涙の福島「速かった自分はもういない」――モスクワの地で誓う、どん底からの再出発
涙の予選敗退「何でこんなに遅いのかな」
レース後、「また振り出しに戻るのに、良いきっかけになったレース」と涙に言葉を詰まらせながら話した福島 【写真は共同】
涙に言葉を詰まらせながら、福島千里(北海道ハイテクAC)はレースをこう振り返った。
陸上の世界選手権第6日(ロシア・モスクワ)、女子200メートル予選は曇り空の午前11時頃(現地時間)に行われた。4組の第5レーンに登場した福島。隣りのレーンに今大会の女子100メートルを制したシェリーアン・フレーザープライス(ジャマイカ)がいる中でスタートの合図を待った。
「前半リードができないと私は後半勝負できない。コーナーをトップと同じくらいで抜けていかないといけないし、そこを目標にしていた」と持ち味のスタートダッシュを決めようと考えていた。しかし、序盤の飛び出しでスピードが乗らず、前を走る6レーンの選手にさえ追いつけない。コーナーを抜けた時点で、フレーザープライスの背中は遠くに見え、想定した展開にはならなかった。結局、23秒85で組6着。タイム通過にもかすらず、予選敗退となった。
「何でこんなに遅いのかなと思います。自分の思っていたのとスピード感が全然違っていました」。福島は世界大会での完敗に、表情を曇らすしかなかった。
ぎりぎりでつかんだモスクワへの切符
しかし、2013年はシーズン序盤から、福島の中で何か歯車がかみ合わない状態だった。4月の織田記念国際(広島)、5月の静岡国際と参加したが、世界選手権の参加標準記録B(100メートル11秒36、200メートル23秒30)にさえ届かなかった。
結局、6月の日本選手権まで参加標準記録を超えることができず、日本選手権で200メートルのみ参加標準記録Bを突破し、モスクワへの切符をぎりぎりで手に入れた。
自分の中で迷いや不安が残るためか、7月のアジア選手権(インド)で100メートル2位という結果を残した後は、練習で迷いを振り払おうとしていた。
「今シーズンの大会の中では一番練習の量も質も増やしてきました。全力ですべてを出し切るつもりでやってきました」
モスクワから始まる新しい自分を探す旅
“日本最速女王”が苦しみ続けた今季。日本記録を連発していた過去の残像を振り払い、新しい自分の走りを探す一歩を踏み出そうとしている 【Getty Images】
今シーズン、思ったようなレースができない中で、福島は過去の日本記録を連発していた頃の走りを「ポン、ポン、ポンといき過ぎた」と表現したことがあった。それは勢いに乗っていけば、自ずと記録も伸びるような状態だったため、その走りは感覚的にしか、つかめていなかった。そのため、「もう1回見直したいところがある」と自分の走りを整理しようと試みていた。
ただ、本番を迎える前にそれが間に合わなかった。世界大会の度に予選通過、さらには日本記録の更新が期待され、そのプレッシャーの中で走り続けてきたが、今回の敗退で、一度そこから離れようとしている。
「ロンドンもテグもアジア大会も、ベルリンも北京も経験してきましたが、また最初から、初めから、振り出しに戻るのに良いきっかけなったレースだと思います」
涙声のまま続けて言う。
「またここから(スタートだとしたら)だとしたら、北京の時のように、きっと来年はもうちょっと良くなり、再来年はもっと良くて、その次はさらに良くなっていると思います。毎日毎日、気持ち良く過ごし、練習をし、試合に出る。ここから貪欲に、前を向いて、頑張る。速かった自分はもういないから。またここから速くなるように頑張る……」
『速かった自分はもういない』――過去の残像から離れるために、福島はモスクワから次の一歩を踏み出そうとしている。新しい理想の自分を探すために――。
<了>
(文・尾柴広紀/スポーツナビ)
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