【SPECIAL】エンパシーを持って、頂上を目指せ~アルベルト・ザッケローニ氏 殿堂入り記念インタビュー#2
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ザッケローニ もちろん簡単ではないでしょう。でも、ワールドカップはクラブチームが戦うリーグのように長期間続くわけではありません。短期間に次から次に試合は来るわけで、チャンピオンチームですら歯車が狂ったりすることはあります。何が起こるかわからないのがワールドカップ。日本は日本、イングランドはイングランド。ピッチのサイズもボールも同じ、GKの数も一人ずつ。そう選手たちが心の底からゲームを理解することが大切です。
SAMURAI BLUEを率い、アルゼンチンやフランス、ベルギーなど強豪を破った 【©JFA】
ザッケローニ 私の知る限りでは、日本の選手に「今日は3-0で相手をやっつけろ!」とか「相手を削れ!ぶっ潰せ!」といった強めのトークをロッカールームで仕掛けることはプレッシャーを与えすぎて良くない気がします。むしろ、日々のトレーニングの中で「私たちは相手がベルギーだって3-0で勝てるんだよ」と丁寧に伝えて、徐々に納得してもらう。試合前だったら「今日もできることをやろう。ちゃんとやれば自然に結果はついてくる」というアプローチの方が日本の選手には向いている気がします。私自身、練習でピッチに出ればたくさん話をしますが、試合前に熱くなって話すタイプではありませんでした。
今はメンバーも変わりました。どういう選手がチームにいるか、各選手の性格によって(監督の)アプローチは変わるでしょう。サッカーに、勝つための決まったフォーマットは存在しないので、監督はいろいろなことを決めなければいけません。
――日本がワールドカップで優勝するには何が鍵になるでしょうか。
ザッケローニ 日本が他のチームと違うのは団結心(がある状態)からスタートができることです。日本の選手たちはチームが勝つことに大きな喜びを感じる。仲間を助けることもいとわない。団結力や犠牲心という面で、監督が気を使う場面が少ないのです。カタールのワールドカップで見せた日本の戦いも、ものすごく良かった。
日本の選手は、外国の選手に比べてセンシティブな側面があるのは確かでしょう。弱いというわけではなく……多感、敏感といいますか……。それが、選手に圧をかけるようなやり方は、日本の選手には向いていないと思う理由でもあるのですが、日本の選手は多感な分、エンパシー(自分と異なる人間や価値観に対し、相手のことをおもんばかりながら共感する力)があると思っています。
「いかにエンパシーを発揮し、チーム力を高めるか」が日本のレベルアップの鍵だと語る 【©JFA】
ザッケローニ ヨーロッパのトップリーグでプレーしている選手たちが代表に戻ってプレーすると、周囲の選手を自分が普段(クラブで)一緒にプレーしている選手とどうしても比べてしまうものです。そこで生じるちょっとした食い違いが、時に結果を左右する。そういう問題が必ず出てきます。そういうリスクを抱えつつ、いかにエンパシーを発揮してチームの中で結束してチーム力を上げていくか。これは大事なポイントになるでしょう。
繰り返しになりますが、日本のプレーの質はもう高いのです。速くて倒されないのは、日本の選手の素晴らしい特性です。他国の選手は、強いか、速いか、強くて速いかになりますが、日本の選手は速い上にスタミナもある。海外にもそういう選手はいますが、90分間を戦い抜いた後、気力と体力が尽きて、舌を出してハアハアするような状態になったところから、まだ走れるのが日本の選手です。森保監督はそのことをよく分かっていると思います。
チームで良いプレーをして勝っていく。勝ち続けると自然に「いけるんじゃないか」という自信や手応えが醸成される。自信がつくと、いつもはしないけれど、ちょっと難しいプレーに挑戦してみようという積極性も生まれる。これからいろいろなことが起きると思いますが、チャレンジする気持ちを大切にすれば、きっと乗り越えられるでしょう。
日本サッカー殿堂掲額式典後のパーティーでは、多くの参加者から写真を求められた 【©JFA】
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