夏連覇を目指し―高橋光成、雌伏の春=昨夏甲子園V投手の今を追う

田中夕子

焦りも迷いも消えた「今しかできないことを」

今は焦りも迷いもない、夏の大きな目標に向けて「今しかできないことに取り組まなきゃ」 【写真:平野敬久】

 今、自分が何に取り組むべきか。明確な目標ができると、焦りも迷いも消えた。
 夏の大会が終わった直後の秋季大会では、太田工業に3−4で初戦敗退。
 前夜遅くに台湾から帰国したばかりの高橋に登板予定はなかったのだが、急遽、4回からマウンドへ。ふくらはぎに張りもあり、踏ん張り切れずに投げた球が甘く入ったところを打たれ、追加点を許すなど、本来の投球とは程遠い内容に終わった。
 多くの報道陣も集まり、負けたことを取り沙汰される。悔しさもあったが、すぐに気持ちを切り替え、試合直後にも関わらず、坂道ダッシュやランニングに汗を流した。

 間もなく、センバツの開幕を迎えるが、それもさほど気にならない。
「出られなくて悔しい、という気持ちよりも、小さい筋肉を鍛えて、使えるようにするとか、体づくりとか、今しかできないことに取り組まなきゃ、と思っています」
 甲子園で優勝する前は、1、2年の頃は「雲の上の存在」と思っていた安楽に対する意識も、今は違う。
「18Uですごく仲良くなったんです。怖いヤツかな、と思ったら、とてもいいヤツでした。良き友であり、ライバル。あっちは、どう思っているかわからないですけどね」

優勝旗をまた群馬に

 甲子園を制したベンチ入りメンバー18名のうち、2年生はわずかに3名。高橋、工藤と常総学院戦で先発した喜多川省吾しかいない。工藤が「他の選手から『甲子園でプレーするってどんな感じ?』と聞かれることも多いので、あの場所で戦う感覚をみんなに伝えることも自分たちの仕事」と言うように、下級生だけでなく、同級生たちも牽引しなければならない立場でもある。
 昨年の優勝ピッチャーとして、高橋が背負う責任、プレッシャーは昨年を遥かに上回るものであることも、想像に容易い。
 そんなエースを、一番近くで支えるだけでなく、同じ投手としてライバル心を抱き、切磋琢磨する存在となるのが喜多川だ。
「自分が伸びれば光成も伸びる。だから、光成は安楽をライバルだと思っているかもしれないけど、その前にオレがいるぞ、と。自分が光成を抜いて、追いつけないぐらいのピッチャーにならなきゃ、って思うし、そうすれば光成も、チームも、もっと楽になるし、強くなれると思うんです」

 1つの大きな夢を叶え、次は、その先にある、もっと大きな夢へと続く第一歩を刻む時でもある。
 ライバルたちに、負けない覚悟を持って。
 真っ直ぐに前を見据え、高橋が言った。
「このメンバーで甲子園に行きたい。みんなで優勝旗を戻して、また、群馬に持って帰りたいです」
 2年生の優勝投手が、最上級生として迎える最後の夏は、もう間もなくだ。

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著者プロフィール

神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、『月刊トレーニングジャーナル』編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。著書に『高校バレーは頭脳が9割』(日本文化出版)。共著に『海と、がれきと、ボールと、絆』(講談社)、『青春サプリ』(ポプラ社)。『SAORI』(日本文化出版)、『夢を泳ぐ』(徳間書店)、『絆があれば何度でもやり直せる』(カンゼン)など女子アスリートの著書や、前橋育英高校硬式野球部の荒井直樹監督が記した『当たり前の積み重ねが本物になる』『凡事徹底 前橋育英高校野球部で教え続けていること』(カンゼン)などで構成を担当

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