欧州スカウトが感じたJリーグと世界の差
Jの視察に訪れたスペインのスカウト
20周年を迎えたJリーグの視察に訪れた、バレンシアCF・スカウトのパブロ氏。欧州スカウトの目にJはどのように映ったのか 【小澤一郎】
彼は来日の目的についてこう説明する。「目的としては、近年力を付けてきている日本のJリーグの試合を視察すること。今回は、日本人選手の獲得を目的としたスカウトではなく、あくまでJリーグ、日本サッカーのレベルとサッカーを総体的にチェックし、今後につなげるためにやってきました」。リーガ・エスパニョーラといえば、過去に何人かの日本人選手が1部、2部にチャレンジしたものの、「成功」と呼べるレベルの活躍は見せておらず、日本人選手にとって「未開の地」と言える。
そのため、依然としてスペインの大半のクラブにとってJリーグや日本人選手は強化部のスカウトエリアに入っておらず、ロドリゲス氏も「現時点では日本人選手の獲得の可能性はゼロに近い」と語る。とはいえ、リーガやスペインのクラブの内情を少なからず知る人間としては、シーズン真っ只中の5月に強化部のスカウトが直々に来日し、Jリーグの試合をチェックすることだけで新鮮な驚きだ。今回は、ロドリゲス氏にとっても、バレンシアの強化部にとっても初の来日、初のJリーグ視察ということで率直にJリーグや日本人選手の印象について話を聞いた。
目立つ「緩いプレッシャー」と「甘い守備」
取材ということで慎重に言葉を選びながら答えるロドリゲス氏に対し、わたしは「日本サッカーのこれからの進歩を考えたときには、Jリーグの試合におけるプレーインテンシティー(プレー強度)の向上と、切り替えスピードのアップが欠かせないと考えているが、どう考えるか?」と突っ込んだ。ロドリゲス氏は、「わたし自身、日本サッカーに対して何かを進言したり、改善を求める立場にありません」とした上で、こう続けた。
「わたしからは『日本サッカーのどこが劣っている』という視点での意見はしません。何よりもまず、プロリーグが発足してわずか20年で、ここまで立派なプロサッカーリーグとサッカー文化を構築している日本という国に大きな驚きと敬意を持っています。おそらく、激しさ、インテンシティーについても日本サッカーとして見たときには向上している部分ではないでしょうか。ただし、Jリーグの試合は一見きれいにパスが回っているようには見えるのですが、実際には自陣で安全にボールを回している時間帯が多く、決定機は1本のロングパスや速攻、そして得点シーンは攻撃陣のメリットというより守備側のミスやデメリットから生まれていることが多い印象です」
現職に就く前には、コーチングスクールの講師やリーガ2部のヘレスで分析担当者として働いていたロドリゲス氏だけに、Jリーグの試合で目立つ「緩いプレッシャー」と「甘い守備」は気になったようだ。取材では口にしなかったが、試合観戦中は幾度となく「レント(遅い)」という単語を口にし、判断スピードの遅さから生じる攻守の切り替えやプレースピードの遅さを指摘していた。Jリーグをより魅力的なプロサッカーリーグにするためには、ロドリゲス氏が指摘した要素のレベルアップは欠かせないと考える。確かに、香川のみならず乾貴士、清武弘嗣、酒井高徳といった選手がドイツ移籍直後に素早く適応し、活躍する姿を見ると今のJリーグの競技レベルでも、欧州で即戦力となる選手は継続的に育ってくると思う。しかし、完全移籍の相場が2億円前後の日本人選手の価値や移籍金を上げ、それをJクラブの利益につなげるためには、Jリーグのプレー環境を欧州や世界の基準に近づける努力が必要で、結果的には代表やアジアチャンピオンズリーグ(ACL)でのアジアの戦いにもプラスとなるはず。