【新日本プロレス】大張高己社長が語る“コロナ禍の海外戦略”とは?

チーム・協会

【新日本プロレスリング株式会社】

2020年夏、全世界的にコロナウィルスが蔓延する中、アメリカで新日本プロレスワールドの配信限定番組としてスタートした『NJPW STRONG』。放送回を重ねる中で、独自の世界観を確立してきたこの番組。 

5月1日(土)11時〜、番組の集大成ともいえるLA道場勢を中心とした『LA DOJO SHOWCASE』の配信を前に、新日本プロレスの大張高己社長に聞いた“コロナ禍の海外戦略”とは?

『NJPW STRONG』

【新日本プロレスリング株式会社】

※毎週土曜日 午前11時〜新日本プロレスワールドで配信中!

プロレスのビジネスを海外に出てやる時の戦略は「陸・海・空」

※2019年10月21日、新日本プロレスのアメリカ法人設立会見より 【新日本プロレスリング株式会社】

──さて、大張社長。新日本プロレスワールドで配信されている『NJPW STRONG』(以下、『STRONG』)の集大成とも言うべき、『LA DOJO SHOWCASE』という大会を迎えるわけですけど、あらためてこの『STRONG』は、どういう位置づけの番組なんでしょうか。

大張 清野茂樹さんのラジオ(『真夜中のハーリー&レイス』ラジオ日本)に出演した時に、プロレスのビジネスを海外に出てやる時の戦略は「陸・海・空」だと思っていると言ったんですね。

──「陸・海・空」ですか。

大張 まず「陸」は、現地での興行ですよね。次に「海」は商品を出荷すること。そして、「空」は国境を越えていける映像やアプリなどのコンテンツと考えています。アメリカ法人を作った時に考えたのは、まずは創業時と同じように「陸」ありきだったんですよ。

──何はともあれ、まずは大会ありきというか。

大張 ええ。それがエンジンとなって、「海」にあたる会場物販やLA道場の闘魂ショップ化、さらに「空」となる番組販売やアプリの配信、そして新日本プロレスワールドの会員数の増加という狙いを持っていたんですけど、エンジンになるべき「陸」の部分がコロナの影響で普通の形態ではできなくなっちゃった。そこで「TOKON SHOP Global」(闘魂SHOPの海外サイト)と同時に見出したのが、無観客だけど毎週番組を配信するという『NJPW STRONG』のスタイルなんですよね。

──この番組のプランは、現在のアメリカ法人のCOOの手塚(要)さんと大張社長の間で立ち上がったと聞いています。

【新日本プロレスリング株式会社】

大張 そうですね。日本法人の経営企画部長、そしてアメリカ法人のCEOとして、もともと日本と海外、それぞれの興行をどうやって回すかということを両輪で考えていて、会場探しは手塚に現地でやってもらいました。ご存じの通り、以前からアメリカではすでに興行を回していて、現地に社員もいます。だから、大会を定期的に開催し配信するためのスタッフはすでにいて、ノウハウも十分にありました。
 
──コロナ禍の前に、すでに人員や技術的な態勢が整っていたと。

大張 そのスタッフをベースにしつつも、肝となるのは選手の確保ですよね。まずはLA道場のメンバーとアメリカに住んでいる新日本の選手を中心に考えようと。すると出られそうな選手の名前が続々と挙がってきて。この苦境で一緒に戦ってくれるんだと、一体感を感じました。すると、他の団体やフリーの選手でも上がりたいという選手が何人もアプローチしてきてくれて。それで実現したのが今の『STRONG』です。

──コロナ禍の状況に適応しつつ、考え出されたプランというか。

大張 そうですね。配信限定ではありますが、とにかく「試合」というエンジンさえ回せば、様々なコンテンツや楽しみ方が生まれますからね。ちょうど日本もコロナ対策と無観客試合の段取りの時期で、日本とアメリカ、両方でそのエンジンを再始動するのに必死でしたね。

コロナの影響で『STRONG』を作ったことで、逆に“日米並行”の近道になったところもある

【新日本プロレスリング株式会社】

──逆にいえば、やはり大会が止まると動きが止まってしまう危険性があると。

大張 長期となれば危険です。ただ一方で、今回は逆に進んだ面もありました。アメリカ法人を作ったのが2019年の11月なんですけど、2022年ぐらいには日米並行で興行ができるようにしたいと思っていたんです。以前は日本の興行を休んで、選手もこぞってアメリカに行っていたのが基本だったじゃないですか? 

──大挙してアメリカ遠征に行ってましたね。

大張 ただ、レスラーが日本を留守にしちゃうと、今度は日本のファンも寂しいだろうし。設立の3年後ぐらいには興行の“日米並行”ということを考えていたんですね。それがコロナの影響でこの『STRONG』を作ったことで、逆に近道になったところもあるんですよ。

──約1年間、往来が途絶えてしまったことで、想定していたよりも早く“日米並行”の形に近づいたわけですか。

大張 ただ、いまは無観客だから3試合で1時間という番組の形式ができるわけです。これが、お客さんを入れた場合はさすがに3試合で1時間というわけにはいかない。いまはそこを逆手に取っているところもあるんです。そして、毎週の視聴習慣をつけてもらう。カードや出ている選手にとらわれず、まずはその曜日、時間に、番組を観てみようと思ってもらう。観てもらえれば好きな選手ができたり、流れや関係性も理解できる。興行が成立する熱量には近づいてきた気がします。結果的に目標とする“日米並行”への近道になったと考えていますね。

──出場選手はLA道場の選手が中心ですけど、いまやバラエティに富んできて、日本のファンも「この選手は日本に来てほしい」という声が聞かれるようになってきました。

大張 これがアメリカ法人を作った大きな理由なんですよね。新日本のリングはいままで日本にしかなかった。だから、新日本に所属しながら海外で活躍するには他団体のリングに上がるしかなかったんです。逆も然りで、アメリカには新日本のリングがなかったわけだから、アメリカに住みながら新日本に出ることが凄く難しかった。そこに『STRONG』という“中二階のような場所”を作ったことで、集える場所ができたわけです。こういう場所を作りたかったんですよ。それができると、他の団体からも選手が集まってくるし、今まで見たことのない選手や対戦カードが見られるようになります。これが、アメリカ法人設立の際に会見で「ファンの皆様へのメリット」としてご説明したビジョンです。当時はあまり理解されなかったけど(笑)

LA道場勢は、みんながみんな、心も体も技も、すべての面で、とてつもない成長を遂げています。

【新日本プロレスリング株式会社】

──『NJPW STRONG』の中心になっているLA道場のメンバーの成長や、新しく加わった選手たちについてはどう観ていますか?

大張 LA道場は2018年の3月にできたんですけど、いま3年生になっている選手が3人。まあ、カール・フレドリックスはもう卒業してますけどね。クラーク・コナーズとアレックス・コグリンはどちらも3年生。みんながみんな、心も体も技も、すべての面で、とてつもない成長を遂げています。それから新弟子的な感じで、最近加入したケビン・ナイトとザ・DKCがいる。とくに最初の3人は凄いですよね。カールはもうスターのオーラが出てますし、アレックスは超人だと思います。柴田選手には「大きな赤ちゃん」って呼ばれてますし。そして、コナーズは獣みたいなキャラクターですよ。

──クラーク選手は、もの凄く荒々しい面もありますよね。

大張 そう、クールな獣ですよね(笑)。DKCは劇画から飛び出てきたような独特なキャラクターだし、ケビン・ナイトは“ジェット”というニックネームで全身バネみたいな凄い身体能力を持っている。そこに柴田選手が新日本から持っていったイズムを植え付ける作業をしているから、どの選手も末恐ろしいですよ。しかも、成田(蓮)選手までいるわけでしょ?

──現在、LA道場で武者修行中で『STRONG』に参戦中ですね。

大張 成田選手はアメリカにいるのに、どういうわけか、昭和の新日本の薫りをプンプンさせながら進化していますよね。

──LA道場は、そうやって“新入生”が入ったり、“転校生”が来たりしながら戦力がアップしているというか。

大張 成田選手なんかは、いわば留学生ですよね。もともとLA道場を立ち上げた時の思想なんですけど、アメリカに道場があると現地のフリーランスの選手をはじめ、いろいろな人が立ち寄って一緒に練習できる。それこそ、ここでは言えないような選手も来ます。それもLA道場生にとっては凄く刺激になるし、学ぶことが多いですよね。選手にとっては凄く恵まれている環境ですし、もしリングがなかったら生身のレスラーから学び取るって、なかなかできなかったと思うんですよ。

──LA道場が現地にあってこそ、様々なことが実現できたわけですね。

大張 ポイントは、会社と道場ですね。スタッフをフルタイムで雇えてなかったら、興行も難しかったですし、「TOKON SHOP Global」で商品を売ったりもできないですから。試合というエンジンを回すための道場、リング、会社を、もしあの時用意していなかったら、と思うと、ゾッとすることすらあります。

『STRONG』は、お客さんを入れての興行をまずはゴールにしたいですね。

【新日本プロレスリング株式会社】

──そうした意味でも、今回の『LA DOJO SHOWCASE』は、アメリカ法人にとっても、LA道場にとっても、この3年間の集大成というか。

大張 パンデミックの中で、アメリカでひたすら戦い続けてきたんですよ。そして無観客である分、画面越しの皆さんに伝えたいメッセージがあると思うんですよ。だから、世界中のファンの方に、是非、注目してほしいです。そして集大成という意味では、まだ本格的に日本に逆輸入された選手っていないですもんね。カールが『WORLD TAG LEAGUE』に出たぐらいかな?

──2019年に後藤洋央紀選手と組んで出場しましたね。クラーク選手は『BEST OF THE SUPER Jr』に出られる実力を持っていると思いますし。

大張 本格的に日本逆上陸が実現した時の化学反応がもの凄く楽しみです。日本でも毎週見てくれているファンの方がいらっしゃるので、生で見たいんじゃないかなと思いますし。

──SNSでも「『STRONG』に出ているあの選手は、いつ日本に来るんですか?」という声も聞こえてきますね。

大張 『STRONG』の会場は一応非公開になっているけど、アメリカなんですよね。そして、あちらでは金曜日の夜に配信しています。だから、アメリカのファンも見たくてウズウズしているんですよ。

──アメリカでは、コロナ前の生活に戻ろうとする動きが活発化してきました。もしかして、『STRONG』の有観客興行も検討されていますか?

大張 やりたいですね。そこがいまのミッシングパーツなんですよ。毎週試合をする環境があるということはレスラーにとっていいことだし、満ち足りている部分だと思います。でも、棚橋(弘至)選手がよく「プレイ・バイ・イヤー」って言うじゃないですか?

──耳で歓声を聞いて、お客さんの空気を掴みながら試合をするという意味ですね。

大張 いま日本ではお客さんは手拍子しかできないですけど、お客さんの声援や手拍子を聞きながら試合をすることは彼らの成長にとっても大事だと思うんです。だから、『STRONG』もお客さんの前でやりたいですね。

──実現してほしいですね。アメリカのお客さんのリアクションは本当に熱狂的ですから。

大張 もともと『STRONG』という大会の名称は、「コロナ禍の中でも気持ちを強く持とうぜ」っていうメッセージに由来しているんです。もちろん新日本の“ストロングスタイル”というキャッチフレーズも関わってるんですけど、「俺たちが見たかったプロレスがやっと生で見られるぜ!」というのを『STRONG』の一つの出口と考えています。だから、お客さんを入れての興行をまずはゴールにしたいですね。

──では、絶賛検討中ということですか。

大張 やりたいですね! いまはまだタイミングをうかがってます。というのも、アメリカは州によってレギュレーションが違いますから。LA道場は文字通りロサンゼルスにあるんですが、カリフォルニア州は特に規制が厳しいんです。まだお客さんを入れてやるのが難しい。じゃあ、いつそれが解除されるのか? はたまた違う州に出かけて興行をやるのか? いずれにせよ、すぐにたくさんのお客さんは入れられない。そして日本同様にルールを守ってもらえるかなど、コストと感染リスクのコントロールが重要です。でも、先日、アメリカ法人の社員は全員、ワクチン接種をしたとも聞いていて、いよいよという感覚がありますよ。

STRONG無差別級王座の設立は、『STRONG』の新しいステージとして競争の軸をベルトに求めたということですね

【新日本プロレスリング株式会社】

──先週まで『NEW JAPAN CUP 2021 USA』が開催され、かなりの盛り上がりを見せていましたが、このたびSTRONG無差別級王座という新しいベルトも創設されました。ベルトを新設した狙いはなんでしょうか。

大張 『STRONG』はさっきも言ったように、「気持ちを強く持とう」というメッセージをお客さん向けに発信していく番組として始まりました。でも、ここまでシッカリ続いたことで、その中で独自の戦いや抗争も生まれてきた。いままでは『NEW JAPAN CUP USA』や『SUPER J-CUP』などのトーナメントで、その時の一番を決めてきましたけど、『STRONG』というワクの中で争う軸というか、奪い合う“何か”がなかった。でも『STRONG』も独り立ちし始めているし、日本のリングとは別物としての独立性が確立されてきた。この中で序列ができてもいいんじゃないかと。常に目指すもの、「これを持っているヤツが一番上なんだ」とわかる象徴があるべきではないかと思ったんですね。

──ある意味、横一線だったところに大きな変化を加えるというか。

大張 そうですね。『STRONG』は去年の8月、前身となる『LION'S BREAK COLLISION』は昨年7月開始ですから、そこから数えると約10カ月経ちましたし、新しいステージとして競争の軸をベルトに求めたということですね。

──ベルトができたことによって、各選手がベルトに対して、どういうアプローチをしてくるのか楽しみですね。

大張 ええ。TEAM FILTHYとかね。

──TEAM FILTHYは、おもしろいチームですね。まさか、番組内で新しいユニットができるとは思わなかったです。

大張 ああいう軍団抗争もあまり想定してなかったんですよ。ただ、年間で50大会できたらウィークリーのTV番組としても成立するし、そういう意味でも『STRONG』にもチャンピオンはいるべきでしょうね。

──あと、アメリカの主要団体であるAEWやインパクト・レスリング、ROHの選手たちが『STRONG』に上がったりしているので、海外で団体交流が徐々に始まっている感もありますね。

大張 そこは『STRONG』とはまた別の話ですけど、新日本プロレスとしてという話になりますよね。私は、新日本がどこかの団体とビジネスをするから「アナタが行って戦ってきなさい」っていうのは順番が違うと思っているんですよ。いろんなところで申し上げていますが、あくまで選手が主役ですから。「俺はあの選手と戦いたいんだ」という希望、アイツと力比べをしたい、アイツとどっちが強いか決めたいとか、いろいろな選手の思いがあると思います。そうした思いが出てきた時に後押しするのが会社の仕事だと思うんですよ。

──そこはケース・バイ・ケースということですか。

大張 夢を提供し、実現する仕事ですからね。会社が敷いたレールの上をただ「行ってきて」っていうだけではつまらないと思いますし、ファンの皆さんも感情移入できないですよね。

──逆に言えば、『STRONG』という場は、そういう可能性も開かれているということでしょうか。

大張 海外、特にアメリカの選手が「日本で戦いたい」と言っても、いまは簡単には来られないじゃないですか? 来ても隔離されてしまいますし。でも、『STRONG』なら戦えるわけですよ。正真正銘、本物の新日本プロレスがそこにもあるから。だから、「来たい」と希望する選手には門戸を開いて、皆さんには配信でお届けする。あの選手とあの選手のマッチアップが見たいなっていうファンの希望も結果的に実現させていければなと思います。

半ば私の希望でもあるんですけど、日本のお客さんにアメリカでやっているままの『STRONG』を見せたいとも思っています。

【新日本プロレスリング株式会社】

──最後に今後の『STRONG』に期待する部分を教えてください。

大張 『STRONG』は10カ月かけて進化してきました。ベルトもできた。これは半ば私の希望でもあるんですけど、日本のお客さんにアメリカでやっているままの『STRONG』を見せたいとも思っています。まだ、社内的にそんな話は全然してないんですけどね。

──将来的には『STRONG』のパッケージのままの日本上陸も考えていますか。

大張 そうですね。『STRONG』のまま逆輸入して興行をやるのか、あるいは新日本の選手に喧嘩を売りに来るのかわからないけど。私は『STRONG』に上がってる選手たちがどこを向いて戦っているのか、生で感じてみたいです。自分が目立ちたいのか、ユニットを目立たせたいのか、はたまた『STRONG』として日本の新日本にライバル心を持っているのか? もし、選手たちがそういう気持ちを持っているなら、後押しをしたいですし。

──そこは現場の熱次第というか。

大張 ええ。『STRONG』の選手たちがどういう気持ちでやっているのかは知りたいですね。いまアメリカでやっている会場は、入れようと思えば何百人かのお客さんを入れられる会場なんですよ。

【新日本プロレスリング株式会社】

──あの会場でも有観客は可能なんですね。

大張 そこにお客さんを入れるのが一番の近道ですね。そこから始めて、『STRONG』のベルトを持ってアメリカを回るのか、日本に来て新日本の選手たちとやりたいのか、それともチャンピオンが単独で来日したいのか、いろいろ希望を聞いてみたいなと。それこそ『LA DOJO SHOWCASE』を日本のファンの方にも見てもらっての意見も聞きたいですね。粗削りですけど、そこから伝わってくることを感じ取っていただいて。それを画面越しに受け取ったみなさんの意見も、#njpwSTRONGで、ぜひお聞きしたいと思っています。毎週土曜日のSTRONG配信後、Twitterで全部読ませて頂きますので。

(了)
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著者プロフィール

1972年3月6日に創業者のアントニオ猪木が旗揚げ。「キング・オブ・スポーツ」を旗頭にストロングスタイルを掲げ、1980年代-1990年代と一大ブームを巻き起こして、数多くの名選手を輩出した。2010年代以降は、棚橋弘至、中邑真輔、オカダ・カズチカらの台頭で再び隆盛を迎えて、現在は日本だけでなく海外からも多くのファンの支持を集めている。

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