東京ヴェルディが目指す海外クラブとの取り組み
東京ヴェルディ株式会社 代表取締役社長 中村考昭 【©TOKYO VERDY】
「パブリッククラブ」に向けて
多くの人々が“ヴェルディ”と交流することでよりパブリックな存在になり、それをクラブの成長にもつなげていく。東京ヴェルディ株式会社の中村考昭 代表取締役社長は、これまで「パブリッククラブ」のビジョンを示してきた。
その事業展開の一つとして、東京ヴェルディは海外クラブとの取り組みを推し進めている。
「経営面も、チーム同様に成長フェーズに入ってきました。その中で、国内だけでなく、海外との取り組みを加速させていきたいと考えています。トップチームだけでなく、日テレ東京ヴェルディ・ベレーザ、アカデミー、そして事業的な側面も含めてのアプローチです。大きく分ければ、サッカーの先進エリアであるヨーロッパ、そして大きなマーケットとしての可能性を模索している東南アジアという、2方向でのアプローチになります」
2024年の海外クラブとの取り組み
5月29日に久保建英所属のレアル・ソシエダと、7月28日には三笘薫所属のブライトン&ホーヴ・アルビオンと親善試合を行った。16年ぶりのJ1で奮闘する現在のチームのキーワードは「成長」。J1での経験が多いとは言えない若手選手が多く所属するだけに、選手とチームが日々成長していくことが日本のトップカテゴリーで生き抜くための必須事項となっている。その中で、多くの観衆を集めた中で欧州の強豪チームと相まみえる経験は代えがたいもの。実際に、この親善試合で自信を深めた山見大登らがJ1のリーグ戦で活躍する機会を得ることにも成功している。
中村社長は、こうした機会を「ヴェルディはつかみに行っている状況」と明かす。
「(マッチメークの段階で)ウチだけに声がかかっている話ではないはずです。話をいただいてから、事前にリスクファクターを消した上で、タイトなスケジュールの中で欧州のトップクラブとの対戦機会を選手に経験してもらう事例になりました。その際の、クラブとしてのリターンも大きいものでした」
トップチームだけではなく、アカデミー組織も海外に目を向けた展開を進めている。
昨季まで所属していたアルハン選手の出身地であるインドネシアでは、2022年から複数のアカデミースタッフを派遣して現地でのサッカークリニック活動を実施した。それにシンガポールの文化社会青年省の法定機関である『スポーツシンガポール(SportsSG)』と覚書を締結し、トップチームに研修コーチを2名受け入れている。
東京ヴェルディのユースチームがスコットランドに遠征する機会も、今夏に設けられた。Jリーグ最優秀育成クラブを史上最多タイの3度受賞してきたように、アカデミー組織がこれまで達成してきた多くの実績が海外クラブにも評価されているのは事実だ。
そしてこの度、スペイン/ラ・リーガ所属のレアル・ベティスと、パートナーシップ契約を締結。両クラブの事業及び競技面のさらなる発展を目的とし、日本とスペイン両国でのブランド拡大のための協業を推進していくという。
レアル・ベティスは地球の気候変動に対してのアクションを考えていく『Forever Green』の取り組みを実施しており、東京ヴェルディも地球環境へ配慮したソーシャルアクションプログラム『TOKYO♡GREEN』を今季から展開してきた。中村社長は「レアル・ベティスは、ソーシャルアクション領域において、ヨーロッパをリードするクラブの一つ。彼らの事例から学びを得て、『TOKYO♡GREEN』の活動により一層注力していく」としている。
今回のクラブ間提携の締結に際して、東京ヴェルディが意識したという考え方はこうだ。
「すべてではないですが、日本のクラブの中には金額を先方に支払うことで得られた提携関係もあったと聞いています。その方法論を否定しているわけではないですが、ヴェルディはその順番では考えていません。クラブの成長のため、またこれから『グローバルクラブ』になっていくために何が必要なのかが最優先。こちら側のリターンがどれくらいあるのかが焦点です。誤解を恐れずに言えば、“ブランドアクセサリー”を買いに行っているわけではないということですね。単なるフレンドシップではなく、戦略をもってアプローチしています」
中村社長が強調するのは、「受け身ではなく、アグレッシブに取りに行く。“実”を得ながら、提携を実現していく」というクラブの姿勢だ。クラブ間提携の際の前例として、他クラブでは欧州のクラブと一緒になってスポンサー営業を行い、“営業代理店”のようになるケースもあった。中村社長は「先方に上納するような枠組みではなく、ヴェルディとしての事業が成長するかどうか。フットボールサイドにもプラスがあるか」を優先すると話している。ヴェルディには中村社長を筆頭に英語で通訳を介さずに交渉ができるスタッフが多く、先方のクラブや関係者と直接会話できることの意味も大きいそうだ。
近年、ホームゲームの観客動員数は倍増しており、やはりJ1に昇格した意味も大きい。ただ、今回の海外戦略は「J1になったから急に始めたのではなくて、J2のときから、現在の体制になってから戦略的に推し進めてきた」と中村社長は語る。それもトップチーム、アカデミー、そして事業面と、海外における多角的な取り組みを行っている。これも特徴だと言えるだろう。
今後のビジョン
「ヴェルディは育成型のクラブです。自前の選手を育てていって、確固たるポジションをつかむプレーヤーを生み出していく。そうしたクラブのDNAやアイデンティティーに合った海外クラブとの話を進めています。私たちはサッカークラブですから、サッカー面でのフィールドが広がり、結果としてスポンサーシップを得られる、ということを目指したいですね」
かつて、経営危機に見舞われた東京ヴェルディだが、今回のJ1復帰と合わせて経営面でのバリューアップを目論む 。
「サッカーは世界で最もグローバルなスポーツであり、選手もどんどん海を越えて移籍している状況下において、クラブだけが1カ国や地域に閉じた存在として居続けることはサッカーにおいてありえない。ボーダーレスな環境で振る舞っていくことは必然的な取り組みであり、言い換えれば、『それができるようになってきた』ということなのかもしれませんね」
クラブが成長、そして進化していくための海外戦略の動向にも、注目が集まりそうだ。
(文 田中直希・エルゴラッソ東京V担当/写真 近藤篤)
多くの人々が“ヴェルディ”と交流することでよりパブリックな存在になり、それをクラブの成長にもつなげていく。東京ヴェルディ株式会社の中村考昭 代表取締役社長は、これまで「パブリッククラブ」のビジョンを示してきた。
その事業展開の一つとして、東京ヴェルディは海外クラブとの取り組みを推し進めている。
「経営面も、チーム同様に成長フェーズに入ってきました。その中で、国内だけでなく、海外との取り組みを加速させていきたいと考えています。トップチームだけでなく、日テレ東京ヴェルディ・ベレーザ、アカデミー、そして事業的な側面も含めてのアプローチです。大きく分ければ、サッカーの先進エリアであるヨーロッパ、そして大きなマーケットとしての可能性を模索している東南アジアという、2方向でのアプローチになります」
2024年の海外クラブとの取り組み
5月29日に久保建英所属のレアル・ソシエダと、7月28日には三笘薫所属のブライトン&ホーヴ・アルビオンと親善試合を行った。16年ぶりのJ1で奮闘する現在のチームのキーワードは「成長」。J1での経験が多いとは言えない若手選手が多く所属するだけに、選手とチームが日々成長していくことが日本のトップカテゴリーで生き抜くための必須事項となっている。その中で、多くの観衆を集めた中で欧州の強豪チームと相まみえる経験は代えがたいもの。実際に、この親善試合で自信を深めた山見大登らがJ1のリーグ戦で活躍する機会を得ることにも成功している。
中村社長は、こうした機会を「ヴェルディはつかみに行っている状況」と明かす。
「(マッチメークの段階で)ウチだけに声がかかっている話ではないはずです。話をいただいてから、事前にリスクファクターを消した上で、タイトなスケジュールの中で欧州のトップクラブとの対戦機会を選手に経験してもらう事例になりました。その際の、クラブとしてのリターンも大きいものでした」
トップチームだけではなく、アカデミー組織も海外に目を向けた展開を進めている。
昨季まで所属していたアルハン選手の出身地であるインドネシアでは、2022年から複数のアカデミースタッフを派遣して現地でのサッカークリニック活動を実施した。それにシンガポールの文化社会青年省の法定機関である『スポーツシンガポール(SportsSG)』と覚書を締結し、トップチームに研修コーチを2名受け入れている。
東京ヴェルディのユースチームがスコットランドに遠征する機会も、今夏に設けられた。Jリーグ最優秀育成クラブを史上最多タイの3度受賞してきたように、アカデミー組織がこれまで達成してきた多くの実績が海外クラブにも評価されているのは事実だ。
そしてこの度、スペイン/ラ・リーガ所属のレアル・ベティスと、パートナーシップ契約を締結。両クラブの事業及び競技面のさらなる発展を目的とし、日本とスペイン両国でのブランド拡大のための協業を推進していくという。
レアル・ベティスは地球の気候変動に対してのアクションを考えていく『Forever Green』の取り組みを実施しており、東京ヴェルディも地球環境へ配慮したソーシャルアクションプログラム『TOKYO♡GREEN』を今季から展開してきた。中村社長は「レアル・ベティスは、ソーシャルアクション領域において、ヨーロッパをリードするクラブの一つ。彼らの事例から学びを得て、『TOKYO♡GREEN』の活動により一層注力していく」としている。
今回のクラブ間提携の締結に際して、東京ヴェルディが意識したという考え方はこうだ。
「すべてではないですが、日本のクラブの中には金額を先方に支払うことで得られた提携関係もあったと聞いています。その方法論を否定しているわけではないですが、ヴェルディはその順番では考えていません。クラブの成長のため、またこれから『グローバルクラブ』になっていくために何が必要なのかが最優先。こちら側のリターンがどれくらいあるのかが焦点です。誤解を恐れずに言えば、“ブランドアクセサリー”を買いに行っているわけではないということですね。単なるフレンドシップではなく、戦略をもってアプローチしています」
中村社長が強調するのは、「受け身ではなく、アグレッシブに取りに行く。“実”を得ながら、提携を実現していく」というクラブの姿勢だ。クラブ間提携の際の前例として、他クラブでは欧州のクラブと一緒になってスポンサー営業を行い、“営業代理店”のようになるケースもあった。中村社長は「先方に上納するような枠組みではなく、ヴェルディとしての事業が成長するかどうか。フットボールサイドにもプラスがあるか」を優先すると話している。ヴェルディには中村社長を筆頭に英語で通訳を介さずに交渉ができるスタッフが多く、先方のクラブや関係者と直接会話できることの意味も大きいそうだ。
近年、ホームゲームの観客動員数は倍増しており、やはりJ1に昇格した意味も大きい。ただ、今回の海外戦略は「J1になったから急に始めたのではなくて、J2のときから、現在の体制になってから戦略的に推し進めてきた」と中村社長は語る。それもトップチーム、アカデミー、そして事業面と、海外における多角的な取り組みを行っている。これも特徴だと言えるだろう。
今後のビジョン
「ヴェルディは育成型のクラブです。自前の選手を育てていって、確固たるポジションをつかむプレーヤーを生み出していく。そうしたクラブのDNAやアイデンティティーに合った海外クラブとの話を進めています。私たちはサッカークラブですから、サッカー面でのフィールドが広がり、結果としてスポンサーシップを得られる、ということを目指したいですね」
かつて、経営危機に見舞われた東京ヴェルディだが、今回のJ1復帰と合わせて経営面でのバリューアップを目論む 。
「サッカーは世界で最もグローバルなスポーツであり、選手もどんどん海を越えて移籍している状況下において、クラブだけが1カ国や地域に閉じた存在として居続けることはサッカーにおいてありえない。ボーダーレスな環境で振る舞っていくことは必然的な取り組みであり、言い換えれば、『それができるようになってきた』ということなのかもしれませんね」
クラブが成長、そして進化していくための海外戦略の動向にも、注目が集まりそうだ。
(文 田中直希・エルゴラッソ東京V担当/写真 近藤篤)
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