは止まらなかった。もはや誰が来てもほとんど驚かないのが現状だ。今シーズンもサントリーに南アフリカ代表FL(フランカー)スカルク・バーガー、東芝には南アフリカ代表のSO/CTBフランソワ・ステインらビッグネームが加入した。

 そんなトップリーグを「日本人が思っている以上に世界的に価値のあるリーグ」と言うのは、パナソニックの飯島均部長だ。2012年度に「ラグビー界でもっともセクシーな選手」と称されていたNZ代表のソニー・ビル・ウィリアムズを獲得した元監督はいう。
「金銭的に見れば、フランスやイングランドの方が日本よりも上ですが、試合数が多くハードです。トップリーグはNZや豪州の選手にとって(欧州と比べて)近くて、プライベートの時間が取れる。あと日本はホスピタリティーもあり、安全という利点もある。外国の選手はお金が一番の選手もいるが、生活を大事にしている選手も多い」

昨季MVPのバーンズ「日本は環境面で良いと感じた」

パナソニックのバーンズ(中央)は昨季のMVPに輝いた 【斉藤健仁】

 引退した元イングランド代表の司令塔ジョニー・ウィルキンソンはフランスのクラブでの年俸が2億円を超えていたようだが、トップリーグにおける外国人選手の最高年俸は1億円前後と推測される。ただ、試合数は日本のトップリーグ、日本選手権も含めて18試合が最多だが、フランスリーグは欧州のクラブ王者を決めるハイネケン・カップも入れると最多で38試合と倍以上となる。

 昨シーズンのトップリーグのMVPであるバーンズに日本に来た理由を聞いてみると「フランスや豪州でプレーしていた方が収入の面では良いかもしれないが、日本が決して安いわけではないんだ。日本でプレーする方が自分にとっても家族にとっても環境面で良いと感じた。豪州からも近いので家族も喜んでいると思う」。つまり、ラグビーとプライベートを両立するための選択だったというわけだ。

 ただNZや豪州の選手たちは、代表に選出されるためには協会と契約し、南アフリカも含めた3カ国で行われている「スーパーラグビー」でプレーすることが欠かせない。そのため、両国の選手はワールドカップに出場したければ、海外でプレーすることはできない。それでも、代表でのプレーさえ考えなければ8月から開幕し1月末に終わる日本のトップリーグと、2月から始まり8月上旬に終わるスーパーラグビーと両立可能だ。実際、多くの選手がこういった選択をしている。

南ア出身選手にとっては治安の良さも魅力に

トップリーグ開幕戦でトライを決める元南アフリカ代表のピーターセン(中央下) 【斉藤健仁】

 しかし、南アフリカは事情が異なり、国内でプレーしていなくても代表でプレーすることができる。そのため、代表クラスの選手でも、試合数がさほど多くなく、スーパーラグビーとも両立可能な日本を選ぶ選手が増えている。また南アフリカの選手にとっては、日本の治安の良さも魅力的に映るようだ。ある元代表選手は「南アフリカでは車を運転している時、赤信号で止まっていても襲われることがあるほどなんだ。日本では携帯を置き忘れても盗まれないのにはびっくりした!」と真顔で話していた。

「来年のワールドカップには出場したい!」というサントリーに加入した南アフリカ代表バーガーは、日本を選んだ理由を「友人の(南アフリカ代表SHフーリー・)デュプレア(サントリー)の影響が一番です。日本のラグビー文化がすごく良くて、いかに楽しんでいるか聞いていた。給料の面でも半年間で考えると、歳を取っている選手にとっては魅力的かもしれないね」。31歳のプロ選手として、サラリーや試合数などを考慮しての来日だったことをうかがわせた。

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著者プロフィール

スポーツライター。1975年生まれ、千葉県柏市育ち。ラグビーとサッカーを中心に執筆。エディー・ジャパンのテストマッチ全試合を現地で取材!ラグビー専門WEBマガジン「Rugby Japan 365」、「高校生スポーツ」の記者も務める。学生時代に水泳、サッカー、テニス、ラグビー、スカッシュを経験。「ラグビー「観戦力」が高まる」(東邦出版)、「田中史朗と堀江翔太が日本代表に欠かせない本当の理由」(ガイドワークス)、「ラグビーは頭脳が9割」(東邦出版)、「エディー・ジョーンズ4年間の軌跡―」(ベースボール・マガジン社)、「高校ラグビーは頭脳が9割」(東邦出版)、「ラグビー語辞典」(誠文堂新光社)、「はじめてでもよく分かるラグビー観戦入門」(海竜社)など著書多数。

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