欧州スカウトが感じたJリーグと世界の差

小澤一郎

今夏以降の日本人の欧州移籍は鈍化する

パブロ氏がスカウト個人として、注目の日本人に挙げた乾。バレンシアのスカウティングリストでは、すでに欧州でプレーしていることが前提のようだ 【Bongarts/Getty Images】

 一方、日本人選手についての評価は、「まだ2試合しかサンプルがないためコメントは難しい」としながら、一般論としてこう述べる。「ドイツでプレーする日本人選手のポジションを見ても分かるように、基本的に欧州クラブが興味を持つ日本人選手は2列目より前の選手かサイドバックだと思います。正直、Jリーグの今のサッカーでは欧州で通用するセンターバック、GKの育成は難しいでしょうし、先週末の2試合を見てもやはり日本人の特長は、敏しょう性と短距離のスピード、そして献身的なメンタリティーだということがよく分かりました。そして、日本人の特長を出しやすいリーグがブンデスリーガであることも間違いありません。例えば、リーガでは日本人と同タイプの攻撃的選手が多く、日本人が違いを生み出すことは難しい。ただ、わたしはドイツにも頻繁に視察に行きますので、ドイツでプレーする日本人選手の数が飽和状態になりつつあるのも知っています。よって、今夏以降の日本人選手の欧州移籍は少し鈍化すると見ています」

 2試合を見た上で「興味を持った日本人選手はいたか?」というこちらの質問に対して、ロドリゲス氏は「そういう視点で見ていなかったこともあり、いなかった」と答えた。逆に取材中、ロドリゲス氏からドイツでプレーする日本人選手の動向について質問を受けるなど、「現時点でバレンシアがスカウティングリストに日本人選手を入れるとすれば、すでに欧州でプレーする選手」であるのがよく分かった。特に、今季のブンデスリーガでフランクフルトの試合を3試合チェックした関係で、「乾には注目している」と珍しく個人名を挙げてスカウト個人としての興味を示していた。

 今回、欧州スカウトの生の肉声をJリーグ視察中に聞くことで改めて感じたことは、Jリーグや日本人選手を欧州、世界のフットボールマーケットの中で現状を自己採点し、改善していくことの必要性だ。はるばるスペインから強豪クラブのスカウトが足を伸ばしJリーグの視察を行うことは名誉なことであり、20歳を迎えたJリーグの確かな成長でもある。しかし、商売で例えるならばお客の来店だけで満足することなく、商品を買ってもらう、できるだけ多くのお金を落としてもらうための対策を練る必要がある。初来日だからこそ率直な第一印象を語ってくれたスペイン人スカウトのコメントは、成人を迎えたJリーグへの貴重な意見として有効活用しようではないか。

<了>

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著者プロフィール

1977年、京都府生まれ。サッカージャーナリスト。早稲田大学教育学部卒業後、社会 人経験を経て渡西。バレンシアで5年間活動し、2010年に帰国。日本とスペインで育 成年代の指導経験を持ち、指導者目線の戦術・育成論やインタビューを得意とする。 多数の専門媒体に寄稿する傍ら、欧州サッカーの試合解説もこなす。著書に『サッカ ーで日本一、勉強で東大現役合格 國學院久我山サッカー部の挑戦』(洋泉社)、『サ ッカー日本代表の育て方』(朝日新聞出版)、『サッカー選手の正しい売り方』(カ ンゼン)、『スペインサッカーの神髄』(ガイドワークス)、訳書に『ネイマール 若 き英雄』(実業之日本社)、『SHOW ME THE MONEY! ビジネスを勝利に導くFCバルセロ ナのマーケティング実践講座』(ソル・メディア)、構成書に『サッカー 新しい守備 の教科書』(カンゼン)など。株式会社アレナトーレ所属。

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