【浦和レッズニュース】リカルド監督が下した決断の背景にある揺るがぬ信念「浦和は今、偉大さを取り戻している最中だ」

浦和レッドダイヤモンズ
チーム・協会

【©URAWA REDS】

 選ぶという行為は、裏を返せば外すという行為でもある。

 スタメンの11人であれ、試合に臨む18人であれ、30人弱のチーム編成であれ、誰かが選ばれれば、誰かが外れることになる。

 それを決断するのが、監督の仕事である。

 リカルド ロドリゲス監督は、その困難で心の痛む仕事について神妙な面持ちで語った。

「監督というのは日々、何百もの決断を下さなければならない。それは決して簡単なことではありません。練習メニュー、ゲームプラン、メンバーのセレクト……。

 特に選手を選ぶということには感情も絡みますから、心苦しいことも少なくない。その際に心がけているのはフェアであること。チームやクラブ全体にとって何が最適なのかを考えて判断を下します」

【©URAWA REDS】

 サッカーが勝負事である以上、結果が出ないこともある。自身がスタメンから外され、アンフェアだと感じる選手もいるだろう。

 それでも、指揮官はチームやクラブにとっての最適解だと信じて決断を下す。

 だからこそ、常に前を向いて進めるし、選手とも向き合えるのだ。

 この秋、阿部勇樹の現役引退、槙野智章と宇賀神友弥の契約満了が決まった。

 クラブの顔とも言うべき3人の功労者がチームを去ることに、衝撃を受けたファン・サポーターも少なくなかったことだろう。

「何がチームにとってベストなのか、どの道を進むべきなのか、クラブのフロントと徹底的に話し合って決めたことです。すべてにいつか終わりが訪れるのは、人生の掟だと思います。

 世界中のどのクラブを見ても、永遠にプレーできる選手はいません。彼らのこれまでの貢献に心から感謝していますが、チームはこれからさらに成長しながら、中長期的に、目標に向かっていかなければなりません」

【©URAWA REDS】

 中長期的な目標とは、来季のJ1優勝と、近い将来のACL優勝にほかならない。来シーズンはいよいよ3年計画の3年目を迎える。

「浦和は今、偉大さを取り戻している最中です。まだまだ改善点はありますが、私はチームをさらに強くしていきたい。日本、そしてアジアのトップになるためのチーム作りのコンセプトは、"強さ"です。

 世代交代は必要ですが、ただ若さを求めているわけではありません。必要なのは"強さ"。そのための決断を下しました。彼らはこれまでも大きく貢献してきてくれたし、今シーズンの終わりまで貢献し続けてくれると思います」

 指揮官の下した決断を、ドライだと感じる者もいるかもしれない。

 わずか1年弱とはいえ、3人とは濃密な関係を築いていただけに、指揮官にとっても苦しい決断だった。

 11月19日、横浜F・マリノス戦前日に行われた監督会見で流した涙が、それを物語っている。

「アベからは、引退するという報告を受けました。彼は、私が浦和に来たとき、チーム全体を見渡してキャプテンとして最適だと思った男です。どんな人間かわかっているつもりです。常に落ち着いていて、静かなタイプのリーダーでした。

 ケガのためにプレーできないことが多かったですが、ピッチに立っていなくてもチームにプラスの効果をもたらしてくれた。彼の今後についてはできる限りサポートしたいと思っているし、どのような形でクラブに貢献できるのか、ビジョンやアイデアは話してあります」

【©URAWA REDS】

 一方、槙野に関して思い出すのは、日々の会話とふたつの特別なゲームだという。

「彼とは本当に毎朝、会話をしていました。トレーニングのためにクラブハウスを出るときに、マキが話しかけてくるんです。マキのそうしたオープンな性格と笑顔が私は好きでした。それから私の誕生日だった4月3日の鹿島アントラーズ戦で、ゴールと勝利を私に捧げてくれたのは、とても感動しました。

 もうひとつは、YBCルヴァンカップの川崎フロンターレ戦(9月5日)でのゴール。アディショナルタイムに槙野がゴールを決めて、フロンターレを退けることができた。チームの方向性がはっきり見えた試合で、浦和の歴史に残る得点だったと思います」

【©URAWA REDS】

 宇賀神について挙げたのは、その人間性だ。

「ウガも非常に明るい性格で、同時に論理的な思考もできる選手でした。ウガも将来は必ずレッズに戻ってきてほしい人間です。ウガはチームメートのこともよく見ていますし、出場時間がたとえ1分であっても常に全力で戦ってくれる選手です。

 ウガの会社の名前はポルトガル語で『努力』という意味で、彼の人間性をよく表していると思います」

【©URAWA REDS】

 今年1月に始動したリカルド体制1年目もそろそろ終わりを迎えようとしている。新時代への扉を開いた21年シーズンも、残りあと4試合。チームのモチベーションが上がっていることは想像にかたくない。

 理由はたくさんある。

 清水エスパルスとのホーム最終戦に勝ち、阿部、槙野、宇賀神の最後のあいさつに相応しい雰囲気を作ること。

 リーグ2連勝を飾り、少しでも高い順位でシーズンを終えること。

 天皇杯で優勝し、国立競技場でキャプテンの阿部にカップを掲げさせること。

【©URAWA REDS】

「それがアベやマキ、ウガに対するトリビュートになると思います。それにはまず、次の清水戦に勝たなければなりません。先日のマリノス戦ではスタジアムにたくさんのフラッグがはためいていて、美しい光景でした。まだ声を出すことはできませんが、私には声なき声が聞こえました。

 マリノス戦で押し込まれながらも勝利できたのは、ファン・サポーターの後押しのおかげだったと思います。マリノス戦のような雰囲気をもう一度味わいたいと思っています。攻撃的な姿勢とスペクタクルな内容をお届けしたいと思うので、ぜひ、試合を見に、そして3人のスピーチを聞きにきてください」

 改革には痛みが伴うものだ。

 彼ら3人のこれまでの貢献に報いるためにも、有終の美を飾る――。

 それは指揮官だけでなく、クラブに関わるすべての人たちが思い描いていることだ。

(取材/文・飯尾篤史)
  • 前へ
  • 1
  • 次へ

1/1ページ

著者プロフィール

1950年に中日本重工サッカー部として創部。1964年に三菱重工業サッカー部、1990年に三菱自動車工業サッカー部と名称を変え、1991年にJリーグ正会員に。浦和レッドダイヤモンズの名前で、1993年に開幕したJリーグに参戦した。チーム名はダイヤモンドが持つ最高の輝き、固い結束力をイメージし、クラブカラーのレッドと組み合わせたもの。2001年5月にホームタウンが「さいたま市」となったが、それまでの「浦和市」の名称をそのまま使用している。エンブレムには県花のサクラソウ、県サッカー発祥の象徴である鳳翔閣、菱形があしらわれている。

新着記事

編集部ピックアップ

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着コラム

コラム一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント