今振り返る、イチロー暴行計画記事の発端=木本大志の『ICHIRO STYLE 2008』

木本大志

「イチローを殴ろうとした選手がいる」

『シアトル・タイムズ』紙に掲載された衝撃的な記事に関して、イチローは何を思ったのか 【Getty Images】

「多くの選手が、イチローのことを嫌っていることが信じられなかった……」
「一部の選手が、イチローを実際に殴ろうとなどと計画していて、それが当時の監督(ジョン・マクラーレン)らに伝わると、ミーティングが開かれた……」

 シアトル地元紙『シアトル・タイムズ』のジェフ・ベイカー記者が現地時間9月25日、「クラブハウス・インサイダー(情報提供者)」の情報を元に執筆した。

 記事を読み進めると、「毎年のように200安打、100得点をマークするイチローは責められない」。つまりは、暴行計画を立てたとされる選手らに非が向けられているが、執筆動機は、冒頭の内容を得た段階で生まれたのだろう。客観的に見て、イチローのすごさありきとは、考えにくい。

 掲載当日から翌日にかけて、ほかの地元メディアも後を追ったものの、新展開が報じられることはなく、関連記事が出たのは翌日。あとは驚くほど静かに収束していった。

 『シアトル・タイムズ』紙を除くほかの地元メディアの論旨は、1つに集約できる。

 記事が出た当日の午後、筆者はシアトル地元のスポーツラジオ局『KJR』を聞きながらセーフコ・フィールドの取材に向かっていたが、電話で参加したリスナーがこう話していた。

「今季の責任をとるリストを作るなら、彼はずっと下の方だろう」

“ミーティング”は本当にあったのか?

 シアトルには『シアトル・タイムズ』紙のほかに、『シアトル・ポスト・インテリジェンサー』紙、『タコマ・トリビューン』紙、『エベレット・ヘラルド』紙の4紙があるが、どこもそのリスナーに似た意見だった。

「彼よりもまず、責められるべき選手がいる……」

 全く報じなかったのは、『MLB.com』。オフィシャルということもあるが、彼らの方針として否定的なことは記事にしないらしい。

 さて、もちろんそんな地元メディアとて、ライバル紙の内容を最初から否定するつもりはなかったよう。翌日、事実関係だけを淡々と報じる記事が並んだのは、肝心な部分の確認ができなかったからだ。特に、ミーティングの存在が。

 どの記者にも、仲のいい選手はいる。そんな選手らから、オフレコでもいいからまずはミーティングの有無を探ったが、誰も決定的な証言を引き出すことはできなかった。

 当日の試合前、ジム・リグルマン監督代行も「記憶にない」と否定。それは、ベイカー記者の質問に答えたものだった。ベイカー記者としても、なんとかミーティングがあったことを証明しようと、さまざまな形で質問を試みたが、リグルマン監督代行は、首を振るばかりだった。

 それが結果として報道されると、ベイカー記者はブログに「ミーティングでは、具体的にイチローの名前が出たとは限らない」とつづり、「インサイダーは人間としても、その発言内容も信頼できる」としたが、彼の苦しさがそこにはにじんでいた。

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