だけん、頑張れた。卓球・古川佳奈美の悔し涙はパリでうれし涙に
【photo by Getty Images Sport】
東京2020パラリンピックの卓球女子シングルス(クラス11/知的障がい)に出場した古川佳奈美は27日、グループリーグ最終戦に臨み、香港の王婷莛に3-1で勝って通算成績を2勝1敗とした。しかし、同成績で並んだ2人の選手に取得ゲーム数で及ばず、グループ3位。各組の上位2名が出場する準決勝には進めなかった。
2戦目のストレート負けから気持ちはうまく切り替えられた
東京パラリンピック・卓球日本代表の古川(写真は第2戦) 【photo by kyodo】
1点を奪うごとに、全身から湧き出るエネルギーを感じさせる大きなガッツポーズ。いつもは冷静に試合を見守る井保コーチが、初めてベンチで飛び上がった。その様子が見えたかと古川に聞くと、笑って「レアですね。(普段は)もう、まったくないです」と答えた。
勝ち上がり条件よりもすべてを出し切ることに集中
知っておきたかったかと記者から問われた古川は「知らなくて良かったと思います。知っていても、知らなくても、変わらない結果だと思います。すべて出し切ると思っていたので、今日が最後の試合と思っていたんで。だけん、頑張れました」と少しずつ言葉に力を込めながら言った。地元福岡の方言が思わず出るくらいの本音だった。
古川は井保コーチが見せた気合いにも、「すごいうれしかったです。最後だから。でも、今日はコーチも気合いを入れると言われたので、すごい良かったです。心強いです」と感謝を示した。井保コーチは、少し目に涙を浮かべながら「今まで(自分は)ベンチで立ち上がったことがなくて。そういうのを見たいと言われていたけど。自然に立ちましたね。初めて立ちましたね」と笑いながら話した。
気持ちを切り替え臨んだ第3戦 【photo by kyodo】
初めてのパラリンピックで自分の力は出し切れた
「3位だけど、出し切ったパラリンピックだったなと思います」
気持ちが浮き沈みをする要素が多くある中で、プレーに集中して力を出し切った達成感がみなぎっていた。 古川が出場しているのは、S11という知的障がいのクラスだ。選手は気持ちや考えのコントロールが難しい場面がある。試合ごとの切り替えもそうだが、試合中は特に自分一人で気持ちや考えを整理しなければならない。
普段は厳しい言葉ばかりだという井保コーチも、「練習通りのプレーもしてくれたし、感動するプレーも多かった」と振り返った。その真意を問うと、「練習でできないところを、本人なりにすごく待って(いた)。ほかの人が見ても分からないくらいの“待ち”とか。そういうのがすごく感じられた。ジーンと来ましたね」と答えた。
古川は気が急くと、それがプレーにそのまま表れてしまうことがある。相手のドライブを待ち構えてブロックしたい場面でも、返球のタイミングを急いでしまう。そんな中で、「待たなければ」と葛藤しながら練習でできなかったことができたのは、今大会の大きな収穫でもあるだろう。
試合に勝利するも、準決勝に進めず思わず涙がこぼれる古川(右)と寄り添う井保コーチ(左) 【photo by kyodo】
「また切り替えて、3年後のパリ、頑張りたいと思います。気持ちは、金メダル。パリパラリンピックは、今の自分より強くなって金メダル目指したい。3年後は、周りも変わってくると思う。自分も対応して変わってレベルを上げていきたいです」
そう覚悟を示した古川は、パリの頂点を目指してコーチとともに再び歩み出す。
edited by TEAM A
text by Takaya Hirano
key visual by Getty Images Sport
※本記事は2021年8月に「パラサポWEB」に掲載されたものです。
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