私のミッション・ビジョン・バリュー2024年第3回 久保征一郎選手「本能」

水戸ホーリーホック
チーム・協会

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水戸ホーリーホックでは、プロサッカークラブとして初めての試みとなるプロ選手を対象とした「社会に貢献する人材育成」「人間的成長のサポート」「プロアスリートの価値向上」を目的とするプロジェクト「Make Value Project」を実施しています。

多様性と交流を基盤に、様々な業種の講師を招聘し、異業種の方々の価値観や使命感に触れることで、プロアスリートとしての存在意義や社会的な存在価値を選手たちに問い続けます。

その一環として、キャリアコーチと選手が継続的に面談をして「ミッション」「ビジョン」「バリュー」の策定をする取り組みが昨年から行われています。

ミッション・・・社会の中での自分の役割
ビジョン・・・ミッションを実現した理想の未来像
バリュー・・・日々のこだわり、行動指針

原体験を振り返り、自らのサッカー選手であるうえのスタンスや価値観、使命感を見つめなおすことでピッチ内外でのパフォーマンス、言動、行動の質の向上につなげていこうという取り組みです。

2024年も選手・スタッフの今季策定した「ミッション」「ビジョン」「バリュー」を紹介していきます。
2024年第3回は久保征一郎選手です。

(取材・構成 佐藤拓也)

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Q.MVV作成のための面談はどのぐらい行いましたか?
「水戸加入前の昨年10月ぐらいからオンラインで5~6回行いました。チーム始動する時にはMVVが作成している状態でした」

Q.面談をしてみて、感じたことは?
「プロになるまで本当にいろんな人が関わってくれて、支えてくれていたことを再確認することができました」

Q.今まで自身の過去や内面を第三者に話した経験はありましたか?
「ありませんでした。自己紹介程度で経歴を話すことはありましたけど、そんなに深く掘り下げて話をすることはなかったです」

Q.では、プロになる前にそういう話をして、気が引き締まったのでは?
「本当に良い機会になったと思っています」

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Q.まず、ミッションから聞かせてください。「人を感動させる」「夢を見させる」「感謝の気持ちを伝える」の3つです。
「サッカー選手である以上、人に感動や夢を与えられるようにならないといけない。頑張っている姿勢を試合はもちろん、日々の練習から表現することによって伝わる人もいると思うので、それをミッションにしました」

Q.久保選手自身、サッカーを見て感動したり、誰かから夢を与えられたりする経験はありますか?
「南アフリカで行われた2010年のFIFAワールドカップですね。その時、小学生だったんですけど、日本代表が自国開催以外の大会ではじめて決勝トーナメント出場を果たしたんです。すごく感動しました。日本時間で夜中に試合が行われていたんですけど、目をこすりながら見ていたのを覚えています。でも、本田圭佑選手のゴールに眠気を吹き飛ばされました。あの試合は今も鮮明に覚えています」

Q.久保選手は高校進学時に鹿児島から東京に出て、FC東京U-18に加入しました。大きな決断だったと思うのですが、ワールドカップを見て抱いた夢を追っての決断だったのでしょうか?
「その時はまだ自分がどのぐらいできるのかというチャレンジというか、挑戦したいという気持ちの方が大きかったです。ただ、将来はプロになって、多くの人に夢を与えられるようになりたいとは思っていました」

Q.FC東京U-18に入って、サッカーに対する気持ちは変わりましたか?
「今までの環境とは大きく違って、すべてがはじめての経験でしたし、すべてが上のレベルでした。日々刺激を受けていました。そこに飛び込んでいろんなことを学べたと思っています」

Q.高校時代にU-23チームの一員として、Jリーグデビューを果たしました。
「それがFC東京U-18を選んだ理由の一つでした。Jリーグの舞台に立って、お金を払って見に来てくれる観客に対して、恥じないプレーをしないといけないという、高校生では経験できないような緊張感を味わうことができ、より一層プロになりたいという強い思いを抱く機会となりました」

Q.トップ昇格はできませんでしたが、法政大学での4年間を経て、プロの舞台にたどり着きました。大学での4年間はいかがでしたか?
「サッカー面もそうですけど、人間的なところでいろんな考え方を養えたという実感があります。ピッチ外のところの姿勢がピッチ内につながるということを学ぶことができましたし、いろんなところに目を向けて、いろんな気づきを得ることができました」

Q.遠回りだったかもしれませんが、久保選手にとってすごく貴重な4年間になったわけですね。
「その気持ちはあります。高校卒業後にトップ昇格できませんでしたけど、もし昇格したとしても、全然通用しなかったと思います。そういった意味でも大学進学を選んで良かったと思っています」

Q.今季水戸に加入して、「人を感動させる」「夢を見させる」ためのスタートラインに立ちましたね。
「加入した時はワクワクした気持ちでいっぱいでしたけど、日を重ねるごとにもっともっと人に感動や夢を与えるためにどうすればいいかということをすごく考えるようになりました。自分のポジションは点を取ることが一番だと思っていましたし、そのためにもチームのために守備や走ること、戦うことを一生懸命やらないといけない。その先にゴールという結果がある。トータル的な姿勢を見てもらえたら、より感動してもらえると思っています」

Q.3つ目の「感謝の気持ちを伝える」は前の2つとはちょっと感じが違いますね。どういった思いでこの言葉を選んだのでしょうか?
「中学卒業後、東京に出ることができたのも、両親やそれまで支えてくれた方々のおかげです。そういった方々に『ありがとう』という言葉を伝えるのは当たり前のこと。小さなことかもしれませんが、感謝の気持ちは絶対に忘れてはいけないと思ったので、一つだけ違う感じですけど、この言葉を選びました」

Q.今週末の9月28日には故郷・鹿児島での試合があります。恩返しの機会にしたいですね。
「家族や親せきだけでなく、お世話になった多くの人が『見に行くよ』と言ってくれています。そういう方々の前でプレーできることは何より幸せなこと。自分が頑張っている姿を見せたいと思っています。FC東京U-23のメンバーとして鹿児島で試合をしたことはありますが、プロになってからははじめてなので、また違った自分を見せたいと思っています」

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Q.次はビジョンについて聞かせてください。「感謝の気持ちを伝え合える社会」です。
「今こうやってプロとしてサッカーできているのは、僕一人の力ではありません。多くの人に支えられているからこそ、今があることを絶対に忘れてはいけないと思っています。些細なことでも感謝の気持ちを伝えることが大事だと思って、この言葉を選びました」

Q.感謝を伝え合うことによって、よりよい社会にしていきたいということですね。
「気持ちを素直に伝えるだけで、伝えられた方もポジティブな気持ちになれると思いますし、感謝されて嫌な気持ちになる人はいないと思うんですよ。社会や組織が良くなるための一つの方法として感謝の気持ちを伝えることが大事だと思っています」

Q.そう思うようになったのはいつ頃ですか?
「大学時代ですかね。高校時代までは親への感謝の気持ちなど、そこまで意識したことはありませんでした。でも、大学に進学して、いろんなことを受け止めることができるようになって、感謝を伝えることの大切さに気付きました」

Q.親元を離れて、より強く親のありがたみを感じたのですね。
「だからこそ、サッカー選手になって活躍するという気持ちがブレることがありませんでした。それは良かったと思っています」

Q.感謝の気持ちを言葉で伝えていますか?
「以前は言葉で伝えるのを恥ずかしがっていたんですけど、大学に入ってからはちゃんと言葉で伝えるようになりました」

Q.ちなみに久保選手は今年ご結婚を発表されましたが、奥さんに感謝を伝えていますか?
「そこは妻に指摘されることがあります(苦笑)。ちゃんと伝えないといけないなと日々反省することが多いです」

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Q.次はバリューについて聞かせてください。「享受性」「ポジティブ思考」「誰かのために」の3つです。まず、「享受性」とは?
「人から言われたことに対して、まずは受け入れる。聞く耳を持って、そこから自分なりにかみ砕いて行動する。そういうことを意識した言葉です。これも大学時代に培った考え方で、それまでは人から指摘された時に熱くなって受け入れないような時期もあったんです。そういう態度を取っても、何もうまくいかないことに気付いたんです。少しでも自分を向上させるためにも、人の言うことを受け入れることにしました。その後に自分の考えを伝えるように意識しています。そういう会話を成立させることがいい関係を築くために必要だと思ったので、この言葉を選びました」

Q.それによって、変化を感じていますか?
「すごく感じています。そういうマインドを持つようになったからこそ、コーチ陣からのアドバイスを素直に受け入れることができ、それをプレーで表現するといういい循環が今の結果につながっているのかなと感じています」

Q.2つ目の「ポジティブ思考」とは?
「結構、ネガティブに考えてしまうタイプなんですよ。でも、日々ネガティブなことを考えても気持ちが沈む一方なので、いいことを考えることによって、自分の気持ちを高めるようにしているんです。そういう前向きな姿勢や声がけは周りに伝わっていくと思うんですよ。だから、ポジティブに考えることを意識しています」

Q.意図的にポジティブに考えるようにしているのでしょうか?
「ポジティブ思考の大切さに気付いたのも大学卒業ぐらいなんですよ。ふとした時に気付いたんですけど、妻の影響も大きいです。妻はすごくポジティブで、なんでも前向きに捉える人なんです。一番近くにいる人がすごくポジティブなので、彼女に影響されて、自分もポジティブに考えるようになりました。感謝しています」

Q.3つ目は「誰かのために」です。どういう思いの言葉でしょうか?
「自分のために頑張ろうと思うより、誰かを喜ばせたいとか、誰かのために頑張ろうという気持ちの方が大きなパワーを生むと感じています。そういった思いを込めた言葉です」

Q.ある意味、そこが学生時代との一番の違いかもしれませんね。
「プロになると、お金をもらっているわけですし、生活をかけてプレーをするわけですが、そういったことをプレッシャーに感じることなく、パワーに変えることができている。それはすごく良いことだと思えています」

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Q.最後にスローガンについて聞かせてください。「本能」。この言葉に込めた思いは?
「FWとしてプレーしていて、特にゴール前では無意識でプレーすることが多いです。そういったことを表現した言葉は何かと考えたところ、『本能』という言葉が出てきたんです。本能のままにプレーして、ゴールを奪う。それまでにはいろんな過程があるんですけど、最後ゴールを決めるためには本能が必要になる。だから、この言葉を選びました」

Q.サッカーはロジックも大事だと思います。ただ、やはり点を取るところは本能が大事なんですね。
「そうだと思います。動画を見て『自分ならどういうプレーをするか』といった感じでイメージトレーニングをして、自分の頭に落とし込んで、プレーで体現することを繰り返してきました。それによって、身体が勝手に動くようになる。無意識で何も考えていない時にいいプレーが生まれる。だから、『本能』という言葉は僕に当てはまると思っています」

Q.第2節甲府戦のスーパーロングシュートはロジックでは打てないですからね。
「あの時は本当に体が勝手に動いたんです。自分でもビックリしました。でも、子どもの頃からスーパーシュートの動画を見てきて、落ちてきたボールをミートするようなシュートは好きでよく打っていたんです。その成果が出たと感じています。とはいえ、今でも映像を見るたびに、自分で驚いています(笑)」

Q.クロスに対する入り方も久保選手はこだわっていると思います。予測の立ち位置なども本能なのでしょうか?
「クロスの入り方にはかなりこだわっています。もちろん、高さを活かすことを考えていますけど、それだけではレベルの高い相手からはゴールを決めることはできない。ゴール前に入るタイミングなど、瞬時に察知して動いています」

Q.第31節栃木戦ではゴール前でブロックされてしまいましたが、CKに対して、身体を投げ出してヘディングシュートを打つ場面がありました。あの動きにも『本能』を感じました。
「ああいう低いボールでも体ごとねじ込んでゴールにボールを飛ばすことも自分の強みだと思っています。高さだけではなく、ちょっとした技術のところも見てもらいたいと思います」

Q.これからも『本能』を出して、ゴールを重ねていきたいという思いが強い?
「そこが一番大事だと思っています。結局、個人としてゴール前で何ができるかが問われている。そこで自分のありのままを出すことが一番大事だと思うので、『本能』という言葉を大切にプレーしていきたいと思っています」

Q.残り6試合への意気込みを聞かせてください。
「最初の10試合と最後の10試合では印象も違うし、緊張感も違う。最近は継続して試合に起用してもらえるようになって、ゴールも決めることができている。自分としてはいい流れが来ていると思っています。その中でどれだけ高みを目指してやっていけるか。その挑戦のためのいい機会だと捉えています。現状に満足することなく、1試合1試合大切に戦いたいですし、その中でチームの結果と個人の結果にフォーカスして試合に臨んでいきたいと思っています」
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著者プロフィール

Jリーグ所属の水戸ホーリーホックの公式アカウントです。 1994年にサッカークラブFC水戸として発足。1997年にプリマハムFC土浦と合併し、チーム名を水戸ホーリーホックと改称。2000年にJリーグ入会を果たした。ホーリーホックとは、英語で「葵」を意味。徳川御三家の一つである水戸藩の家紋(葵)から引用したもので、誰からも愛され親しまれ、そして強固な意志を持ったチームになることを目標にしている。

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