バドミントン全英OPで15カ月ぶりV シダマツペア、躍進の背景に助言と休養

平野貴也

シダマツペアが全英オープンの女子ダブルスを制した 【Photo by Shi Tang/Getty Images】

 2024年夏のパリ五輪で銅メダルを獲得したバドミントン女子ダブルスの志田千陽/松山奈未(再春館製薬所)の「シダマツ」ペアが、2人で臨む25年最初の国際大会となった全英オープンで3年ぶり2度目の優勝を飾った。世界ランク上位を長くキープしているが、国際大会の優勝は、23年11月の中国マスターズ以来15カ月ぶりで久々。志田は「ずっと優勝できない状態が続いていたので、ホッとしている気持ちもあるけど、嬉しかった」と笑顔を見せた。

 全英オープンは、年間に4大会しか開催されないBWF(世界バドミントン連盟)が主宰するワールドツアー最高レベルのスーパー1000。1899年創設と圧倒的に歴史が古く、1977年に世界選手権が創設されるまでは世界一決定戦として行われており、今でも世界中の競技関係者が特別視する大会だ。世界中から集った強豪の誰もが優勝を狙う。その中で、2人は伝統のシャーレを手にした。パリ五輪後のターゲットを、8月の世界選手権に設定している2人にとっては、自信を得られる大会となった。

積極性を増した志田、背景に金メダリスト松友美佐紀の助言

 大会を通して、2人の積極的なプレーが目立った。準決勝では、パリ五輪から5連敗していた「天敵」の劉聖書/譚寧(リュウ シァンシュ/タン ニン=中国)をストレートで撃破した。志田は、常々、リスクをかけて攻撃を仕掛けるのは松山の役目で、ミスなくつなぐのが自分の役目だと話していた。そのため、志田はラリーをつなぎ、松山の攻撃を待つことが多かった。しかし、今大会では、後衛から強打を打ち込むだけでなく、ネット前に出ると、連打で点を奪い切った。前衛を本職とする松山が「志田さんの前衛のプレーは、私にはできないものも多く、ネットプッシュはピカイチ。誰よりも上手だと思う」と称賛する能力がいかんなく発揮されていた。

 背景には、2016年リオデジャネイロ五輪の金メダリストである松友美佐紀(BIPROGY)の助言があった。1月、松山は2週間の休養を取り、志田は松友との即席ペアで国際大会に出場した。志田は「松友さんの隣に立つと、点を取りに行こうとするときに、自分のプレーがワンテンポ遅かった。どこかで気持ちが(ミスを恐れて)守りに入っていた。松友さんもそれを感じて、もっと、点数を取りに行く、自分が全部取りに行くんだという意識でやった方がいいと言ってくれた。(全英OPでは)積極的に行ってミスもしたけど、攻め続けた。そこで何ができるか、できないかも感じた。松友さんと組んでプラスになったことは、これだと思うので、結果として一つ恩返しができたかなと思う」と振り返った。

柔軟性を得た松山「自分の成長が目に見えて分かった」

志田が積極的に攻めたぶん、松山(左)は柔軟性を発揮し、バランスを取った 【Photo by Shi Tang/Getty Images】

 志田がこれまで積極性を抑えていたのは、ペアとしてのバランスを保つためだ。2人がともにリスクを負って攻めに出れば、ミスの確率が高まる。ところが、今大会では松山が柔軟性を発揮。結果的に、見事なバランスになった。松山は「今回は、相手を見ながら、自分のやりたいプレーよりも、相手を動かしたり、相手がどう動いているかを見て球を出したりできた。空いているスペースも見えたし、空間や高さも使えて、自分の成長が目に見えて分かった」と手ごたえを話した。松山の特長は、圧倒的なスピード。高速ラリーに対応し、コート前方からの返球で相手の対応時間を奪う。しかし、準決勝で対戦した中国のペアは、スピードに加えてパワーもあり、打ち返されると押し込まれることが多い。

 負けん気が悪い方に働くと、相手のペースから抜け出せなくなるのだが、この大会での松山は冷静で、相手の勢いをかわす配球を狙った。普段なら強く打ち返す場面で柔らかく前に落ちる球を打ったり、前に突っ込もうとする相手の頭上から背後へ落とす球を打ったりと、相手を翻ろう。決勝戦では、パリ五輪後に日本代表同士で組み替えた福島由紀(岐阜Bluvic)/松本麻佑(ほねごり)の先輩ペアをファイナルゲームの末に撃破。松山は、特長を知っている相手に対策を打たれ、スピードを生かしたプレーは封じられたが、空いたスペースを突いて相手コート奥の角に決まる球を打つなど、状況判断に優れたプレーが多かった。志田が、プレー内容の感想のひと言目に「本当に、松山が強かったなとすごく感じた大会」と言うほど、速さに柔軟性を兼ね備えたプレーだった。

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著者プロフィール

1979年生まれ。東京都出身。専修大学卒業後、スポーツ総合サイト「スポーツナビ」の編集記者を経て2008年からフリーライターとなる。主に育成年代のサッカーを取材。2009年からJリーグの大宮アルディージャでオフィシャルライターを務めている。

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