渡部暁斗が求める勝利へのこだわり=6位入賞も「順位をつけなくていい」

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優勝候補に前を行かれるも「良いレースするだけ」

終盤での転倒もあり、6位に終わった渡部 【写真は共同】

 ソチ冬季五輪のノルディック複合男子ラージヒル個人が現地時間18日、当地のルスキエ・ゴルキ・ジャンピング・センターで行われ、ノーマルヒル個人の銀メダルに続くメダル獲得を狙った渡部暁斗(北野建設)は6位入賞に終わった。前半のジャンプで4位につけ、トップから33秒差で後半のクロスカントリーをスタートしたが、2.5キロを4周回るコースの最後の1周で転倒し、メダルを手にすることはできなかった。

「あまり良いレースでなかった」――。渡部は、ソチでの2戦目をこう評した。

 この日は朝から雨が降る悪天候。ジャンプ台の上部には靄がかかったように濃霧が立ち込め、時折ジャンプ台の踏み切り部分が見えにくい状態になったのだが、不運にも渡部はその時間帯に当たってしまった。
 しかし44人中43番目に飛んだ渡部は、真っ白な濃霧の中、スピードを上げてタイミング良く踏み切りを決めると、向かい風を受けて134.0メートルまで距離を伸ばした。

「ジャンプの内容は良かった」と自身のパフォーマンスに満足したが、渡部の後に飛んだ複合ノーマルヒル個人の金メダリスト、エリック・フレンツェル(ドイツ)が139.5メートルの大ジャンプを見せ、2人の間には33秒差がついてしまった。

「(フレンツェルに対して渡部のリードが)30秒差あれば勝てるんじゃないですか?」とノーマルヒル後に笑って答えていた渡部だったが、皮肉にもそれは逆の展開になった。

 前半の結果を受けて、「タイム差はかなり難しいですが、僕は僕で周りの選手の状況を見ながら、良いレースができればいいかなと思います」と、厳しい状況にも気負いなく、自身の滑りをするだけだと話した。

荒れた地面に気づかず転倒のミス

 前半のジャンプから約1時間後、10キロのクロスカントリーが始まる。渡部の前には3人。フレンツェル、ホーヴァルド・クレメッセン(ノルウェー)、ベルンハルト・グルーバー(オーストリア)が先にスタートを切る。渡部は今季のワールドカップ(W杯)の個人戦では2位が1回、3位が4回と5度表彰台に上り、そのうち4戦でジャンプの結果からクロスカントリーで順位を上げた。特に昨年12月21日のドイツ・ショナッハ大会では、11位からのごぼう抜きで3位表彰台を決めるなど、距離には自信を持っていた。

 いざスタートを切ると、前の3人がそれほど速いペースで進まず、すぐに渡部を含めた10人の集団になる。特にノルウェーのヨルゲン・グラーバック、マグヌス・モーアンの2人が積極的に前に出て集団を引っ張る形になる。
「(レースを作るのが)ちょっと難しかったです。今日はむしろ引っ張っちゃった方が良かったかもしれません。途中で前に出てはみたものの、なんかみんな僕に引っ張らせたくなかったのか、(前の選手が)ペースを落としてくれなかった。僕を前に行かせたらあまり都合よくないと思っていたのかもしれない」と試合後に語った通り、渡部が前に出ようとしても、抜かせてくれない。特に今回のコースは道が狭く、抜きどころが少ないので、「無駄な体力を使いたくなかった」と集団後方で様子見を続けていた。

 しかし思わぬところでアクシデントがあった。ラスト1周でスパートをかけようとタイミングを探していた時に、転倒してしまったのだ。「下りのカーブのところで地面がガリガリになっていた部分があり、そこをブレーキをかけながら進むのですが、集団だったので足元を見ずに探りを入れていたら、転んでしまったんです」

 渡部にとっては痛恨のミス。立ち上がって再び集団を追いかけようにも、やはり最後に余力を残していた選手たちがそのまま先頭を引っ張り、渡部は6位に終わった。優勝はノルウェーのグラーバックで、ノーマルヒル金メダルのフランツェルは、数日前に患った風邪の影響で失速。10位で終えていた。

順位よりも“勝つ”ことが大事

「まだまだ自分のレースができるような選手じゃないですね、僕は。これからもっと練習して、良い選手になりたいです」と反省を口にした渡部。日本代表の成田収平監督も「最初から体が重いかなって感じは受けました。本人も集団で後ろにつけて、3周目ぐらいに前に出なければ苦しいと思っていたと思います」と渡部のレース展開が思い通りにいってなかったのではと話した。

 実際ノーマルヒルの際も、優勝したフレンツェルと2人でレースを作り、最後にスパートを仕掛けたが、そこでフレンツェルを離しきれず銀メダルとなっていた。今回も本来は、早い段階で前に出てレースを作りたかったが、それがかなわなかったのだ。「みんなW杯を一緒に転戦している選手なので、こちらが向こうのことを分かるように、相手も僕のことが分かる。だから僕のやりたいレース展開は分かっていたんだと思う」と、トップ選手として研究されていることも分かっていた。

 ノーマルヒルで銀メダル獲得後、「ラージヒルではもちろん金メダルを狙います」と語っていた渡部だが、終わってみれば、それほど順位は気にしていない。「(今日のレースは)あきらめた選手を追い越した結果6位だった。でも6位も8位もあまり変わらないです。今日は、順位をつけなくていいんじゃないですかね?」と入賞はあまり意味がないと思っている。

 渡部が狙っているもの。それは「常に勝つ」ということだ。ノーマルヒルのメダルセレモニーに参加した際、渡部はメダルというものに対する執着心はないと話した。

「(金メダルを)横でもらっているから、余計欲しいとかは思わないです。もともと勝つということ自体が重要で、メダルに意味があるかというより、自分がやったこと自体に意味があるので。これは本当に、記念品だと思っています」

 また今回のレースの後も「今回の五輪は2位と6位という結果だったけど、エリック(・フレンツェル)は1位と10位だから、総合ポイントなら僕がリード。悪くないと思います」と、やはり“総合優勝”にこだわり、にやっと笑顔を見せた。
 渡部はこれからも、“勝つ”ことを追及しながら、W杯、世界選手権、もちろんそのほかのレースでも勝利を目指す。そのうちの1つに、次の平昌(ピョンチャン)五輪(韓国)も視野に入っているだろう。

<了>

(取材・文:尾柴広紀/スポーツナビ)
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