日本初のボッチャ「金メダル」 杉村英孝、コーチと目指した東京パラリンピックの表彰台
【photo by Jun Tsukida】
いつだって冷静なチームのキャプテン
今大会、試合中に絶叫する姿が何度も見られた 【photo by Jun Tsukida】
メダルを確定させた準決勝後も、平常心を保とうとコメントを差し控えていた。そんなクールな男が、表彰台の中央に上ったこの日ばかりは涙をたたえた。
コーチを魅了した“ビタビタ”の魅せるショット
世界ランキングは2位だが、すべての相手に対して全力をぶつけて勝ち上がった 【photo by Jun Tsukida】
「杉村くんの第一印象は“かっこいい”メンバーのひとりでした。アプローチが驚くほど正確で、ほかのチームの選手とは格が違うんです。個人の名前までは知らなかったのですが、たちまちブラック×ホワイトのファンになりました」
同時に、ボッチャを楽しむ勤務先の利用者を見て「あのすごいチームと対戦して勝ちたい」という気持ちが湧き出たという内藤さんは、施設のスポーツの時間にボッチャを取り入れるなど、この競技とのかかわりを深めていく。
その内藤さんが杉村のサポートをするために国際大会に帯同するようなったのは、2012年のロンドン大会に向かう中でのことだった。
「私はもっとボッチャを知りたい、杉村くんはサポートする人が欲しい。互いのニーズが合致したので、ボランティアで強化合宿に同行するようになったんです」
最初は介助スタッフのつもりだった。だが、2人に共通する「競技としてボッチャを追求したい」という思いはどんどん膨らんでいった。
金メダルを獲得した杉村をたたえる内藤コーチ 【photo by Jun Tsukida】
コーチとともに。二人三脚で強化した日々
人によって違いこそあるが、脳性まひの選手はひとりで試合を組み立てることが難しいと聞く。しかし、ふだん同じ静岡にいる内藤と杉村は、一緒に国際大会に行き、世界の技を体感したことで、「これを習得するには何が必要か」と計算しながら練習を重ねることができたという。
当時、参考にしたのが今回決勝で撃破した強豪タイの練習環境。2人は、話し合いを重ね、練習量を増やし、筋力が弱くて投げられなかったパワーボールも試合で使えるように磨いていくことに決めた。
リオ大会では高い壁となっていタイ勢。試合後、健闘をたたえ合った 【photo by Jun Tsukida】
その杉村は、以前静岡の練習場でこう話していた。
「ロンドンパラリンピックで、コーチと選手が一緒に表彰台に上がってる場面を見たんです。それ以来、パラの舞台で内藤さんと一緒に表彰台に上がるっていうのが僕の最大の目標。もちろんセンターに上がれるようにがんばりたいですね」
今大会は新型コロナウイルス対策により、プレゼンターがトレーにのせて運んできたメダルを、選手本人や競技アシスタントが選手の首にかけている。内藤コーチから金メダルをかけられた杉村は、世界一の笑顔を見せて喜んだ。
text by Asuka Senaga
photo by Jun Tsukida
※本記事は2021年9月に「パラサポWEB」に掲載されたものです。
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