夏連覇を目指し―高橋光成、雌伏の春=昨夏甲子園V投手の今を追う
トレーニングで筋力強化、それが今の課題
昨夏甲子園V投手・前橋育英高の高橋光成、連覇へ向けた“雌伏の春”を追った 【写真:平野敬久】
「一番に(トレーニング場へ)行って、一番最初に始めたのに、終わったのは一番最後。今日は一段とキツかったです」
下半身強化のためのスクワットや、股関節周りの腸腰筋などインナーマッスルの強化。本格的な春の訪れを前に、トレーニングで筋力をつける。それが、今の高橋に与えられた課題だった。
18Uでの台湾遠征、大きな転機に
高橋は「(先輩キャッチャーの小川)駿輝さんに助けられた」と謙遜するが、188cmの長身から投じるストレートだけでなく、落差のあるフォーク、スライダーなど豊富な球種も武器として、大会を代表する好投手の1人として名を挙げられるようになり、大会後は18U野球世界選手権日本代表にも選出された。
初めて日の丸をつけて臨んだ、台湾遠征。これが、高橋にとっては大きな転機になったと振り返る。
「プロに行った選手とか、すごい人たちに囲まれて、野球のこと、普段の生活のこと。心に響くことばかりでした」
特に大きかったのは、松井裕樹の存在だと言う。
「自分は子どもの頃から田舎育ちだったから、夏場は上半身裸で過ごすのが当たり前。肩のことなんて考えず、上半身裸で川に入って遊ぶのが日常でした(笑)。でも、松井さんはどんな時も肘や肩に気を配って、普段の食事にプラスしてサプリメントを摂ったり、自分の体に気を配る姿勢、意識の高さをものすごく感じました。(自分が)甲子園に出る前からすごい人だと思っていたけれど、今はそれ以上。松井さんは、僕の尊敬する人です」
同学年・安楽智大のピッチングに衝撃
昨年の18U台湾遠征は大きな転機に、特に同学年・安楽(左)の存在には大きな衝撃を受けた 【写真は共同】
高橋と同学年で、済美高校のエース、安楽智大だ。
「スピードと変化球のキレがすごいんです。安楽のピッチングを見ていたら『自分はこのままじゃダメだ』と思って、とにかく何とかしなきゃ、と。18Uから帰ってきてすぐ、フォームを変えた方がいいんじゃないかと(荒井)監督さんに相談したんです」
安楽のピッチングに衝撃を受けたことに加え、アメリカ戦でホームランを打たれたことも、高橋が「このままじゃダメだ」と思う要因に働いた。カーブ、フォーク、スライダー、ツーシームと高橋が投げられる変化球の種類は決して少なくないのだが、それでも足りないと思い、「もっと変化球を投げなきゃならない、フォームも変えたい」と荒井監督に直訴した。
焦る高橋に、荒井監督が投げかけた言葉は実にシンプルだった。
「ベストが10段階の10だとしたら、アメリカ戦でホームランを打たれた時の状態はどれぐらいだと思う?」
「5〜6ぐらいです」
「ベストの状態で打たれたなら何かを変えなきゃいけないかもしれない。でも5〜6割の力で打たれたのなら、今度対戦する時は10にすればいいんじゃないか? それはきっと、フォームを変えることでも、球種を増やすことでもない。体力をつけて、今投げられる球種の質を磨いて、10の力を出し切れるようにすることなんじゃないか?」