ジーコTDが知る、ブラジルで花開いたサイクル構築とは。「まいた種を育てなくてはいけない。そのために必要なこと」

鹿島アントラーズ
チーム・協会

【©KASHIMA ANTLERS】

ジーコTDが考える育成年代の重要性とは何かー。
鹿島アントラーズではアカデミー専用グラウンドを建設するためのふるさと納税型クラウドファンディングを10月31日まで実施しており、クラブの礎を築いたジーコTDはアカデミーの重要性を強調する。
アカデミー年代において必要なこと、そして、ブラジルで成功を収めるクラブの取り組みについて、ジーコTDが語る。


――ジーコTDはアカデミーの重要性について、どう考えていますか?

 僕自身、フラメンゴというブラジルのクラブの育成組織で育ちました。クラブとして常に若手の育成に力を入れていて、リオデジャネイロ州のなかでもいろいろな街で選考会を実施していました。非常に人気のあるクラブなので、2000人から3000人の参加者がいて、そこから選抜して選手たちの能力や成長度などを見極めながら育成を進めてきました。たとえばフラメンゴは、1981年に日本で行われた第二回トヨタカップで世界一に輝きましたが、当時のメンバーは僕も含めて12、13名が育成組織育ちの選手でした。これは代表的な成功例として挙げられるのではないかと思います。フラメンゴでは育成に力を入れることで、トップチームに選手を輩出し、育った選手をヨーロッパや他国のクラブに売却することで、クラブとして収入を得てきました。僕自身、下部組織の重要性を肌で感じながら生きてきた一人でもあるんです。

 2012年にフラメンゴで新しい会長選挙がありました。その際に新しい会長候補の方から「ぜひ私のことをサポートしてほしい」と依頼を受けました。僕自身はその条件として、建設途中だったトップと育成組織のトレーニングセンターをしっかりと完成させることを挙げました。その方は見事に新会長に選出され、私との約束どおり、立派な施設を作り上げてくれました。それまではアカデミーの選手たちの着替える場所もなく、プレハブで着替えたりという状況だったのですが、今では立派な施設ができてすばらしい環境が整いました。アカデミーの環境改善をベースに、トップチームの強化、そして移籍による収入の確保というサイクルを作り出しました。ルーカス・パケタ(現リヨン)、ヴィニシウス・ジュニオール(現レアル・マドリード)、ヘイニエル(現ドルトムント)といった世界で活躍する選手が輩出され、プロチームやアカデミーにとって、いかにインフラや環境整備が重要なのかが証明されたわけです。彼らの移籍金収入だけで、フラメンゴは約20億円近くの収入を得ました。僕はアントラーズでもこのようなサイクル構築に取り組むべきだと考えています。今、一番必要なことです。

――今回のクラウドファンディングを実施するにあたり、ジーコTDも携わったブラジルでの実績を参考にしたと聞きました。

 フラメンゴの施設を作るときにもキャンペーンを実施しました。支援してくれたサポーターには、フラメンゴカラーのミサンガのようなブレスレットを返礼としたり、一定額を超えれば寄付した方の名前をネームプレートに掲載したり。それに加えて選手の移籍金の一部を建設費に充てたり、スポンサーが加わったりしたことで進めていきましたね。サポーターを始めとした多くの方々が協力してくれたことですばらしい環境が整い、選手育成やその後のクラブの成長につながっていったのです。

【©KASHIMA ANTLERS】

――アカデミーからトップチームの主力を多数輩出するために、育成年代で大切になることは何でしょうか?

 ある一定の年齢からは、クラブの歴史をしっかりと伝えていかなくてはいけないと思っています。これまでの歩みを知ることで、少しずつ人間的に成熟してくるにつれてクラブに対する愛着や責任が高まり、「プロになるには何をしなくてはいけないのか」を自然と考えるようになっていくのではないかと思います。また、アントラーズにはもともと育成組織から昇格して、トップで活躍して優勝したメンバーもいるので、その事例を若い選手たちにしっかりと説明して映像として見せること。そのようなアプローチが、クラブに対する愛着とプロ意識の向上に繋がっていくでしょう。今でいえば柳沢ユース監督や小笠原TDをはじめ、OB選手がアカデミーを支えています。身近にお手本がいれば、なおさらその形を目指せるようになりますよね。

――ジーコTDもアカデミーから輩出された選手でした。

 僕自身もいろいろなオファーがあったなか、自分が子どものときから応援し、アカデミーで指導を受けたフラメンゴでプレーをしたいという思いを持って選択しました。育成組織で出会った仲間には、フルミネンセやバスコ・ダ・ガマなど、他チームを応援している者もいました。ただ、今ではすっかりフラメンゴサポーターになっています。やはり大事なのは、小さいときからそのクラブに対する愛着を持たせること。それが実現できれば、トップに昇格したときに、ただ単純にサッカー選手としてピッチに立つのではなく、愛情や誇りを胸にプレーするようになります。それはアントラーズでも同じこと。そういったプラスアルファの要素が、試合中のいざというときに発揮されるものなのです。

――それでは最後にジーコTDからアントラーズサポーターへメッセージをお願いします。

 僕はこのプロジェクトに心から賛同するし、どんな形であろうと手助けしたいと思っています。アントラーズを作り上げるにあたり、いろいろな人とともにこの鹿嶋の地に種をまきました。約30年後の今、それらの種がさまざまな実となって今のアントラーズが構成されているわけです。育成組織も同じように、まいた種を育てなくてはいけません。そのためには、水や肥料を与えなくてはいけません。それが施設やグラウンド、指導者になります。その意味で、今回のプロジェクトは非常に重要な取り組みです。ぜひサポーターの皆さんには、「未来のアントラーズを育てる」という取り組みに賛同してもらいたいと思います。アントラーズ はこれまでも、クラブとサポーターが一体となったときにものすごいエネルギーが生まれ、数々のタイトルを手にしてきました。今回もこれまで同様、将来的にはすばらしい結果につながっていくと信じています。アントラーズを愛する方や好きでファンでいる方も含めて、このプロジェクトにぜひ参加してもらい、将来「自分もアントラーズの力になった」という達成感と責任感をともに感じてもらえればと思っています。

――今回のクラウドファンディングの返礼として、年末にスペシャルマッチが予定されています。

 先日も無観客試合が開催されたとき、相手監督が「お客さんがいなかったことが影響したかもしれない」と話していました。それぐらいアントラーズサポーターは大切で、力強さという勇気を与えてくれる存在です。一日でも早く世の中の状況が収束して、多くのサポーターの皆さんと、またカシマスタジアムでお会いできるのを楽しみにしています。僕はサポーターの皆さんが恋しく思うし、クラブも同じ気持ちです。年末に行われるスペシャルマッチが、そのときになるでしょう。ぜひそのときを楽しみにしています!

12/26(日)にスペシャルマッチ開催!ふるさと納税型クラウドファンディング開催中!

【©KASHIMA ANTLERS】

内容:アカデミー vs OBスペシャルマッチ観戦(3万円〜5万円コース)
詳細:アントラーズの伝統をつくりあげてきたOBたちが、将来、アントラーズの選手としてプレーすることを夢みるアカデミーの選手たちと対戦
※チケットの一般販売や動画配信の予定はありません。寄附者限定で観戦できるスペシャルマッチとなります。

開催日:2021年12月26日(日)予定

13:00〜13:30 U13アカデミートレセンvsOB
13:40〜14:10 U14アカデミートレセンvsOB
14:20〜14:50 U15アカデミートレセンvsOB
15:00〜15:30 U16 ユースvsOB
15:40〜16:10 U17 ユースvsOB

出場予定現役選手:遠藤康、土居聖真、町田浩樹、上田綺世、沖悠哉、染野唯月、山田大樹、舩橋佑
出場予定OB:本田泰人、長谷川祥之、秋田豊、名良橋晃、増田忠俊、阿部敏之、熊谷浩二、鈴木隆行、本山雅志、新井場徹、深井正樹、野沢拓也、青木剛、船山祐二、内田篤人、川俣慎一郎、城祐万、市川友也、中村幸聖、根本裕一、鈴木修人、笠井健太、佐藤昭大、當間建文、柳沢敦、小笠原満男、曽ケ端準、中田浩二ほか


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著者プロフィール

1991年10月、地元5自治体43企業の出資を経て、茨城県鹿島町(現鹿嶋市)に鹿島アントラーズFCが誕生。鹿角を意味する「アントラーズ」というクラブ名は、地域を代表する鹿島神宮の神鹿にちなみ、茨城県の“いばら”をイメージしている。本拠地は茨城県立カシマサッカースタジアム。2000年に国内主要タイトル3冠、2007~2009年にJ1リーグ史上初の3連覇、2018年にAFCアジアチャンピオンズリーグ初優勝を果たすなど、これまでにJリーグクラブ最多となる主要タイトル20冠を獲得している。

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