【大宮アルディージャ】[ライターコラム「春夏秋橙」大宮アルディージャとレッドブルが目指す未来]
【大宮アルディージャ】
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【ライターコラム「春夏秋橙」】戸塚 啓 一緒に築き上げる姿勢
10月12日、レッドブル・ゲーエムベーハー(以下RB)のスタッフが参加し「ファンクラブ会員限定ファンミーティング」と「メディアギャザリング」が行われた。クラブから佐野秀彦 代表取締役社長、原博実 代表取締役兼フットボール本部長、RB側からレッドブルサッカーテクニカルダイレクターのマリオ・ゴメス氏、グローバルマーケティング部門トップのフィリップ・ワンダーリッヒ氏が出席した。
最初に行われたファンミーティングでは、佐野社長の挨拶に続いてゴメス氏がマイクを握った。元ドイツ代表でワールドカップやユーロに出場したゴメス氏は、2022年1月から現職に就いている。
プレゼンテーションの前にゴメス氏は、RBのスタンスを明確に示した。
「まず何よりも大事にしたいのは、私たちはパートナーとして、 同じ価値観を持ちながら、いろいろなものを共有しながらしっかりと関係を築き上げていくという考えです。ギブアンドテイクの関係ではなく、一緒に築き上げる、一緒に目標に向かって歩んでいくというところを、大事にしたいと思います」
ゴメス氏はこの日までに、NACK5スタジアム大宮でのホームゲームを2度観戦している。最先端の舞台で熱狂に触れてきた彼も、アルディージャのファン・サポーターが作り出す一体感に心を奪われた。
「皆さんが作り上げるスタジアムの雰囲気は、本当にすばらしいと思いました。皆さんが作り上げる情熱のすべてを、本当に感じることができました。 そういったところを皆さんと、チームと、そしてクラブが一丸になって、もっともっといいものにしていきたいと考えています」
国内に60あるJリーグのクラブから、RBはなぜ大宮アルディージャを選んだのか。ゴメス氏は「大宮アルディージャ、大宮という街にポテンシャル、将来性を感じた。しっかりとした形でサポートしたら、本当にすごい可能性を示せるのでは」と期待を込めて語る。
フィリップ氏も「地域コミュニティがすばらしい」と話す。クラブはもちろん街全体に魅力を感じ、地域とともに発展していきたいとの思いを明かした。
ゴメス氏はシュツットガルト在籍時に、遠藤航、浅野拓磨とともにプレーしている。彼らと過ごした日常も、日本という国、日本サッカーへの評価につながっている。
「彼らは互いを尊敬する、文化を尊重する、いろいろな場面で助け合う、といった姿勢を見せていました。サッカーで言えばチームへの献身性であり、高い志を持ちながらピッチの内外で日々努力を重ねていた。そういったところに、私はとても感銘を受けたのです。私たちレッドブルサッカーのフィロソフィーにマッチすると考えて、日本を選びました」
今後の取り組みについては、4つのスローガンを提示した。
一つ目は「欧州移籍へのパイプライン作り」である。
ゴメス氏は「レッドブルには欧州やブラジルのクラブで、若い選手をしっかりとサポートしながら育ててきた実績があります。 私たちのもとで育ち、現在プレミアリーグで活躍する選手が本当に多くなっています」と語る。
レッドブル・ザルツブルクならギニア代表MFナビ・ケイタ、日本代表FW南野拓実、ノルウェー代表FWアーリング・ハーランド、RBライプツィヒならドイツ代表FWティモ・ヴェルナー、フランス人FWクリストファー・エンクンクらが、プレミアリーグへステップアップしている(その後、他国のリーグへ移籍している選手もいる)。ゴメス氏は「パイプラインをしっかりと作り上げながら、将来性のあるタレントをグループ全体として育て上げていきたい」と続けた。
欧州移籍への前段階にも触れた。
「スカウティングとそのネットワークを、しっかりと活用していきます。RB大宮内でも情報を共有しながら、一緒に将来性のある選手を発掘し、育ていきたいと考えています」
年末にはグローバルネットワークのスタッフが集まり、情報交換を行なうとの構想もある。欧州の冬の移籍市場を、意識したものかもしれない。
二つ目は「既存のファンベースとクラブカルチャーに立脚」だ。
「これが私たちにとっては本当に一番大事な部分」と、ゴメス氏は言葉に力を込めた。
「皆さんのようなファン・サッカーがいるからこそ、私たちは支えられて、充実しながらプレーに集中できます。ファン・サポーターとクラブが一体となりながら、目標に向かってやっていきたいと考えています。我々が大事にしているのはチーム一丸となることで、ファン・サポーターの皆さんと一体感を持ちながらやることを、本当に大事にしたいと思っています」
RB大宮株式会社が様々な施策を実行していく過程では、憶測が飛び交うかもしれない。ファン・サポーターに不安を感じさせてしまことが、あるかもしれない。
それも見越して、ゴメス氏は語る。
「皆さんにおかれては、いろいろな情報に触れるかと思いますけれど、本当にレッドブルを疑ってほしくないのです。 私たちは投げ出すことは絶対にしません。お金を投資して後は任せるなど、そういうことはしません。とにかく早く何かを成し遂げればいい、ということでもありません。しっかりとしたものを構築していくために、ステップバイステップを意識しながらやっていく。皆さんと一緒に、目標に向かって手を取り合いながら歩んでいきたい。皆さんのようなファン・サポーターの存在は、私たちにとって本当に一番大事だと思っています」
3つ目は「さいたまダービーを国内最大のマッチへ」である。
「ここは本当に感情的な、情熱的なところです」と、ゴメス氏は熱っぽく語りかける。
「大宮と浦和によるさいたまダービーについては、私たちももちろん知っています。浦和はJ1にいますけども、数年後には国内最大の、一番盛り上がる熱狂的な試合を、J1で実現したいのです」
ゴメス氏自身は母国ドイツのシュツットガルト、バイエルン・ミュンヘン、ヴォルフスブルク、フィオレンティーナ(イタリア)、ベシクタシュ(トルコ)に在籍し、熱狂的なダービーを何度も経験してきた。
「いろいろなダービーを経験してきました。選手としても本当に感じるところがたくさんある試合で、応援してくれる人たちの思いをしっかりと感じることもできました。 大宮においても、皆さんと一緒にダービーをしっかりと盛り上げられるように、最高の試合になるようにチームの力をつけていきたいのです」
4つ目は「RBサッカーのノウハウを注入して常にトップレベルのパフォーマンスを発揮」とした。具体的には、トップチームで活躍できるタレント、世界へ羽ばたくタレントの育成を指す。
「トップチームはもちろん大事ですが、アカデミーも大事にしたいと考えています。このチームにはこれからトップチームを目ざす若い選手、目をギラギラと輝かせているすばらしい選手が、本当にたくさんいます。私たちレッドブルグループも育成には力を入れていますし、すばらしいポテンシャルを持った選手たちをしっかりとした組織の中でマネージメントして、育て上げて、トップチームへ送り出したいのです」
ここで紹介された四つのスローガンをまとめると、一つのビジョンが浮かび上がる。「タレントのパイプラインを育成し、ファンの熱狂を産み出し、地域の経済成長と繁栄を促進するエネルギッシュなサッカークラブへ」というものだ。
「サッカーはもちろんですが、サッカーを通じていろいろな人たちにポジティブなシグナルを送ったり、たくさんのエネルギーを送ったり、いろいろな人たちがスタジアムに足を運んでくれて幸せになるように。そういった活動をやっていきたいと考えています」
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トップチームの成長ビジョンも、すでに策定されている。
J2に復帰する2025年は新体制への移行期間とし、3年から4年でのJ1復帰を目標に掲げた。2030年には「タイトルを争う、ACLに参加する」ことをターゲットする。
「3年から4年でJ1へ上がり、安定した力をつけて、結果を残していきたい」
もっとも、ロードマップありきではない。ゴメス氏は言う。
「2030年にJ1でタイトルを争うという目標を掲げましたけれども、その数字にとらわれ過ぎないほうがいいと思います。選手とスタッフ、クラブに関わるすべての人たちは、タイトルをつかみたい、目標にたどり着きたいという意志、意欲を持っています。ただ、サッカーではすべてが思いどおりにはいきません。これはみなさんもご存じでしょう。しっかりと地に足をつけながら、継続的にしっかりといろいろなところを分析して改善して、そして発展させていきます。育成を継続的にやっていくことも、大切だと思っています。それが2029年に結果として表われるかもしれないし、2031年かもしれません。2030年を一つの目安としてやっていく、というのが私たちの考えです」
移行期と位置づけられる2025シーズン、トップチームはJ2に復帰する。チームの編成に、RBはどれぐらい関わるのだろうか。ゴメス氏は「これまでクラブを築き上げてくれてくれたスタッフ、選手、そして関わってくれた皆さんに、この場を借りてお礼を申し上げます」と謝辞を述べ、今後について語っていく。
「目標に向かってどういった形がいいのかについて、クラブ内でしっかりと情報を共有していかなければなりません。今いるクラブスタッフの皆さんとコミュニケーションを取りながら、ともに進めていくことが大事です。これまで築き上げたもののすべてをリスペクトしながらやっていきます。一方で、これまでやってきたことを多角的に分析し、チームの発展のために何が必要かについて、話し合っていきます」
RBのグローバルネットワークの仲間入りを果たしたことで、選手の欧州移籍へのルートが太くなったのは間違いないだろう。同時に、コーチングスタッフの人的交流やアカデミー選手の留学なども、活発に行なわれていくことが期待される。
「もちろん、そこはやっていきたい」と、ゴメス氏も頷いた。
「私たちはヨーロッパだけではなくブラジル、アメリカにもネットワークがあります。その中に日本の大宮アルディージャが加わりました。それぞれの文化や習慣をリスペクトしながら、お互いの良いところをもっと共有したりとか、補い合ったりとか、あらゆるものを良くするためにいろいろな取り組みをしていきたいと思っています。人的交流については、今まさに原フットボール本部長とコミュニケーションを取っているところで、チャンスがあれば今年の年末あたりに、そういったことができればと思っています」
ファン・サポーターならずとも気になるのは、クラブのプロパティだろう。クラブカラーは、エンブレムは、チーム名は、どうなるのだろうか。これについては、フィリップ氏が答えた。
「もちろん、たくさんのディスカッションを重ねてきました。グローバルなネットワークとしての我々の考えや哲学が、しっかりと反映されるものにしたいと考えています。その一方で、大宮アルディージャというクラブが今まで築き上げてきたもののすべてを、私たちもしっかりと聞いています。地域とのつながりや地域の理解というものも含めて、 大宮アルディージャという名前もしっかりと保ちながら、どういったものにしようかということをディスカッションしてきています」
プロパティの発表については、ファンミーティングとメディアギャザリング時点でトップチームがJ2昇格決定を目前に控えていることから、「時機を見てしっかりとお伝えしたい」とした。
大宮アルディージャの名のもとでは、女子チームのVENTUSも活動している。WEリーグを戦うチームのサポートについても、RBはしっかりとした方向性を示した。ゴメス氏が語る。
「女子も非常に重要なポイントとして考えています。ライプツィヒの女子チームはまだまだ若いですが(2016年に創設)、2023-24シーズンから女子ブンデスリーガに昇格しました。日本でもしっかりとしたプロセスを歩み、しっかりとサポートをして、プロフェッショナルの活動が充実するようにしていきます」
RB傘下となったクラブでは、スタジアムを新設したケースもある。おりしも埼玉県では、『大宮スーパー・ボールパーク構想』が立ち上がっている。現在のNACK5スタジアム大宮について、フィリップ氏が説明した。
「マリオ・ゴメスさんも触れていましたが、このスタジアムと皆さんが作り上げるあの雰囲気について、何も言うことがないぐらい本当にすばらしいと思っています。ですので、今すぐ何かをしようというよりは、少し様子を見ながらJ2、J1と前へ進んでいく中で、いろいろなものが見えてくるかもしれません」
大宮公園再整備として検討が進む『スーパー・ボールパーク構想』についても、話し合いのテーブルに着いている。フィリップ氏が続ける。
「コミュニティの皆さん、すべての関係者の皆さん、行政の皆さんと、いろいろなコミュニケーションを取り始めています。これからもしっかりと取り続けていきますし、すごく魅力的なビジョンだと思います。埼玉県はスポーツが盛んだと聞いていますので、そういったところに我々が関われることは本当に光栄です。地域に貢献できればと思っています」
地域連携についてはどうだろう。すでに前向きな言葉が聞かれているが、フィリップ氏は「ファン・サポーターとの関係が一番大切です」と強調した。
「皆さんと一緒に情報を共有しながら、コミュニケーションを取りながら、皆さんの思いや考えをしっかりと受け入れていきたいと思います。これまで築き上げてきたものはもちろんあると思いますが、より前へ進むために皆さんといろいろな情報を共有しながら、情報を交換しながら、しっかりとしたものをどんどんと築き上げていきたいのです」
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メディアギャザリングの最後には、原フットボール本部長からも現状報告があった。RB側の仕事ぶりを間近で見ているだけに、その言葉にはリアリティと説得力がある。
「RB側はトップチームだけでなくアカデミーも多く訪問していて、アカデミーの担当者から話を聞いています。たとえば練習環境については、U15が使っている堀崎公園グラウンドへ足を運んで、夜間照明のライトが暗いんじゃないかとか、こちらのスタッフにいろいろと聞いています。U18の選手についてなら、どういう高校に通っているのか、週末はどうやって過ごしているのか。スカウティングのところでは、 高校生や大学生をスカウトするだけではなく、小学生たちをどうやって見極めて、どういう集め方をしているのか、スカウトする地域はどこまでなのかといったように、ものすごく細かく聞いていています。今すぐに動くというよりは、現状を知って持ち帰って、どうしたらいいかを検討する。そういう仕事の進め方だと、僕は思っています」
トップチームについても、現状把握を進めている。原フットボール本部長が続ける。
「トップチームのミーティングにも参加してもらって、どういうミーティングをしているか。どういう映像を使っているか。アナリストはどういう視点で分析をしているのか。そういうことを本当に細かく聞いて、見ています。彼らも我々のトップチームや対戦相手を分析していて、『自分たちなりの分析も出せるから、もし必要だったらいつでも言ってほしい』と。そういうすごく細かいところまでやっていて、これから本格的にスタートしていく。トップチームに関しては、シーズン終了まで試合に集中してやってほしいというのが彼らのスタンスで、アカデミーとVENTUSも含めて、ていねいにやってくれているなと思います」
原フットボール本部長は、「僕も正直、どうなんだろうなと思ったところもある」と正直な思いを明かした。それだけに、RBの対応に信頼を深めている。
「本当に言葉だけじゃなくて、 一緒にやっていこうと。全員の名前が覚えられないぐらいに、それぞれのスペシャリストが来ていて、現状を正しく整理して、これからどうやっていこうかということを真摯に考えてくれています」
ファンミーティングとメディアギャザリングが行なわれたほぼ同時刻に、高円宮杯JFA U-18サッカープレミアリーグの試合が開催されていた。RBのスタッフは、その試合会場へも足を運んでいる。
「トップだけじゃなくアカデミーについても、彼らは一緒になってやっていこうとしてくれています。それは本当にありがたいですね。まず、大宮アルディージャが変わっていける、変わりそうだ、変えなきゃいけないっていう、それが今の状況です」
レッドブルグループのグローバルサッカー責任者に就任したユルゲン・クロップは、ゴメス氏とのコミュニケーションで「レッドブルは選手とクラブをしっかりと育てる。そこを大事にしなければいけない」と話したという。ゴメス氏も同じ意見だ。
「高い選手を買ってきてチームを強くする、といったことはまったく考えていません。グローバルなネットワークを拡げて、しっかりとした組織を構築し、選手を育てていく。レッドブルには『翼を授ける』という言葉がありますけれど、世界へ羽ばたく選手をサポートしていく。そういう姿勢で大宮アルディージャに関わっていきます。ただクラブに参入して一緒にやる、といったことではなく、 しっかりと日本の文化を理解する。そして日本の考え方や習慣を理解する。何よりも地域のあり方、地域の存在というものを理解しながら、一緒に作り上げていきたいと考えています」
その上で、ファン・サポーターとの共闘を願う。
「チームはうまくいくときもあれば、うまくいかないときもあるでしょう。うまくいかないときほど、皆さんの後押しが必要です」
ゴメス氏とフィリップ氏の言葉からは、大宮アルディージャとクラブに関わる人たちへの敬意と尊敬、それにホームタウンとそこでコミュニティを形成する人たちへの心配りが感じられた。お互いを信頼し、歩調を合わせ、RB大宮は一歩ずつ前へ進んでいく。
【大宮アルディージャ】
戸塚 啓(とつか けい)
1991年から1998年までサッカー専門誌の編集部に所属し、同年途中よりフリーライターとして活動。2002年から大宮アルディージャのオフィシャルライターを務める。取材規制のあった2011年の北朝鮮戦などを除き、1990年4月から日本代表の国際Aマッチの取材を続けている。
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