日本初のボッチャ「金メダル」 杉村英孝、コーチと目指した東京パラリンピックの表彰台

チーム・協会

【photo by Jun Tsukida】

東京2020パラリンピック・ボッチャの個人(BC2)決勝戦。第1エンドから杉村英孝が取り組んできたライジングショットを成功させた。リオ大会金メダルでライバルのワッチャラポン・ウォンサ(タイ)の表情が曇っていく。その後も冷静な試合を続けた杉村が5─0で勝利し、自国開催のパラリンピックで金メダルに輝いた。杉村の持ち味である精度の高いショッは、同じ静岡県内に住むコーチと二人三脚で磨き上げたものだった。

いつだって冷静なチームのキャプテン

ボッチャ日本代表“火ノ玉ジャパン”の主将を務める杉村は、個人戦1次リーグを3戦全勝で通過。準決勝ではロンドン大会金メダルのマシエル・サントス(ブラジル)を逆転で下し、決勝の舞台へ。日本チームの選手やスタッフ、そしてアシスタント席で内藤由美子コーチが見守るなか、日本のボッチャ史上、初めてとなる快挙を成し遂げた。

今大会、試合中に絶叫する姿が何度も見られた 【photo by Jun Tsukida】

「対戦相手どうこうより、自分のプレーを心がけること。自分がやってきたことを信じて試合をするだけだと思っていた。それがこの試合でも冷静にできました」

メダルを確定させた準決勝後も、平常心を保とうとコメントを差し控えていた。そんなクールな男が、表彰台の中央に上ったこの日ばかりは涙をたたえた。

コーチを魅了した“ビタビタ”の魅せるショット

杉村は、高校3年のとき、入所していた施設の指導員から誘われてボッチャを始めた。その後、仲間とチーム「ブラック×ホワイト」を結成。地元静岡県の関係者のなかで自球をジャックボールに“ビタビタ”につけるブラック×ホワイトのプレーが話題になっていた。2007年に県のスポーツ大会でそのチームを目撃したのが、沼津市の施設で働く作業療法士の内藤さんだ。

世界ランキングは2位だが、すべての相手に対して全力をぶつけて勝ち上がった 【photo by Jun Tsukida】

以前、内藤コーチに当時を振り返ってもらったことがある。

「杉村くんの第一印象は“かっこいい”メンバーのひとりでした。アプローチが驚くほど正確で、ほかのチームの選手とは格が違うんです。個人の名前までは知らなかったのですが、たちまちブラック×ホワイトのファンになりました」

同時に、ボッチャを楽しむ勤務先の利用者を見て「あのすごいチームと対戦して勝ちたい」という気持ちが湧き出たという内藤さんは、施設のスポーツの時間にボッチャを取り入れるなど、この競技とのかかわりを深めていく。

その内藤さんが杉村のサポートをするために国際大会に帯同するようなったのは、2012年のロンドン大会に向かう中でのことだった。

「私はもっとボッチャを知りたい、杉村くんはサポートする人が欲しい。互いのニーズが合致したので、ボランティアで強化合宿に同行するようになったんです」

最初は介助スタッフのつもりだった。だが、2人に共通する「競技としてボッチャを追求したい」という思いはどんどん膨らんでいった。

金メダルを獲得した杉村をたたえる内藤コーチ 【photo by Jun Tsukida】

コーチとともに。二人三脚で強化した日々

杉村はそれまで体のケアをすることはほぼなかった。そこで、コンディショニングを担当するようになった内藤さんは、2014年には正式なスタッフとして合宿や国際大会に帯同。合宿で学んだことを地元に持ち帰ると、杉村の練習場のある伊豆と沼津を行き来する多忙な日々を過ごすようになった。

人によって違いこそあるが、脳性まひの選手はひとりで試合を組み立てることが難しいと聞く。しかし、ふだん同じ静岡にいる内藤と杉村は、一緒に国際大会に行き、世界の技を体感したことで、「これを習得するには何が必要か」と計算しながら練習を重ねることができたという。

当時、参考にしたのが今回決勝で撃破した強豪タイの練習環境。2人は、話し合いを重ね、練習量を増やし、筋力が弱くて投げられなかったパワーボールも試合で使えるように磨いていくことに決めた。

リオ大会では高い壁となっていタイ勢。試合後、健闘をたたえ合った 【photo by Jun Tsukida】

その成果は、2018年の世界選手権3位、2019年のアジア・オセアニア地区選手権2位という成績にも表れている。世界ランキングも2位に上昇し、東京大会に向けて自信も手にしていった。

その杉村は、以前静岡の練習場でこう話していた。

「ロンドンパラリンピックで、コーチと選手が一緒に表彰台に上がってる場面を見たんです。それ以来、パラの舞台で内藤さんと一緒に表彰台に上がるっていうのが僕の最大の目標。もちろんセンターに上がれるようにがんばりたいですね」

今大会は新型コロナウイルス対策により、プレゼンターがトレーにのせて運んできたメダルを、選手本人や競技アシスタントが選手の首にかけている。内藤コーチから金メダルをかけられた杉村は、世界一の笑顔を見せて喜んだ。

text by Asuka Senaga
photo by Jun Tsukida

※本記事は2021年9月に「パラサポWEB」に掲載されたものです。
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