広島カープファンの輪が広がり続ける理由、ユニーク施策の原点は「感謝の気持ち」

篠崎有理枝

“お礼”から生まれた「関東カープ女子野球観戦ツアー」

「関東カープ女子野球観戦ツアー」など、ユニークな施策が目立つカープのファンサービスに迫る(写真はマツダスタジアム) 【篠崎有理枝】

 23年ぶりの優勝に向け、首位争いを続ける広島東洋カープ。最近では「カープ女子」の存在がクローズアップされ、先日開催された「関東カープ女子野球観戦ツアー」も話題になった。本拠地・広島のみならず、関東で行われる試合でもビジター席が赤く染まり、多くのカープファンがスタジアムに詰めかける。「関東の球場が、カープと皆さんとの出会いの場になってくれたらうれしいですね。選手に聞くと、『ここでも応援してくれているんだ』とテンション上がるそうですよ」と話すのは、球団の企画グループ長兼広報室長の野平眞氏だ。全国に広がるファンに向け、球団が考えるファンサービスとはどのようなものだろうか。

 若い女性ファンを対象としたファンサービスに注目が集まるカープだが、野平氏によると「特定の人に向けたものは考えていないんですよ」という意外な答えが返って来た。5月10日に実施され話題になった「関東カープ女子観戦ツアー」は、東京‐広島間の往復新幹線代を球団が負担して行われたが、同イベントも「特定の人に向けたもの」ではないという認識だ。
「球団としての“お礼”ということでイベントを行いました。それでもチケットは買っていただいていますから。ツアーを行って、関東のお客さんを呼び込もうということではないんです。関東でカープを応援してくださっている方たちは、広島に行こうと思っても交通費を毎回出して来るのは難しい。『広島で野球を見てください』という気持ちから行われたもので、関東の女性に向けて特別アプローチしているわけではないんです。せっかく来てもらうんだから、『楽しかった』と言ってもらえるように、メーキャップ講座やプレゼントなどの企画を盛り込みました」

家族3世代で野球を楽しめる環境づくり

種類豊富な座席を用意するマツダスタジアム。家族3世代で来場しても楽しめる工夫を随所に施している 【篠崎有理枝】

 大事にしていることはスタジアムに来て、野球を見てもらうことだという。マツダスタジアムは座席の種類が豊富なことでも知られており、5〜8人で観戦できるグループ席や、最大200人で利用できるパーティーフロアなどがある。
「通常のスタジアムでは、話をするのは横並びや前後ろの人たち。グループ席では野球に興味が無い人でも、みんなといっしょにスタジアムに来て、ご飯を食べたりお酒を飲んだり、お友達や家族と話をして楽しんでくれればと考えています」

 球場を見回してみると、家族3世代で観戦している人たちが目についた。
「『女性ファンが増えましたね』と声を掛けられることが多いのですが、見ているとお年寄りの方が増えたように思います。スタジアムのバリアフリー化を進め、トイレに行きやすい環境を整えました。また、座りやすい席や、長時間座っていても楽な席があるのも要因だと思います」
 おじいちゃん、おばあちゃんを誘って、家族みんなで観戦しやすい環境が整っている。また、スタジアムに来るファンが飽きることがないように、毎年違うシートを考えているという。
「新しい情報を常に発信するようにしています。それができるのは、できたばかりのスタジアムのメリットだと思っています」

 スタジアムグルメにも、ファンのことを考えた工夫がある。2008年まで本拠地としていた広島市民球場では、多数の業者がフードメニューを販売していたが、マツダスタジアムでは1つの業者に委託する形をとった。
「さまざまなお店が入ると『ビールを売りたい』『お弁当を売りたい』と販売したいものが偏ってしまいます。業者を1つにすることで『ビールを売る代わりに、1試合で10人しか買わないかもしれないけど、子どもが喜びそうなワッフルを売ってください』とお願いしてお店を出してもらっています」
 子どもたちや女性が観戦に来ても、楽しめるものがどこかにあるように配慮されているのだ。他にもディスプレーを変えたり、期間限定メニューを設けたり、前に訪れた時と同じということがないように心掛けているという。

ファンサービスに選手も協力

数分で完売した「オールスターファン投票選出記念Tシャツ」は出場選手発表の翌日には販売された。野平氏は「デザイナーや外注業者も常に状況を気にかけています」と販売までの早さの秘密を語る 【篠崎有理枝】

 カープと言えば斬新なグッズも話題だ。6月28日に発売された「オールスターファン投票選出記念Tシャツ」は、出場選手が決定した翌日に販売され、数分で完売するという人気だった。サヨナラホームランや、初勝利記念Tシャツなども販売されているが、試合の翌日にはデザインが決まっているそうだ。
「『欲しいな』と思ったときに買っていただけるように、デザイナーや外注業者も常に状況を気にかけています」
 このような準備を怠らないからこそ、タイムリーに商品が届けられるのだ。

 グッズや試合後のイベントには、選手の意見も取り入れられている。「選手も『こんなことしましょうよ』と言ってきてくれるんですよ」と野平氏。球団や選手がアイデアを出し合い行われるファンサービスは、ファンを取り込もうという考えではなく、いつも応援してくれている感謝の気持ちから行われている。全国にカープファンの輪が広がり続ける理由が、そこにあるような気がした。
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著者プロフィール

東京都狛江市出身。川村学園女子大学卒業。学生時代からプロスポーツチームで刊行物の編集に携わる。 卒業後は、スポーツ新聞社、雑誌社に勤務。現在はフリーで執筆活動を行う。

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