【優勝/準優勝監督インタビュー】トヨタ自動車・藤原監督が振り返る日本選手権(後編)
【提供:トヨタ自動車】
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和か、個か
「和と個も両方必要でしょうというのが元々の考え方だったんですけど、日本一になろうと思ったら、やはり個を育てないといけないと思うようになりました。
というのも、2020年・2021年、都市対抗で勝てなかった時がまさにそうで、選手の個性を潰してしまったという反省があるんです。今はどういう選手になりたいかのイメージを個々が考えることが大切かなと思っています」
前編においてトヨタ自動車はデータサイエンスなどを駆使してピッチデザインを描いているということは書いた。トラックマンやラプソードでだけではなく、様々な機器を使って分析し、選手の育成、チームの戦術に役立てている。
そうした機器を使いこなす中で、重要になってくるのが導きだせる数値の中で選手個々がどうなりたいかのイメージを作ることだ。プレーメーカーともいうだろう。数値が導き出され、能力の可視化が可能になったが、その中で自分がどういった選手になりたいのかが重要ということである。
藤原監督は話す。
「投手で言えば、結局は自分がどう投げたいかだと思うんです。どういうピッチャーになっていくか、そのための情報は今、すごく豊富になっていますよね。自分のことをしっかり理解して、どういうピッチングをしようかと。
僕らは手助けじゃないですが、彼らのなりたい姿に向かって一緒にやっていくことが大事と思って取り組んでいます。目標設定をしてやってみる。自己分析はとても大切です。」
一人の戦力としてどのようにしてチームに貢献していきたいのか。年始に選手全員が目標を立てて、そこへ向かっていくことを目指しているのがトヨタなのだ。
それはもちろんピッチャーだけでなく野手陣も同じだ。スイングスピードという数値しかり、試合での盗塁数、本塁打数など、その目標設定があるから計画があり、日々の練習がある。
「野球って今までは感覚的な部分が多かったと思いますが、なるべく定量的に数値化することで能力を見える化するようにしています。それを踏まえて目標設定は自分で決めてもらいます。自分で決めるから選手たちは自分で考え行動します。
仮説を置いてやってみて、違ったらまた違うアプローチを考える。社内でも言われているようなことは野球部でも参考にしてやっています。チャレンジして失敗もしますけど、それもまた次に繋げようっていうトヨタの文化は野球部にもあります」
藤原航平監督 【提供:トヨタ自動車】
データをどう活かすか
一方、それらを把握したら、次に取り組むのは試合の中での設定だ。チームでは5得点を挙げて2失点以内に抑えるというチーム目標がある。
その目標に対しどのようにして貢献できるかを考え、そして相手をしっかり分析して個性を出すことが今のトヨタの選手には求められている。
藤原監督はいう。
「ヒットを打つ・打たないではなく、自分で設定した球に対し強いスイングができたのか。力を発揮する前段階で相手のことを分析し理解できていたのか。それについてはめちゃめちゃこだわります。違ってもいいんですけど、どう攻略しようかと考えて、こういう球は振らないようにとか、そこをしっかり決めさせる。
トレーニングして、ただバットを強く振ってきましただけじゃ駄目なんです。それはトヨタじゃない。どう設定して、どうやって崩そうと思ったかが大事なんです」
データサイエンス化で数値が出るようになったことで一つ問題になっているのが、そこに選手自身が満足してしまうことだ。
例えば、スイングスピードを目標にしてきて、筋量を挙げて目標は達成できたが、結局、それを活かす作業が試合の中でできなければ、全く意味がない。
投手は投げるだけでも、打者が飛ばすだけではいけない。相手をどう崩して得点を上げていくかというところまで計画を立てないと試合で勝つことは難しい。
「個」を重視するあまり、あるいは数字を語りすぎるあまり、球速や変化量が出たことに満足してしまって「投げるだけの」ピッチャーになってしまうことは少なくないのだ。
チャレンジの風土とそれを具現化して答え合わせしていく作業。それは社会人野球らしく、会社の風土をそのまま活用したトヨタ自動車の強さと言えるかもしれない。
データの数値を上手く試合へ落とし込み、優勝へと駆け抜けた 【提供:トヨタ自動車】
新たな目標に向けた新たなチャレンジ
藤原監督は言葉に力を込める。
「今年からシートノックを減らしたんです。少なくなった分、1本1本を集中してやろうという声が選手から出てくるようになりました。同じことをしていたら、チームってよくならないと思うので、何かにチャレンジし続けることは指揮官として僕も示していきたいです。
トヨタの大きい目標としては都市対抗3連覇を目指しています。
簡単ではない事はわかっています。どんな相手にも勝つチームというのは、どういうことなのか考えた時、そこには自分の意思でプレーができる実践力が必要です。
そこの意識は加速させていきたいですね。選手が自分のことも相手のこともよく理解し攻略していく。そこを方針に掲げてやっているので、選手にはイキイキしたプレーをしてもらって、ファンの方、従業員の方、地域の方に見てもらいたいです」
新生トヨタの好発進の中で優勝。これはただの序章なのかもしれない。取材をしていてそんなことを思った。
(取材/文:氏原英明)
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