夏の北海道サイクリング旅行の思い出 「松原渓のスポーツ百景」
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暑い時期は、涼しい土地でアウトドアを
小学校3年生の夏休みに行った北海道サイクリング旅行の旅日記 【松原渓】
暑い時期は、涼しい土地でアウトドアを楽しみたい。安曇野や軽井沢、上高地、那須塩原、清里……ひんやりと澄んだ空気を味わいながらサイクリングをしたら気持ちいいだろう。カヌーやカヤック、釣りもチャンスがあったら挑戦してみたいなぁ……。
そんなことを考えていたら、小学校3年生の夏休みに、父と行った北海道サイクリングの旅を思い出した。輪行(サイクリストが自転車をキャリーバッグに入れて、鉄道、船、飛行機などを使用して運ぶ手段)で千歳空港までMTBを運び、7日間で約500キロを走った。
その時の旅の日記を母が押し入れの中から探し出してくれた。手作り感たっぷりの小冊子。表紙には、「渓とパパとの北海道MTBツーリング日記(1992年8月23日〜8月31日)」と書いてある。玉手箱を開けるような気持ちでページをめくった。
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「今日から1週間、『北海道MTBサバイバル・ツーリング』が始まります。ばらした(輪行のために解体した)MTBをかついで、全部で60キロ以上もある荷物を運び、朝の7時すぎに家を出ました。家から息をする暇もないほどの力仕事で、2人のポロシャツは、絞ればジャーッと汗がこぼれそうなほどボトボトです。(中略)羽田空港で搭乗手続きを済ませ、空港バスから札幌千歳空港行きの便に乗り込みました。やがて右下に、岩手県の東側を限るリアス式海岸が見え、しばらくして、雲の切れ間から北海道の森や山が見えました。じきに千歳空港に到着です」
千歳空港から在来線を乗り継ぎ、釧路駅へ。在来線の車内販売では2人でカニ弁当と北海幕の内弁当、牛乳がたっぷり入ったアイスクリームのデザートを食べたそうだ。駅前広場でMTBを輪行袋から取り出し組み立てて、いよいよ旅がスタート。父がアーレンキー(組み立てに必要な工具)を忘れたことに気づき、売っているお店を探すのに苦労した。近くの宿で、夜は大きな皿に乗ったまるまる一匹の花咲ガニや名物のツブ貝など、海の幸を堪能した。くぅ〜贅沢(ぜいたく)!
【2日目】釧路〜釧路湿原〜弟子屈町(走行距離90km)
「釧路湿原のど真ん中の釧路川の小さな流れの横にある展望地でひと休み。モノキュラー(単眼鏡)で覗いてみると、草むらの中にタンチョウヅルが羽を広げて歩いているのが見えました。東京23区の半分の広さもある湿原の真ん中に一羽ポツンと動いているタンチョウヅルは、目だけではなかなか見えません」
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【3日目】弟子屈〜摩周湖〜美幌町(65km)
「今日は魔の“美幌峠越え”です。標高差約350m、距離約10kmの登り坂は、最後の2、3kmが心臓破り。展望台からの眺めは、このツーリング中で一番といっても良いほどの素晴らしい眺めでした。足元には屈斜路(くっしゃろ)の全体が箱庭のようで、阿寒湖の周りの山も丸見え。この眺めだけで疲れもフッ飛んでしまい、苦しい登りが報われました」
何度も限界を超えたこの峠越えは、「苦しい挑戦の先にこそ、大きな感動がある」ことを教えてくれた。旅の途中にいろいろな人から声をかけられたが、どこに行っても「ボク、頑張ってるね!」と男の子と間違われたのを覚えている。
【4日目】美幌〜北見〜温根湯(65km)
【5日目】温根湯〜留辺蘂〜層雲峡(72km)
「今日はこのツーリングのハイライト。標高1050mの石北峠(せきほくとうげ)の頂上まで、その標高差は約700m。『恐怖の石北峠(せきほくとうげ)越え』と名付けました。民宿のおかみさんがずいぶん励ましてくれ、大きなおにぎりを2個と、その袋の中にビタミンドリンクを2本入れてくれました」
車が通る峠としては北海道で2番目に高いという石北峠。「小学3年生でこの峠を越えてきた子は初めてだよ」と、峠の頂上にある茶店のおばちゃんが言ってくれたのが嬉しかった。出発する際に民宿のおかみさんがくれたおにぎりは、それまでに食べたどんなおにぎりよりも美味しかった!
【6日目】(74km)〜旭川町
「愛別町から当麻町にかけては石狩川に沿って、ずっと田んぼや畑ばかり。ここは北海道でも有数の米や野菜の産地。途中、道路わきにある農産物直売所で、スイカとトマトを食べました」
【7日目】(48km)旭川美瑛町
【8日目】(45km)美瑛〜富良野
旅の最終地点、富良野駅では『北の国から』の有名なテーマ曲がずっと流れていたのを覚えている。懐かしいメロディーを聞きながら、1週間の疲れと達成感、冒険が終わってしまう寂しさも少しだけ感じた。帰りに友達や母へのお土産に大量のマリモを購入。小学生の私は、「北海道といえばマリモとクマ」というイメージだったらしい(笑)。
【9日目】 千歳空港〜帰宅
輪行ツーリングで冒険気分はいかが?
地平線まで続くまっすぐに伸びた一本道や、その両脇に広がるタマネギ畑。湿原の中に凛と佇むタンチョウヅル。峠の上で見た絶景や、1日の終わりに浸かる温泉の気持ちよさ。カニも美味しかったけれど、サイクリングの道中で食べた茹でたてトウモロコシや新鮮なソフトクリームは本当に美味しかった。
もちろん楽しいことばかりではなかった。大雨に降られた日も何日かあったし、疲れて、もう走りたくない!と思ったこともあった。また、列車の切符をなくしたり、父が買ってくれたお土産を落としたり、おっちょこちょいな私は父をよく怒らせた。親子げんかの内容まで書いてあるのには笑った。かけがえのない経験をさせてくれた父に心から感謝したい。
費用は当時、総額で20万円以上(2人/飛行機代含む)かかったそうだ。毎日どこまで走れるか予想がつかないため、宿泊する宿を予約するのが夕方になり、ハイシーズンも重なって手ごろな宿が取れなかったのも理由だろう。
今は時代が変わり、手ごろな宿がスマートフォンで一発検索できる。ネットでは輪行用のバッグや自転車グッズも充実している。同じ旅をするにしてもかなり節約できそうだ。この夏は、輪行ツーリングで冒険気分を味わうのもいいかも?
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