【BCC/野球指導者講習会レポート】 侍ジャパン・吉見一起コーチが明かす日本のU-12世代の現在地と今後の伸びしろ

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【©BFJ】

1月20日・21日の2日間、2023年度の野球指導者講習会 (BASEBALL COACHING CLINIC)が行われた。

年に一度行われる本講習会では、実技講習や講義に加え、現場に携わる方たちによるパネルディスカッションが行われた。

本編では、吉見一起・侍ジャパントップチーム兼U-12代表投手コーチを中心に特集する。
(文:白石怜平)

吉見一起コーチがこれまで培ってきた野球観とは

本ディスカッションは「世界で勝つこと、世界で通用する選手を育てること」をテーマに展開された。

パネリストとして登壇するのは吉見一起氏に加え、今山和之氏(侍ジャパンU-15監督)・中澤良太氏(侍ジャパンU-15チームドクター)・鈴木哲也氏(侍ジャパンU-12トレーナー)・伊藤博一氏(帝京平成大学教授)・廣松千愛氏(管理栄養士)の6名。

今回パネリストを務める6名(左から廣松氏・伊藤氏・今山氏・吉見氏・中澤氏・鈴木氏) 【©BFJ】

最初のプログラムとして、吉見氏が基調講演を行った。吉見氏は中日ドラゴンズの投手として、2006年から20年までプレー。引退後は野球解説者やトヨタ自動車硬式野球部のテクニカルアドバイザーを務めている。

22年5月に侍ジャパンのU-12代表の投手コーチに就任すると、昨年10月からは兼任でトップチームの投手コーチを担当している。

吉見氏は始めに、これまでどんな考えを持ってプレーしてきたかを話した。

「私自身、最も大事にしていたのは”楽しむ”ことでした。小学5年生の時に転校して仲間ができて、友達と野球をするのがすごく楽しかった。上手くなりたいという思いもありましたが、友達が野球をしていたから私も始めたのがきっかけで、何より好きなスポーツを楽しむ気持ちで野球をしていました」

基調講演を行った吉見一起氏(侍ジャパンU-12・トップチーム投手コーチ) 【©BFJ】

吉見氏がプロ野球選手を目指したのはいつ頃か。当時考えていたことをこのように答えた。

「子どものころ卒業文集には書いたと思いますが、本気でなりたいというのはなかったです。なぜなら、本気で野球をしている人というのは硬式野球をしているイメージがありました。
私は軟式野球で中学校でも部活動だったので、同世代と比べても勝てるとは思っていなかったです。
意識し始めたのは、高校に進学して結果が出始めたころです。勝ち上がっていくと、学校名や投げた投手の名前・写真が出てきます。新聞を見て、『もしかしてなれるのかな』という思いから野球選手を目指すようになりました」

当時では「プロ野球選手を目指す」というのは、子どもの頃の”夢”として思い描くことが多かったという。高校に上がり「甲子園を目指す」という”目標”の中で練習を重ね、結果を出すことで現実味を感じてくる。吉見氏もその一人だったと語った。


では、吉見氏も指導している現代の子どもたちについてはどうか。今の野球への考えや自身の少年時代との違いについて問われた。

「根本的には一緒だと思います。違いとしては今は情報量が多いことです。たくさんの情報を元に日々試行錯誤しているんだなと、(U-12のコーチの)2年間携わった中で感じたことでした」

現場で実際に見て感じたことを語った 【©BFJ】

講演の最初に「楽しむことを大切にしていた」と語った際、強制されることに抵抗感を抱いていたと付け加えていた吉見氏。

進行の渡邊幹彦氏はそのことに触れながら、U-12世代を世界の舞台で戦える選手に育てるために、どんな意識を持つのが望ましいかを訊いた。

「”自分を知ること”が大事だと思います。相手を知る前に自分がどんな選手になりたいかを明確にする。選手一人ひとり違うと思うので、指導者が相手に合わせてアプローチしていくのが役目だと思います」

異なる立場から議論された「野球を好きであり続けること」

ここからディスカッションを開始した。視聴者や会場から来た質問に吉見氏が回答する。ここでは一部を紹介する。

渡邊氏からは世界と戦ったことを踏まえ、日本のU-12選手が他国より優れている点と今後の伸びしろを訊ねた。

「日本の野球は(世界野球ソフトボール連盟:WBSCが発表する)世界ランク1位ですが、U-12において1番ではないと思います。他国の選手を見ると体格もいいですし、球も速く遠くへ飛ばす力も長けています。なので、技術面ではまだ及んでいないと思います。
ただ試合で見ると、日本の選手は1試合に対する集中力は他の国より勝っていると感じました」

WBSCのU-12ワールドカップで共に戦った鈴木哲也トレーナー(写真右)も聴き入った 【©BFJ】

具体的に吉見氏は、特に選手個人の体格やパワーではドミニカ共和国やベネズエラといった中南米勢のレベルが高いとし、チーム力としては台湾が強いと評した。

「昨年のWBSCのU-12ワールドカップで対戦した際、個人の実力では日本の選手の方が優れていると感じたのですが、チーム力として見ると台湾は細かいプレーもされますし、首脳陣が的確に指示を出して選手を動かしていたのでトータルで見ると日本より上だと思います」

次の質問では会場内でディスカッションが展開された。指導者の一人で、中学生までプロ野球選手を夢見ていたが、周囲のレベルの高さに圧倒され高校1年生で断念したという。

そんな方から、”諦めない心”を指導するにはどんな方法があるかという問いが挙がった。

「周りのサポートが必要ではないかと思います。常に野球が”楽しい”と子どもたちに思ってもらえるようなアイディアを指導者がつくること。練習の中に楽しみやワクワクすることを混ぜていけば、野球を嫌いにはならないと思います。
諦めるということは野球が嫌になったからだと思うので、そういう気持ちにさせないことが大事ではないかと思います」

吉見氏がこう答えると、隣で聴いていた今山氏にも同様の質問が及んだ。

「吉見さんが仰る通り、前提は好きだからこそ頑張れると思います。例えば『もうダメかな』と思った時に、『もう少しやってみようかな』という、その”もう少し”が出てくるのは”好き”という気持ちが残っているからだと思います。小学生・中学生もそこがポイントになってくるのかなと思います」

侍ジャパンU-15監督の今山氏も吉見氏の見解に賛同した 【©BFJ】

今山氏は例外として「怪我で競技ができないという場合は別」と補足した上で、中澤氏は医師の立場として述べた。

「医療側としては治療に来たことによって、今は野球ができない状況だけれども、どんな状態であれば再び野球ができるようになるか・そのためにどうアプローチすれば良いのか。建設的な立場として我々はありたいと考えています。

それが野球を嫌いにならないことに繋がり、怪我を1つの糧として次のステージに行ってくれるのではないか、そんな想いを持って診療するようにしています」

医師の立場としても野球を好きでいてもらえる診療を心がけていると語る 【©BFJ】

20分以上の間、視聴者からの数々の質問が吉見さんに寄せられた。考え方や指導法の他に投手としての技術的な相談も受ける時間となった。

(つづく)
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著者プロフィール

「Homebase」は、全日本野球協会(BFJ)唯一の公認メディアとして、アマチュア野球に携わる選手・指導者・審判員に焦点を当て、スポーツ科学や野球科学の最新トレンド、進化し続けるスポーツテックの動向、導入事例などを包括的に網羅。独自の取材を通じて各領域で活躍するトップランナーや知識豊富な専門家の声をお届けし、「野球界のアップデート」をタイムリーに提供していきます。さらに、未来の野球を形成する情報発信基地として、野球コミュニティに最新の知見と洞察を提供していきます。

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