混迷ユナイテッドが見せた「3つの顔」 モイーズが示すべき“正しき道”とは?
競り負け、跳ね返され、主導権を握られ……
日に日にメディア、ファンからの批判の声が高まっているマンチェスター・ユナイテッドのモイーズ監督 【Man Utd via Getty Images】
ファーガソン前監督も見守る中、劣勢を強いられたユナイテッドは守備陣が何とか持ちこたえる展開で0−0のスコアレスドロー。勝ち点1を積み上げるにとどまり、フラムに後半ロスタイムのゴールで勝利したリバプールに勝ち点11差と引き離されてしまった。
冬の移籍市場でスペイン代表のフアン・マタをクラブ史上最高の3700万ポンド(約63億円)で獲得し、攻撃面の改善が期待されたものの、ここ3試合で2分1敗。この間に香川真司は第24節のストーク戦でベンチを外れ、フラム戦はベンチに入ったものの出番なし。そして今回のアーセナル戦は再びベンチ外と不遇の時が続いているだけに、日本のファンにとってもストレスが溜まる一方だろう。
ストーク戦は敵地で相手のフィジカルな勝負に乗ってしまい、1−2と競り負け。前節のフラム戦はボールを支配しながら、守備を固める相手にシンプルなサイド攻撃を繰り返しては跳ね返される展開に。終盤にセカンドボールとミドルシュートで2得点を奪ったものの、土壇場で追い付かれて2−2のドローとなった。
そして今回のアーセナル戦は57%のボール支配を許し、3倍近い17本のシュートを浴びせられた。つまり、ここ最近の3試合だけでも全く内容が異なっているのだ。自分たちが試合の主導権を握る形でいくつかのオプションを使い分けているならいいが、相手の戦い方に引きこまれてしまい、その中で局地戦に勝つか負けるかという流れになってしまっている。
新加入のマタも試合から消える
守備時は右ウイングのバレンシアと左のマタが自陣まで下がっての守備を強いられたが、自分たちのボールになっても中盤でタメができず、後方から2トップを目掛けて蹴る展開になってしまったため、サイドの高い位置に攻撃の起点を作ることすらできなかった。チェルシー時代から激しいアップダウンには慣れているはずのマタも、敵陣で前を向いてボールを持てなければ試合から消えたも同然だ。
こうした状況を変えるには、サイドの選手が中にのぞいてボールを受け、サイドバック(SB)の攻め上がりを使って相手の守備を開くなど、動きを出していくことが有効だ。しかし、おそらくマタはモイーズ監督から高い位置にボールを運べる段階まで、なるべくワイドなポジションをキープするように言われているのだろう。中央でアーセナルのプレッシャーに苦しむキャリックとクレバリーを助けにいく動きはほとんど見せなかった。
もちろん典型的なサイドアタッカーであるバレンシアは、右ウイングでアップダウンするばかり。サイドを起点にすることもできず、高い位置で何回かボールを奪えた直後のカウンターか、ルーニーとファン・ペルシーへの縦パスが入ったところからのミドルシュートでしか、得点の可能性を生み出すことができない。
この流れならば、左ウイングにはマタではなく前線でフィジカル勝負ができるウェルベックを起用した方が良いとも思われたが、モイーズ監督が後半の開始と同時に切ったカードは右SBのラファエルに代えてセンターバック(CB)のファーディナンド。つまり、前半はCBを担っていたスモーリングを右サイドにシフトして好調のカソルラを止め、中央では強靭(きょうじん)なジルーのポストプレーをファーディナンドが封じる形だ。
攻撃面で盛り返す前に、守備のテコ入れをして自陣にふたをする。この試合に関して、敵地で劣勢の状況を考えれば理屈の通った采配だが、ユナイテッドは追う立場だ。選手交代で攻撃の手を打たないなら、せめて中盤でポゼッションを確保するか、サイドの高い位置に起点を作るための工夫は欲しかった。