川内優輝が勝ち続ける4つの要因

加藤康博

別府大分毎日マラソンで優勝した川内。数多くのレースを経験して得た“勝つ術”が生かされたレースだった 【写真は共同】

 2月3日の別府大分毎日マラソン(別大)を2時間8分15秒のタイムで制した川内優輝(埼玉県庁)。この結果で8月の世界選手権モスクワ大会の代表の座を大きく手元に引き寄せた。2年前の同テグ大会では18位だったが、その後のマラソン参戦は実に14回を数える。一般に「マラソンは1年に1本ないし2本が限界」と言われていることを考えると驚くべき頻度だ。

 しかし川内はフルタイムで働く市民ランナー。普段の練習で時間が取れないからこそ、試合を利用して強くなる。「レースに出れば練習では不可能なハイペースで自分を追い込める」とその意図を語る。この方法で走力や集中力、タフさを向上させてきたが、最近はそれに加え、「経験」という武器も備わってきたようだ。

多様なレースで身につけた“勝ち方”

 まずはレース前半の走り方だ。国内外の主要レースでは主に30キロまでペースメーカーが一定の速度で走る。その背後につけば無駄な力を使わずに済むのだが、時にそのペースメーカーが機能しないこともある。特に規模の小さなレースではペースが上下することも珍しくなく、それに付き合って疲弊する選手も多い。この別大でも前半のペースが安定しなかったが、それでも川内は慌てなかった。
「昨年走ったデュッセルドルフマラソンやゴールドコーストマラソンでもそういうことはあった。途中で後ろに下がり、全体を見渡せる位置で走れば消耗しないと考え、ペースメーカーの後ろにつくことをやめたんです」
 この判断ができると30キロ以降、レースが動き出した時に余力を持って対応することができる。また世界選手権や五輪にはペースメーカーがつかない。川内が参戦するレースはトップ選手が出場するものばかりではないが、逆にそうした環境での経験を強みに変えている。

 また、この別大までにあげたマラソンでの勝利は6回。「昨年は勝つことを意識してレースを走ってきた」という本人の狙いがあったからこその数字だが、その勝ち方もさまざまだ。昨年4月のかすみがうらマラソンでは中盤まで、同じくレースに出場した弟のペースメーカー役として先頭から離れた位置で走っていたが、その後、独力でトップを追走。最終的に優勝を飾っている。また8月の北海道マラソンでは25キロから抜け出しての優勝。9月のシドニーマラソンではケニア人選手とのマッチレースになったが、残り10キロを過ぎてから下り坂を利用して突き放し、勝利を手にしたという。
 追うレース、逃げるレース、そして競り合いと経験し、すべてで勝っていることは他の日本人選手にない強みだ。別大マラソン後、宗猛・日本陸連男子中長距離・マラソン部長が語った「川内君はマラソンの勝ち方を知っている」とは、まさにこの経験を指すと言っていいだろう。

 結果だけではない。最近の川内はレース後、ばったりと倒れなくなったが、それは給水の方法を体得したことが大きい。2012年2月の東京マラソンではその失敗による影響で14位に沈んだが、別大では給水所が近づくといち早く集団の前に出て遮る選手がいない状態を作り、8本の給水すべてに成功した。「僕がレース後に倒れるのは手足のしびれやけいれんが原因。それを低血糖や脱水症状からきているので給水さえしっかり取れれば、最後まで力を出せる。中身も塩分や糖分を加えるなど工夫してきた」と本人も胸を張る。

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著者プロフィール

スポーツライター。「スポーツの周辺にある物事や人」までを執筆対象としている。コピーライターとして広告作成やブランディングも手がける。著書に『消えたダービーマッチ』(コスミック出版)

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