【愛チャンピオンS回顧】シンエンペラー3着好走で凱旋門賞につながる期待、3歳エコノミクスが4連勝でG1初制覇
エコノミクスがG1初制覇を達成した愛チャンピオンS 【Photo by Getty Images】
一方、日本から参戦した坂井瑠星騎手騎乗のシンエンペラー(牡3、栗東・矢作芳人厩舎)はゴール前で猛追し3着。次走に予定している凱旋門賞(10月6日、パリロンシャン競馬場)に向けて視界が広がる走りだった。
「すごく厳しいレースでした」
レース後のインタビューで坂井騎手が語った第一声。序盤はダッシュ良く3、4番手の外を確保できたものの、シンエンペラーは頭を高くして走っておりスムーズな折り合いとまではいかなかったか。さらに、中団に控えていたエコノミクスが3コーナー入り口あたりでシンエンペラーの外からかぶせるようにポジションを上げ、続くオーギュストロダンもライアン・ムーア騎手に導かれてエコノミクスの背後をピタリとマーク。これによりシンエンペラーは馬群に閉じ込められる形で最後の直線を迎えることになった。
ただでさえ追いづらい馬群のど真ん中にあり、かつタイトなヨーロッパ競馬らしくシンエンペラーの前方もほどなくして完全にふさがる形に。通常ならばこのままズルズルと後退しても仕方のないところだったが、坂井騎手はあきらめずにわずかな進路を求めて外へと持ち出すと、そこから一気に火がついたようにシンエンペラーは末脚をフルスロットル。勝負から置いて行かれるどころか、凱旋門賞の有力候補にも挙がっている愛ダービー馬のロスアンゼルスに伸び勝ち、エコノミクスから約1馬身差に詰め寄る3着でゴールした。
「もちろん勝てなかったことはすごく悔しいですけど、今回は一流の素晴らしいメンバーがそろっていましたし、凱旋門賞に向けてというところもあったので決して悲観する内容ではなかったと思います」(坂井騎手)
愛チャンピオンSは、ドゥレッツァが5着だった8月21日の英インターナショナルステークスと同じく欧州の中距離(10ハロン)路線の中核をなす大一番。創設は1976年とまだ歴史は浅いながらも、過去の勝ち馬にはサドラーズウェルズ、トリプティク、デイラミ、ジャイアンツコーズウェイ、そして日本でもおなじみのピルサドスキー、スノーフェアリーなど世界の競馬史に名を残す馬がズラリと並んでいる。
さらに、近年は凱旋門賞とのつながりが深くなり、2000年以降に愛チャンピオンSをステップに凱旋門賞を制した馬はディラントーマス(07年)、シーザスターズ(09年)、ゴールデンホーン(15年)、ファウンド(16年)、ソットサス(20年)の5頭。これは本番と同じパリロンシャン競馬場2400m芝で行われるフォア賞、ニエル賞、ヴェルメイユ賞の各アークトライアルよりも多い頭数だ。
そうした背景もあり、今年は出走8頭と少頭数ながらも坂井騎手が語ったように欧州の古馬、3歳を代表する一流ホースが勢ぞろい。そんな相手を向こうに回し、かつ初めて経験する欧州特有の厳しいポジション争いの中で苦戦しながらも最後は愛ダービー馬に先着したのだから、外野としてはジョッキーのコメント以上に内容を高く評価したくなるというものだ。
シンエンペラーは凱旋門賞に向けて視界が広がる走りを披露 【Photo by Getty Images】
「日本が暑かったのでなかなか状態を上げられない中で、フランスに来てから徐々に調子は上がってきたのですが、まだ7割から8割という状態の中で頑張ってくれたかなと思います」
勝ちに来ているので、とトレーナーに笑顔はなかったものの、一方で「次に向けては良いレースだったのかなと思う部分もあります。ウチの馬はダービー以来の休み明けでもありましたし、適性のある馬さえ連れてくれば十分に通用するなという手応えはつかめたと思います」とポジティブな評価。1回叩いた上積みをプラスして次は100%、いや120%の状態での出走となれば……今年の凱旋門賞は日本の競馬ファンにとって楽しみしかないだろう。
そして、シンエンペラーはご存じのとおり先にも挙げた2020年の凱旋門賞馬ソットサスの全弟という生粋の欧州血統であり、矢作調教師自らがフランスのイヤリングセールで購買した当初から凱旋門賞を目標にしていた馬。愛チャンピオンS4着から凱旋門賞を制した兄と同じステップで日本調教馬初の悲願へ、期待は大きく高まったと言っていい。
なお、今回の結果を受けて、レース直後の主要ブックメーカー各社のシンエンペラーのオッズは9~13倍の3~4番人気に上昇している。
一方、今年の愛チャンピオンSを制したイギリスのエコノミクスはシンエンペラーと同じ3歳牡馬で、今回の勝利で通算成績は5戦4勝。初戦こそ4着に敗れたものの、そこから破竹の4連勝で初のG1タイトルを手にした。本格化は来年と陣営は見ており、春は英ダービーの最重要ステップレースであるダンテステークスを6馬身差で圧勝しながらもダービーの初期登録がなかったことからこれを見送って夏・秋シーズンに備えるなど、大事に育てられている。次走は中距離戦線の最後を飾る10月19日の英チャンピオンステークスへの出走を予定。ハイレベルと言われている今年の欧州3歳世代の真打ちとして、エコノミクスの名前を覚えておきたい。陣営の目論見通りなら、来年はさらなる活躍を目にすることができるだろう。
また、追撃及ばずクビ差で敗れたオーギュストロダンだが、レース後にA.オブライエン調教師がジャパンカップに直行する予定であることを明言。英ダービーなどG1・6勝を誇る欧州生まれのディープインパクト産駒が東京競馬場2400m芝を舞台にどのような走りを見せてくれるのか。日本の競馬ファンにとって秋の大きな楽しみがまた一つできた。
文: 森永淳洋
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