【BCC/野球指導者講習会レポート パネルディスカッション②】 監督・トレーナー・医師それぞれの立場から語られる「世界で勝つこと、世界で通用する選手を育てる」とは?

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【©BFJ】

1月20日・21日の2日間、2023年度の野球指導者講習会 (BASEBALL COACHING CLINIC)が行われた。

年に一度行われる本講習会では実技講習や講義に加え、U-12やU-15に携わる方々によるパネルディスカッションが行われた。

吉見一起・侍ジャパントップチーム兼U-12代表投手コーチの基調講演では、”野球を楽しむ”・”自分を知る”ことが大切と語った。

続いては、今山和之氏(侍ジャパンU-15監督)・鈴木哲也氏(侍ジャパンU-12トレーナー)・中澤良太氏(侍ジャパンU-15チームドクター)の3名が登場。

「世界で勝つこと、世界で通用する選手を育てる」をテーマに、育成・強化についてそれぞれの立場からの考えが述べられた。

(文:白石怜平)
(全3回連載の第2回)

※リンク先は外部サイトの場合があります

国際大会で感じた「打たないと勝てない」

吉見氏に続いて講演を行ったのは今山和之氏。宇都宮ポニーベースボールクラブ総監督の今山氏は、公募となった侍ジャパンU-15日本代表の監督に立候補し就任。

昨年8月に中国・山東省威海市で行われた「第11回 BFA U15アジア選手権」で準優勝に輝いた。

本ディスカッションのテーマである、「世界で勝つこと、世界で通用する選手を育てること」について、自らの見解を述べた。

「野球は"投手を中心に"とよく言われますが、私の感覚では『打てないと世界では勝てない』と考えています。それは、ホームランとか劇的な一打などではなく、安定して確率の高い打撃をしないといけないという意味です。
打てないとベンチワークにも影響が出ますし、常に相手を追いかける。そういうゲーム展開になると思います」

(侍ジャパンU-15監督の今山和之氏) 【©BFJ】

では、勝つための打撃をどのように浸透させていくか。今山氏の持つ考え方を披露した。

「安打を打つために技術的なことも当然ありますが、例えば『狙い球はこう定めるんだよ』というように、掘り下げて伝わりやすいようにし、そこから打つ動作につなげていく。
日頃から取り組んでいけば、国内しかり国際大会でも自分たちの思うような打撃ができて勝利につながるのではないかと。投手がいくら頑張っても0-0では勝てないんです」


投手においてはアジア選手権を戦った中で、「日本の選手も引けを取ってない」と感じた今山氏。国際試合では打撃が勝負を分ける現実がある中で、どう指導の中に活かしていくか。自身が心がけていることを明かした。

「反復練習を行う。再現力がなければ確率は低くなってしまいます。安打になりやすい打ち方をすることを考えると、体の動きを10回やって10回できるよう心がけています」

トレーナー・医師が共通して挙げた”自分を知る”こと

続いてアスレティック・トレーナーの鈴木哲也氏にマイクが渡る。鈴木氏は22年・23年と侍ジャパンU-12のトレーナーを務めた。

最初に、2000年代生まれのU-12世代と鈴木氏が当時の年代だった1980年代、そして海外選手との比較を示した。

選手・指導者・保護者の傾向については、以下の図を用いて過去と現在を比較して説明。

(U2020世代と1980年代の違いを投影ベースで解説した) 【©BFJ】

海外との比較についてはウェアや道具の性能と室内練習場の設備面を挙げた。前者は世界トップレベルだとし、後者も過去に比べて発達していると述べた。


最後に、現在の子どもの成長についてデータを交えながら話した。鈴木氏は年齢に加えて成長曲線に応じてトレーニングをやっていくのが良いとし、その意義を加えた。

「大人だけでなく子どもにも共有することでどうやって自分が野球やトレーニングを楽しめるのか、”自分を知る”一つのきっかけにつながっていきます」

(成長曲線も”己を知る”きっかけになる) 【©BFJ】

3人目は中澤良太氏。整形外科医の同氏は、神奈川県の名門・桐蔭学園で甲子園に出場経験がある。

その後は父親が医師であることと、土屋恵三郎監督(現:星槎国際高湘南監督)の勧めで日大医学部に進学。卒業後は東大整形外科の医局を経て、現在は地元山梨県の「加納岩総合病院」で県内のアスリートなどを診療している。

(医療の立場から発信した中澤氏) 【©BFJ】

中澤氏は「育成と強化」において医療側でできることを実績とともに紹介した。

同病院では山梨県の高校野球連盟と協力し、県内全高校の投手を対象に身体機能チェックや肩肘検診などを行っている。

この取り組みにはテーマを設けている(下図参照)。それが今回のディスカッションにある「世界で勝つこと、世界で通用する選手を育てること」との関係についてこう関連付けた。

(同院の取り組みのテーマ) 【©BFJ】

「チェックを通じて、今どういう状況にあるか。自分を知り、そこから行動変容を起こすそのヒントになればと思っています。
選手だけでなく多くの社会人を巻き込んで、様々な形で野球界として進んでいくこと。これが世界で勝つことへのサポートにつながるのではないかと考えています」


また、強化において医療面ではどんなことができるか。技術や選手獲得については介入できないとした上で、以下のように述べた。

「強化したいときにできるような状態にしてあげることだと思います。成長期と成人期における身体構造は大きく異なります。2つのうち、成長期における疾患や障害の啓発を行うことが我々としてできることだと考えております」

成長過程において重要なこととは?

ここからディスカッションに入る。本章でも多く挙がった質問の中で関連性のあるものを紹介する。

日本代表の選手選考においては体が大きいといった早熟の子が選ばれる傾向にあるが、成長過程にある選手へのアプローチはあるか。進行の渡邊幹彦氏は、まず鈴木氏に問いかけた。

「成長過程にあるから選ばないのではなく、例えば身長が伸びている途中であれば、その段階にあることを指導者・親そして本人がまず知ることが重要です。

身長が伸びる時期は体を扱うことが難しくなるはずですので、無理をすると怪我につながる恐れがあります。そういう時期だから、痛みが出やすいし上手くいかないことも出てくると。

自分を知らないとストレスがかかります。知っていれば、成長期が落ち着いてから取り組めばいいなど、目安が分かった方がストレスを軽減できます」

(質問に答える鈴木氏) 【©BFJ】

医療の立場で考えられることはあるか。中澤氏はこう補足した。

「成長線で判断するのは難しいですが、鈴木さんが仰るように知識として持っておくことが重要かと思います。なぜ痛いかが理解できると、次の手を打てることにつながるので、自分を知ることによってどこに伸びしろがあるかが分かります。

病院はそのヒントを与えられる場所でもありますので、我々は指導者の方々とも連携や信頼を築いていきたいと考えています」

その後も指導法から成長過程における知識など様々な角度での議論が行われ、第2部は終了。最後は練習方法や栄養の観点からディスカッションが行われる。
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著者プロフィール

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